労働統合型社会的企業の成立と展開に関する社会学的研究 ――社会政策におけるサードセクターの位置

米澤 旦

本論文における、直接的な経験的研究の課題は、2000年代以降の日本国内の労働統合型社会的企業の成立と展開を明らかにすることである。この課題の背景には、サードセクターを社会政策的文脈で捉え直すことが必要であるという問題意識が存在する。そのため、本論の経験的研究は、サードセクターという概念と方法を捉え直す一つの例証として位置づけられる。本論は、序章と結論を含めて十章から構成され、その構成は以下の通りである。

第一章では、本論で主題とする就労支援分野の社会的企業(労働統合型社会的企業)の組織形態を記述すること、いわば本論が位置する問題圏を示すことを目的とする。「労働統合型社会的企業」概念は2000年代以降、サードセクター研究で注目を集めてきたが、NPOや協同組合などと比べて広く知られる組織形態ではない。そのため、第一章では、労働統合型社会的企業が一般的にどのような概念として受容されているかを検討し、その背景となる近年の積極的労働市場政策の展開を確認する。

第二章から第四章にかけては理論的検討を通して、社会政策研究において、どのようにサードセクターやその内部に属す社会的企業などの組織形態を位置づけることができるのか、課題がどこにあるのかを検討する。

まず、第二章では社会政策研究において、「なぜサードセクターが重要な存在であるのか」を検討する。社会政策的文脈でサードセクターの重要性を説いてきた既存の議論を整理したうえで、これまでの研究ではほぼ注目されなかった、社会支出におけるサービス供給割合の高まりとの関連のもとで、サードセクターの存在は重要性を増していることを論じる。さらに、D.Michellらの「福祉の生産モデル」を参照しながら、サービス供給割合が高まる際には、福祉の生産局面での複雑性が増すために、福祉多元主義といったセクター本質主義的な見方ではなく、福祉の生産局面での組織の多様性についての把握が論点となることを主張する。

第二章で提示した主張をもとに、第三章ではサードセクターを分析する枠組みを再検討する。より具体的には、これまでの研究で採用されてきた「強い境界区分」モデル――セクターが何らかの共有された「本質」を持つとする見方――には限界があることを論じ、既存の分析枠組みに代わる有効な分析枠組みを検討する。まず、既存のサードセクターに対する把握の方法を批判的に整理する。国内で主流である、複数の組織形態が同質的な本質を保持することを前提とする「強い境界区分」モデルに問題があることを指摘する。続いて、それに対して、組織群の境界区分と内在的性質を一対一で対応させない「弱い境界区分」モデルを提示する。その「弱い境界区分」モデルに基づく場合に、セクター内部の組織行動の差異を理解するためには研究戦略は複数あり得るが、その一つとして、新制度派組織論のアプローチ、とりわけ「制度ロジック」が複数存在する場としてサードセクターを理解する分析枠組みの妥当性を論じる。

第四章では、サードセクターおよびその部分集合としての社会的企業の経験的研究を進める上で、避けて通れないサードセクターの組織形態の捉え難さについて検討する。社会的企業に対しては、その注目度の高さに比して実際の経験的研究が少ない状況がある。しかし、既存研究では、この要因の検討が十分になされてこなかった。第四章では、この理由を検討し、対応策を提示する。まず、経験的研究の不足が生じる要因については、第一に、サードセクター特有の把握の難しさが顕著に表れる組織形態であることと、第二に、社会的企業概念に固有に付随してきたハイブリッド性という特性に求められることを指摘する。そして、特定困難性問題に対応するためには、第一に、「社会的企業」概念を用いて、制度化され、人々にある程度共有されている組織形態を対象とするか(対象特定の制度的アプローチ)、第二に、対象特定することなく複数の組織形態を覆う概念として利用するか、第三に、研究者による操作的定義を用いるかの、いずれかを採ることがあり得ることを示す。その上で本論では第一のアプローチ――制度化された組織形態を対象とする――を採ることが、社会的企業の経験的研究のために有効であることを主張する。

第五章から第八章は、これまでの理論的検討に基づき、日本国内における労働統合型社会的企業の成立とその行動の論理を分析する。労働統合型社会的企業を対象とした、経験的検討を通じて、サードセクターを社会政策的文脈で検討する重要性を例証することを意図している。

