職場の性別ダイバーシティの心理的影響: 日本における組織環境の調整効果について

正木 郁太郎

研究背景と課題

2016年現在、日本企業では組織のダイバーシティ向上、中でも性別ダイバーシティの向上が課題となっている。特に組織や職場の構成員の数的比率の観点から、「従業員(または管理職)に占める女性の人数を増やす(性別ダイバーシティを向上させる)」ことは重要な政策課題となっている(cf. 「女性活躍推進」)。

しかしこれに関連する議論は、2016年現在混迷を極めている。中でも「そもそも多様な人が協働することは組織に何をもたらすのか?」「多様な人が協働する組織ではどのようなマネジメントが有効か?」というような、企業にとって重大なダイバーシティ・マネジメントに関する論点には未だ明確な結論が得られていない。

この課題は日本でダイバーシティを扱う学術研究にもあてはまる。日本で「ダイバーシティの研究」と呼ばれるものは、女性の就労支援や意識などに着目したジェンダーの観点からの研究や、ワークライフバランス研究であることが多い。その結果、上記のダイバーシティ・マネジメントに関する論点に十分に答えることが出来ずに現在に至っている。

 

欧米の研究蓄積の歴史と、日本で研究を行う意義

対して欧米ではダイバーシティの研究に一定の蓄積や進展がある。歴史的には、まず「組織のダイバーシティが高まると組織にどのような好影響・悪影響があるか?」というダイバーシティの主効果の研究から始まった。しかしメタ分析などで主効果の正負が一貫しないことから、現在では主効果の研究は「破綻」したとされることすらある。そこで提案された研究の精緻化方針の一つが、「どのような組織・職場のもとではダイバーシティの好影響・悪影響があるか?」という、企業組織のコンテクストを加味した研究である。現在ではコンテクストとして、職務特性や組織風土、リーダーシップなどの様々な要因を検討する研究が少しずつ蓄積されつつある。

他方で、欧米の研究結果を日本に直接援用することには大きなリスクを伴う。日本は他国と比べて、企業の従業員や管理的職位に占める女性の割合が低いというジェンダー・ギャップの側面や、性役割分業の強さという文化の側面で「発展途上」にある。こうした社会の特徴の違いを考慮すると、欧米の研究から得られたダイバーシティ・マネジメントの最適解(e.g., インクルージョンの取り組み)を日本にそのまま援用せず、日本の文化的背景を考慮した再検討を行うことが必要だと考えた。

 

本研究の目的

本研究では日本の企業を対象とした複数の調査データを用いて、「多様な人が協働する組織ではどのようなマネジメントが有効か?」という問いに答えることを目指した。言い換えると、性別ダイバーシティを説明変数、情緒的コミットメントや対人的コンフリクトを目的変数とした場合に、どのような調整要因(コンテクスト)が両者の関係を左右するかについて研究を行った。調整要因としては、①職務特性、②組織風土の2つの組織環境に関する要因に着目した。

理論的な目的には、まず、職務特性・組織風土ともに日本の企業や社会の特徴を踏まえた要因を選択し、日本のコンテクストを考慮した研究を行うことが挙げられる。加えて個別のコンテクストの研究を超えて、研究結果が主効果の理論をいかに改善できるかを提案することも目指した。「特定の調整要因が効果を持つかどうか」「その理由は何か」の研究に終始せず、主効果の理論の「破綻」をどのように改善していくかという、基礎理論に対するフィードバックも見据えて考察を行った。

応用的な目的には、日本企業のダイバーシティ・マネジメントに適した施策やマネジメント方法の提案が挙げられる。今後高まるであろう組織の性別ダイバーシティに関して、日本の文化的背景を考慮した分析枠組みや、有効な施策の提案を目指した。

 

本研究の構造と仮説

上記目的を達成するために、本研究は実証編1(職務特性の研究)と実証編2(組織風土の研究)の二部構造を取った。

実証編1では、日本で重要な意味を持つ「仕事の相互依存性」と「役割の曖昧性」の2つの職務特性が、斉一性への圧力の源泉として機能し、性別ダイバーシティとの間に負の交互作用を持つだろうという仮説を立てた。仕事の相互依存性は、仕事が個人単位ではなく職場単位で進み、従って相互に仕事が乗りあうような特徴を指す。役割の曖昧性は、仕事上の個人の役割や職責が曖昧であることを指す。これらはともに斉一性への圧力と強く関連しており、ゆえに性別ダイバーシティの問題と密接に関わりうる。斉一性への圧力が強い職場では、集団が一体であることを強く求められるために、多様なサブグループの存在が葛藤につながりやすい。対して斉一性への圧力が弱い職場では、サブグループの共存が許容されやすく、従って葛藤につながりにくい。このことから、斉一性への圧力が弱い職場では性別ダイバーシティの向上が心理的な好影響をもたらしうるが、圧力が強い職場では影響が低下しうる(負の影響が強まる)という仮説を立てた。

