2010年度第1回研究会

2010(平成22)年度第1回研究会(科研第3回研究会)

本科研の第3回研究会は、2010年7月11日東京大学本郷キャンパスの東洋文化研究所の第2会議室で開催され、研究代表者・研究分担者・連携研究者・研究協力者合わせて12名が出席した。

はじめに研究代表者・深沢克己より、2010年度予算とその配分が示され、つづいて本年度の組織体制が確認された。次に、2010年11月23日(火)に予定されている国際ワークショップの開催計画が話し合われた。まず開催日時・場所・報告者および報告題目が確認され、報告の順序と当日の時間配分が決定された。また、各報告者に1名のコメンテータを付けることが決められ、その人選も完了した。最後に、年度末の第2回研究会合宿を開催することで合意を得た。

つづいて出席した各メンバーが研究の進捗状況を報告した。齊藤寛海は、今夏のヴェネツィアにおける文書館調査の予定とその見通しを示した。黒木英充は、17-19世紀にいたるギリシア・カトリックの系譜をたどる研究計画を提示し、言語・印刷技術・出版文化を軸とした人的・物的交流への関心を表明した。西川杉子は、現在取り組んでいる研究テーマである名誉革命後のイングランドにおける便宜的国教信奉の日常的・社会的側面として、海外のイングランド人居留地における礼拝の事例を複数紹介した。堀井優は、オスマン朝エジプトにおけるウラマーとスーフィーとの関係やズィンミーの問題に関心を示し、カイロのアズバキア地区をケーススタディーとした調査の中間報告を行った。千葉敏之は、フェラーラ=フィレンツェ公会議(1431-1449)について研究し、今回は公会議開催地の思想的土壌・宗教融和や教会合同の思想的背景・新プラトン主義的サークルでの人脈形成に関わる論点を示した。加藤玄は、13世紀後半から14世紀初頭のアキテーヌ公領におけるユダヤ人との共存関係や十字軍のもつ社会的影響力を考察する視点や異端審問記録の史料的価値の再考について見通しを示した。宮野裕は、16世紀前半のロシア正教内部にうまれた異端の生成過程を紹介した。辻明日香は、エジプトにおけるコプトの『聖人伝』写本を収集・分析中であり、そこから複数の興味深い論点を見出しつつあることを示した上で、さらにコプトとムスリムとの関係や西欧キリスト教世界との比較にも視野を広げる見通しを示した。宮武志郎は、19世紀から20世紀初頭における、オスマン帝国のユダヤ教徒内部の対立を、政治的・宗教的・国際的文脈から読み解き、特に国際関係の側面から興味深い論点を見出しつつあると報告した。山本大丙は、16世紀オランダに誕生した「愛の家」運動の研究に取り組んでおり、この運動を率いたヘンドリック・ニコラウスの融和思想を彼自身の人脈やコネクションに注目した考察を深めている。坂野正則は、17世紀フランスにおける「クレメンスの平和」(1668-78)の時期のもつ歴史的意味を再考する。具体的には、聖体の「実体変化」の議論をめぐるフランス篤信家の外交コネクションを用いた国際的活動やその人脈を解明し、当時の教会帰一運動との関係を模索する研究の見通しを述べた。

以上の各人の研究中間報告については、それぞれ活発な質疑応答がおこなわれ、問題意識の共有と相互理解を深めるのに有益であった。

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