第五章では対象となる労働統合型社会的企業がいかに制度化されたかを検討する。いわば、日本国内で積極的労働市場政策のなかでの労働統合型社会的企業の政策導入と組織フィールドの成立を問うものである。2000年代までにおいても、就労支援分野で活動する事業体は広く存在してきたが、それは社会的企業としては認識され、取り扱われてこなかった。これらの事業体を含め、(労働統合型)社会的企業概念が受容されるようになり、就労支援政策と社会的企業概念が結びつくようになったのは2000年代以降のことである。また、事業体レベルでも、様々な事業体が2010年代になって組織間のつながりを強め、社会的企業として共通のカテゴリのひとつとして多様な組織が含まれて調査対象とされるようになった。これは労働統合型社会的企業の組織フィールド(業界)が半ば構造化されたことを示している。本章では、特に就労困難者一般を対象とする労働統合型社会的企業が一つのカテゴリとして確立しつつある状況を明らかにする。

第六章では、制度化された労働統合型社会的企業が二つの組織形態の類型に区分されることを法制度と事例分析から示す。労働統合型社会的企業に関連した法制度の検討からは、同じ就労困難者を対象とした労働統合型社会的企業でも、異なる価値規範に従って、就労困難者への就労機会・訓練機会を提供する方式を構想、実践していることが示される。本論ではこれらを「支援型社会的企業」と「連帯型社会的企業」と類型化し、個別事例のヒアリングデータの分析を通じて、異なる形での就労困難者への労働への包摂を望ましいと理解していることを明らかにする。そして、「制度ロジック」の視点を用いて、支援型社会的企業と連帯型社会的企業は異なるロジックの組み合わせに依拠していることを示す。

第七章と第八章では、支援型社会的企業と連帯型社会的企業による就労困難者への福祉の生産(就労機会・訓練機会の提供)とその社会的包摂という帰結を検討する。

第七章では、支援型社会的企業がいかに福祉の生産に取り組んでいるのかを検討する。支援型社会的企業の事例として生活クラブ風の村を取り上げ、支援付の段階的就労を特徴とするユニバーサル就労と呼ばれる就労支援を検討する。対象者へのヒアリングの再分析と属性データの分析を通じて、ユニバーサル就労が就労困難者の必要をいかに充足し、充足がなされていないのかを明らかにする。本章の分析からは市場のロジックと専門職のロジックが衝突しつつ、妥協することにより、人々の仕事への包摂がなされていることが示される。

第八章では、連帯型社会的企業がいかに福祉の生産に取り組んでいるのかを検討する。連帯型社会的企業の事例として共同連のある事業体を対象として、従業者へのヒアリングから、職場環境の特徴を明らかにする。ここでは、対等性を重視する民主主義のロジックと事業継続を志向する市場のロジックがせめぎ合うなかで、連帯型社会的企業において、就労困難者と非就労困難者にとって異なる長所と課題が現れていることが示される。そのうえで、働きやすい職場であることと生活維持が可能な生産性を保つことを両立するためには、社会政策関連制度が連帯型社会的企業を補完することが必要であると指摘する。

最後に終章では、これまでの議論を整理し、本論の意義と課題を示す。本研究の理論的検討からは、社会支出のサービス給付の割合が高まるなかで、社会政策による人々の必要の充足の局面をより良く理解するためには、サードセクターの境界の構築性と、組織が依拠する価値規範の多元性を考慮した枠組みが必要であることが示される。分析する上で有効と考えられるのが、「弱い境界区分」や「対象特定の制度的アプローチ」、「制度ロジック」という枠組みである。加えて、本研究の主たる経験的知見は、第一に、労働統合型社会的企業は支援型社会的企業と連帯型社会的企業に類型化可能であること、第二に、両者は異なるプロセスで就労困難者の労働への包摂を試みていること、第三に、その一方で、両者ともに就労困難者に対して、生計維持する状態での就労機会を提供するためには困難が存在すること、とまとめられる。これは労働統合型社会的企業による十分な社会的包摂のためには、何らかの形での補完的な社会政策が必要となるという政策的含意を導くものである。さらに、本論では十分に議論することができなかった、個々の組織や集団のレベルではなく、組織群や組織フィールドといったメゾレベルでの研究蓄積が必要であること、給付だけではなく規制が重要であること、現状の変化を理解するためには福祉国家形成期の福祉国家-サードセクター関係の理解が必要であることを指摘する。

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