実証編2では、ダイバーシティに関連したテーマの組織風土を指す「ダイバーシティ風土」の調整効果を扱った。まず性別ダイバーシティに関する日本の政策課題を反映したダイバーシティ風土の下位因子として、①女性登用の風土、②男性優位の風土、③働き方の多様性の風土、④包摂性の風土、⑤男性のマッチョイズムの風土、の5つの因子を仮定した。そしてこれらの下位因子のどれが調整効果を持つかは、調査対象企業における男女の機会平等の程度に左右されうるという仮説を立てた。企業における男女の機会平等は「従業員の女性割合」と「管理職の女性割合」、および両者の比率で把握でき、その企業で男女がどのような期待を持って働いているかと関係している。機会平等が高い企業では男女が等しく働くことが「普通」であると推測されるが、機会平等が低い企業では男女が分業しながら働くことが「普通」であると推測される。こうした違いに応じて、有効なダイバーシティ風土も異なるのではないかと考えた。

 

実証編1:職務特性の調整効果

実証編1では、4社を調査対象とした3つの調査データの分析を通じて、「仕事の相互依存性」と「役割の曖昧性」という2つの「日本的な職務特性」が性別ダイバーシティの好影響を阻害する要因となりうることを示した。

3つの実証研究を通じて、仕事の相互依存性に関して仮説は広く支持され、仕事の相互依存性が低い場合に、性別ダイバーシティの好ましい心理的影響がみられた。役割の曖昧性についてもStudy 2で仮説が支持され、役割の曖昧性が低い場合に、性別ダイバーシティの好ましい心理的影響がみられた。分析にマルチレベル分析を用いたStudy 3でも類似する結果が得られた。このことから、2つの職務特性と斉一性への圧力に関する本研究の仮説は概ね支持された。

 

実証編2:組織風土の調整効果

実証編2では、社会人を対象としたウェブ調査1つと、8社を調査対象とした4つの調査データの合計5つのデータを用いて、ダイバーシティ風土の調整効果を検討した。

まずStudy 4では、ウェブ調査のデータを用いて因子分析や組織制度との関連を分析し、ダイバーシティ風土の尺度構成を行った。

続いてStudy 5からStudy 9では5つの調査データを用いて、ダイバーシティ風土と職場の性別ダイバーシティ(Study 9のみ価値観のダイバーシティも併用)の交互作用を検討した。分析の結果、各Studyを通じてダイバーシティ風土のいずれかの下位因子と、性別ダイバーシティや価値観のダイバーシティの間に交互作用がみられた。しかし、交互作用を持った下位因子の種類は、仮説の通り企業によって異なっていた。

男女の機会平等の程度が低い企業では、女性を優先的に登用・研修する風土の醸成や、逆に男性が仕事負担を負う性役割分業の風土の強化など、男女の間の「差」「違い」を意識した風土醸成が有効だった。その一方で、男女を等しく扱う包摂性の風土は性別ダイバーシティの心理的影響を低下させていた(負の影響を強めた)。これは、機会平等の低い企業では実態として「差」「違い」の大きい男女が働いており、両性が役割分業をしながら働くことが一般的であり、また望まれているためと解釈できる。

他方で、男女の機会平等の程度が高い企業ではこの反対の結果が得られた。男女を等しく扱う包摂性の風土の醸成や、性役割分業の風土の解消が性別ダイバーシティの心理的影響を向上させた(正の影響を強めた)一方、女性を優先的に登用・研修するような風土は影響を低下させていた(負の影響を強めた)。この背景には、機会平等の高い企業では男女の間の「差」「違い」を意識することが稀であり、男女が等しく働くことが一般的であることがあると解釈できる。

 

本研究の貢献

本研究の主要な貢献は、日本の文化的背景を考慮した性別ダイバーシティの実証研究を行い、企業差を含めた独自の知見を見いだしたことにある。日本において典型的であり大きな意味を持つ2つの職務特性、中でも特に仕事の相互依存性は一貫して性別ダイバーシティとの間に負の交互作用があった。これは従来の画一的な組織構成の企業では有効だったマネジメントが、多様化した組織でも有効だとは限らないことを示唆している。組織風土についていえば、企業ごとに異なる男女の機会平等の程度、いわば性別ダイバーシティの「発展段階」に応じて、必要なダイバーシティ風土は異なってくることを指摘した。これは日本社会がいまだに、性別ダイバーシティの観点でいえば、発展途上にあるがゆえに、企業間で置かれている状況の分散が大きいことに由来するのかもしれない。

最後に本研究の限界として、結果の一般化可能性の問題や、他研究領域の研究アプローチとの融合の可能性についても論じた。

 

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