2009年度第2回研究会

2009(平成21)年度第2回研究会(科研第2回研究会)

本科研の第2回研究会は、2009年12月28日と29日に三重県伊勢市の神宮会館第2会議室で開催され、研究代表者・研究分担者・連携研究者・研究協力者合わせて13名が出席した。

はじめに研究代表者・深沢克己より以下の報告がなされた。まず2009年度予算と執行状況が説明され、つづいて2010年度予算と執行計画の概要が示された。さらに2010年度以降の組織体制が確認され、最後に本合宿の課題として、外国人研究者と各人とのコンタクト状況を報告すること、ならびに2010年春までの課題として2010年度ワークショップ開催計画(プログラムや日程)作成がそれぞれ確認された。

次に西川杉子より2009年度唯一の招聘計画であるグレアム・マードック氏講演会の日時・場所・講演題目に関する報告が行われた。

つづいて2009年6月に開催された本科研第1回研究会に参加しなかった研究分担者・連携研究者・研究協力者4名から各人のこれまでの研究紹介と本科研における研究構想が発表された。黒木英充は、レバノン・シリア地域の宗教環境と社会的特徴、帰一派(Uniate)運動、通訳研究について、これまでの研究成果と近年の諸研究を総合しつつ論点を提示した。那須敬は、1640年代のイングランド内戦をイングランド・スコットランド間で模索された「宗教統一uniformity in religion」の文脈から多角的に検討する可能性を示した。宮武志郎は、これまで取り組んできたオスマン帝国におけるユダヤ教徒コミュニティの形成と変化やマラノ個人家系に関する研究を説明した後で、本科研における研究課題としてユダヤ教徒再生運動と万国イスラエル連合の関係、オスマン帝国末期のユダヤ教徒コミュニティの特性、さらにシオニズム運動と連合派の対立など複数の論点から研究の可能性を論じた。辻明日香は、これまで取り組んできたイスラーム政権下の司法行政におけるズィンミー(ユダヤ教徒・キリスト教諸宗派信徒)の処遇に関する歴史研究を紹介し、本科研では14世紀エジプトを中心に『聖人伝』の記述や聖人そのものを分析して、コプト教徒への迫害状況や日常生活における異宗教間の共存や交流を探る見通しを述べた。

最後にそれ以外の参加者から、今年度の本科研における研究の取り組みと2010年度以降のワークショップ・国際シンポジウム招聘候補者の紹介が行われた。

深沢克己は、18世紀フランスにおける痙攣派ジャンセニストconvulsionnaire の論点を提示した後で、研究招聘候補として予定しているフランス人研究者6名について、所属や研究テーマの説明を行った。齊藤寛海は、ヴェネツィア都市内部および海外でのヴェネツィア人の異教徒および異宗派間の関係を研究する方向性を示した。招聘候補者については、テルアビブ大学のベンジャミン・アルベルBenjamin Arbel 氏の紹介がなされ、堀井と協力して招聘準備を進めることが確認された。西川杉子は、前述の招聘事業に加えて、現在取り組んでいる名誉革命後のイングランドにおける便宜的国教信奉の日常的・社会的側面に関する中間報告をおこなった。堀井優は、カイロ市のアズベキーヤ地区を対象として、ウラマー(イスラーム知識人)とスーフィー(「神秘主義者」)との関係、およびズィンミーの存在形態を研究するために、本年度行った文献収集とカイロでの史料調査を報告した。勝田俊輔は、19世紀初めの連合王国における宗派関係に研究テーマを変更し、19世紀の連合王国共通のアイデンティティとしてのキリスト教界Christianity が生まれてくる社会的・思想的背景を捉えようとする。千葉敏之も研究テーマを変更して、ニコラウス・クザーヌスを研究対象として、彼の思想世界と社会生活にみられる彼の行動原理との連関を考察する可能性を論じた。加藤玄は、南フランスの異端審問記録を分析する中で見出すことのできた複数の論点を提示した。宮野裕は、16世紀前半のロシア正教内部に存在した異見を二項対立的図式を克服して、論争そのものの実体を検討する可能性を論じた。最後に坂野正則は、17-18世紀フランス海外宣教の視点から、ヨーロッパ内部のカトリック刷新運動や異宗派認識と非ヨーロッパ世界における宣教活動との連関に関わる複数の論点を提示した。以上の各人の研究発表については、それぞれ活発な質疑応答がおこなわれ、問題意識の共有と相互理解を深めるのに有益であった。なお、研究会終了後の12月29日午前11時から翌日30日にかけて、岐阜大学の早川万年氏をお招きし、伊勢神宮に関する講義を受けたのち同神宮の巡見を行い、日本宗教史とくに神道史への理解を深めた。

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