2011年度第2回研究会の報告

本科研の第6回(2011年度第2回)研究会は、2011年12月27日と28日に和歌山県伊都郡高野町の宿坊・赤松院で開催され、初日は研究代表者・研究分担者・連携研究者・研究協力者合わせて16名が出席し、2日目は講演のためにゲスト2名を招いて18名が出席した。
はじめに研究代表者・深沢克己より以下の報告がなされた。まず2011年度予算と執行状況が説明され、つづいて2012年度予算と執行計画の概要が示された。特に、本科研の成果を最終年度に総括する場として国際シンポジウムの開催と年末研究会合宿を行うことが確認された。さらに、2012年度の組織体制が検討され、連携研究者および研究協力者の身分変更の可能性について話し合われた。
次に来年度の国際シンポジウム開催計画について具体的な話し合いがおこなわれた。開催期日は2012年10月20日と21日、開催地は国内とされ、会場とする都市についてはいくつかの可能性が提示された。

全体の枠組みについての検討に続いて、科研メンバーのうちシンポジウムで報告を予定する者が構想を発表した。それぞれの担当者は、みずからの専門領域における異宗教・異宗派間の共存、同化政策、改宗、教会合同などの問題を取り上げ、検討の状況を示した。発表に対しては質疑がなされ、シンポジウムでの発表を完成度の高いものにするための助言が与えられた。その後、海外の研究者の招聘を担当する予定の者による招聘候補者の提示と現況報告がなされた。

12月28日午前には、研究協力者の踊共二が、「E・A・ゴードンと仏基同一起源説」 と題する研究発表をおこなった。イングランド出身で1907年に来日し、早稲田大学や高野山で比較宗教研究に没頭したゴードン(1851-1925)の唱えた仏基同一起源説を解説する発表であった。しかし、発表内容は単なる紹介にとどまらず、明治末期・大正期における日本の思想状況にも目を向けるものであり、ゴードンの思想と実践の背景には当時の東洋的・日本的精神文化の再評価と西洋文明を選択的に受容しようという思潮があったことが確認された。
次いで、東京大学大学院教授(インド哲学仏教学)による「他者としての仏教―その多様性―」と題する報告がおこなわれた。これは「他者性」という観点から仏教を捉えなおす試みとしての報告であった。インド仏教に見られる多様性を是認する態度や、近代における仏教統一運動、テキスト研究などにもとづくアカデミズムによる仏教統一運動など、他者性という言葉を手掛かりとした仏教研究の議論は、本科研の研究推進にとって大きな刺激となった。
最後に、高野山大学学長の藤田光寛氏の報告「高野山と真言密教」がおこなわれた。「寛容」と「共存」をキーワードとして、高野山と真言密教の歴史と意義について紹介がなされたのちに、高野山には日本の民間信仰を取り入れた神仏習合の伝統があることと、真言密教の曼荼羅思想がみられることについて解説がなされた。いずれの発表後にも活発な質疑応答がおこなわれ、問題意識の共有が図られた。

研究会終了後の12月29日午後から翌日30日午前にかけて、金剛峯寺をはじめとする高野山の複数の宗教施設を訪問した。密教が街の生活に根づいている様子や、密教が周囲の自然を取り込んで曼荼羅を体現しているというトポロジーを実感することができた。さらに、金剛峯寺境内では丹生明神や高野明神などを確認し、奥ノ院では踊報告でも言及のあった、E・A・ゴードンの墓や彼女の建立した大秦景教流行中国碑の複製を確認するなど、密教一色に思われがちな高野山において、異宗教・異宗派間の融和を看取できる契機が散在していることについて認識を深めた。
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