米ケーブルテレビ産業は、40年間に及ぶローカル・モノポリーの下、規制と規制緩和の波を交互に受けつつも、繰り返される料金値上げと加入者の増加をバネにして成長してきたが、1994年にDirecTV、続いて1996年にEchoStarのDBS(DirectBroadcastingSatellite)サービスが登場し、以来2000万人の加入者を獲得したことにより、ビデオ・サービス産業における競争状態を生み出し、ケーブルを「ゼロ成長」時代に追い込まれた。

サービス導入以来、デジタル・ケーブル加入者はおよそ2000万人を達しているが、新規加入者の増加率は、2001年の第3四半期をピークとして下降に転じ、今後、アナログからデジタル・ケーブルへの移行はそう簡単にできるものではない上、現在アナログ・ケーブルの2倍という解約率の下で、デジタル・ケーブルに加入した人々が、そこに留まらず、更にプレミアム・サービス加入者中心にDBSに流出しているという現象が既に生じている。このような一番貴重な顧客の流出は、ケーブル産業の経営基盤が弱まっていくことを意味する。この流出を食い止めるには、VOD(Video-On-Demand)、ケーブル電話、高速インターネット等の新規サービス導入は不可欠であり、その中でVODが最も期待されているが、多くのハードルが存在する。その中で最も大きなハードルは、目下ドル箱となっているホーム・ビデオ市場の収入源を危うくする可能性のあるVODを警戒し、それに対するヒット作リリースに消極的な姿勢をとる一方、デジタル地上波やインターネット等を介して、コンテンツを直接配信する試みも開始して、自らの主導権確保に力を入れ始めている映画スタジオの動きである。
更に、夜間等にDBS業界が積極的に推進しているPVR(PersonalVideoRecorder)に映画を蓄積させておくことによって、事実上(ケーブルを介した)VODサービス近いDBS側で構築することが可能になっている。また、DVDが異例なペースで普及し、高音・画質のパッケージ・メディア系コンテンツ配信プラットフォームとなり、遅いウィンドーのハンディキャップを背負っているVODの将来を不確定にしている。
次に、DBSに対し、ケーブルはブロードバンドと電話サービスにおいて優位に立っていることは事実だが、DBSも、農村地域向に双方向ブロードバンド・サービスの展開を図ると共に、地域電話会社との提携により、ビデオと電話/ブロードバンド・サービスとをバンドリング提供することにより、ケーブルとの競合力を高めつつある。

今後、農村地域ではケーブル・システムの衰退、場合によって全滅の可能性が高く、また、都市郊外と都市部でも、DBSの更なる浸透によってこれら地域でのケーブルの事業基盤を弱めることに繋がるであろう。DBS事業者と地域電話会社間のアライアンスの行方に掛かってくるが、これら二つの巨人が全面的に手を組んだ場合には、ケーブル側の最後の牙城としてのメガMSOの衰退さえも予想される。