2012年度第1回研究会の報告

本科研の第7回(2012年度第1回)研究会は、2012年7月29日に東京大学(本郷キャンパス)法文2号館第三会議室で開催され、研究代表者・研究分担者・連携研究者・研究協力者合わせて12名が参加した。

はじめに、研究代表者の深沢克己より、本年度予算の執行計画と研究組織体制について説明があり、続いて本科研の総決算となる国際シンポジウム(10月20-21日)のプログラムが提示され、出席者により了承された。シンポジウムはヨーロッパ・地中海世界における異宗教・異宗派間の相剋と融和に関する包括的研究に当てられ、2日間にわたり14の報告から構成される。初日は「近世ヨーロッパにおけるカトリックとプロテスタント」を主題とし、二日目は「地中海から西アジアにいたる宗教的多元性」を主題として議論される予定である。

次に海外から招聘される報告者7名について、現段階での報告題目と概要が示された。
(1)ミリアム・エリアウ=フェルドン報告は、宗教改革期のヨーロッパで宗教的融和を唱える思想家たちの検討を通じ、プロテスタントとカトリックの関係を考えようとする。(2)ベンジャミン・カプラン報告は、近世ネーデルラント、リンブルフ州の国境の村ファールスの事例から、諸宗派共存と礼拝実践の実態を解明する。(3)ロバート・アームストロング報告は、17世紀アイルランド内戦時のイングランド・アイルランド間和平交渉と宗派間融和の試みを論じる。(4)グレアム・マードック報告は、支配者が次々と変わる近世サヴォイアの村シュレクスの事例研究から、異宗派共存の日常的現実を考究する。(5)ピエール=イヴ・ボルペール報告は、カトリック枢機卿と在プロイセンのフランス改革派教会牧師たちとの文通と知的交流を通じて、異宗派間の対話と和解への願望が生まれる過程を論じる。(6)マギリナ・イネッサ報告は、サファヴィー朝アッバース大帝が、自らの非正統的イスラーム信仰を基盤として、キリスト教など異宗教に対して開かれた態度を示したことを強調する。(7)レイ・ムアウワド報告は、16-19世紀レバノンにおけるドルーズ派とキリスト教徒との宗教的共生を論じる。

続いてシンポジウムでの日本人報告者で、今回研究会に参加できなかった二名(西川、千葉)の提出した報告概要が紹介され、出席者による検討と討論が行われた。(1)西川報告は、17-18世紀に大陸に居留したイングランド国教徒の宗教実践と、現地における宗教慣行との関わりのなかで、便宜的国教信奉occasional conformityの問題を論じる。(2)千葉報告は、フェラーラ=フィレンツェ公会議における教会合同を思想的に準備した知的集団を再構成しながら、合同に道を拓く「帰還」reductio=改宗という観念に注目する。

さらに続いて、シンポジウム報告者で、今回の研究会に参加したメンバーによる報告要旨の発表とそれに関する質疑応答が行われた。まず(1)堀井報告は、オスマン帝国期カイロの宗教的少数派およびヨーロッパ人を主体とする外来者の法的地位ならびに社会経済的存在形態を論じた。次いで(2)加藤報告は、中世末期ナバラ王国におけるユダヤ人とキリスト教徒住民との対立・共存の複合的関係を論じた。また(3)坂野報告は、「クレメンスの平和」(1668-79年)に前後する時代の宗派間対話の試みを、パリの貴族的社交生活、外交官を通じた東方教会の情報収集、および有力な人物のカトリック改宗の事例を通じて探索した。 (4)辻報告は、聖者伝に登場する「傷ついた男」の解釈を通じて、14世紀後半エジプトにおけるコプトの再改宗問題を論じた。最後に(5)齊藤報告は、近世ヴェネツィア共和国の宗教政策について、ギリシア正教徒、ユダヤ人、プロテスタントに対する諸政策を包括的に検討する必要性を説いた。それぞれの報告について出席者全員で討議した。

今回の研究会により、秋の国際シンポジウムの輪郭が確定され、それに向けた具体的な取り組みが全員により承認された。

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