2009年度第1回研究会

2009(平成21)年度第1回研究会(科研第1回研究会)

本科研の第1回研究会は、2009年6月7日東京大学本郷キャンパスの法文1号館内で開催され、研究代表者・研究分担者・連携研究者・研究協力者合わせて10名が出席した。

はじめに研究代表者・深沢克己より趣旨説明がなされた。まず科学研究費補助金の内定額とその配分方法の原則が示され、つづいて本研究計画の経緯と研究計画の趣旨が呈示された。研究計画の趣旨としては、(1)宗教的他者性の問題を、対立・排除・闘争の側面と同時に、共存・受容・習合の側面からも考察すること、(2)宗教現象を政治史的立場から機能主義的・還元主義的に解釈するだけでなく、宗教性の内面的理解から同時代人の霊的空間を再構成しようと努めること、(3)異宗教・異宗派間の対立を超越し、宗教の普遍的原型への回帰をめざす思想的営為として、秘教思想esoterismeを再評価すること、(4)以上の視点にもとづき、社会学的な受容・排除と、思想論上の相剋・融和とを総合的に把握すること、の4点が提起された。最後に研究計画の実施方針が示され、2009年度は2回の研究会開催、情報発信のためのホームページ作成、次年度以降のワークショップ開催準備に当てること、2010-11年度はワークショップを開催しつつ、各人の研究を進展させ、2012年度に開催予定の国際シンポジウムにそなえること、最終年の2012年度には、国際シンポジウム開催を中心に4年間の研究成果をまとめ、それを英語を中心とするヨーロッパ諸言語による書物として公表することなどが確認された。

つづいて出席した各メンバーが研究構想を呈示した。齊藤寛海は、中近世ヴェネツィアにおける諸宗派共存について、近年の諸研究を紹介しつつ問題を呈示した。西川杉子は、名誉革命後イングランドの寛容令施行が、実際には宗派体制化confessionalizationを進行させた現実を指摘し、その部分的解決として考案された便宜的国教信奉occasional conformityへの関心を表明した。また堀井優は、オスマン帝国史の観点から、(a)ウラマーとスーフィーの関係、(b)帝国内ズィンミーの存在形態、(c)外来者の一般条件、などの研究可能性を論じた。勝田俊輔は、アイルランド近代史におけるカトリック・プロテスタント問題の根本的重要性を指摘し、1830年代の宗派間関係の悪化に注目した。千葉敏之は、中世ヨーロッパの植民運動における宗教的相剋・融和の問題に着眼し、地方教会会議や司教巡察などの記録から問題を再構成する方向を示唆した。他方で加藤玄は、中世後期の南西フランスにおける宗教的少数派として、カタリ派・ユダヤ人・ライ病者・カゴcagots(一種の賤民)を例示し、異端審問記録の史料的価値を再考した。宮野裕は、近世初頭ロシアにおける東方正教会内部の分裂に着目し、ロシア正教会とアトス山・コンスタンティノープル系正教会との対立の意味を考える。山本大丙は、普遍的宗教原理への回帰の一例として、17世紀オランダにおける秘密結社「愛の家」の習合的・融和的な方向性を研究する意図を表明した。最後に坂野正則は、17-18世紀フランス海外宣教の視点から、インドのポンディシェリにおける諸宣教組織と、宗教的「他者」との関係を解明する方向性を示した。以上の研究構想発表については、それぞれ活発な質疑応答がおこなわれ、問題意識の共有と相互理解を深めるのに有益であった。なお2009年度の外国人研究者招聘事業として、西川より提案されたアイルランド・トリニティ・カレッジ講師Graeme Murdock氏の招聘を積極的に推進することが合意された。

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