信念のスタティクス、信念のキネティクス-ベイズ主義の正当化への試論-

鈴木 聡

我々は、新しい情報に接したとき、その情報に基づいて、それぞれの信念状態を別の信念状態へと変化させる。このような我々の信念状態および信念変化を表現する方法のうちで最も典型的な方法の一つにベイズ主義がある。ベイズ主義は次の二つの大きな原則を持つ。

(P1)信念状態-確率関数の原則:任意の合理的な信念状態は確率関数によって表現されうる。
(P2)信念変化-条件付けの原則:任意の合理的な信念変化は条件付けによって表現されうる。

第1章において私は、(P1)の変種を正当化するため、確率を信念の度合と同一視する立場である確率の主観説を、信念の度合が確率計算の公理を充たすことを証明することによって正当化しようとした。この正当化を行うためのものの中で最も典型的なものの一つはダッチ・ブック定理である。しかし、ダッチ・ブック定理の証明は、適正価格関数についての共時的独立性という一般には成り立たないことを前提してしまっている。確率の主観説を正当化するために、私は、ラムジーの手法を手本とし、合理的な意思決定において成り立つべき選好関係についての13個の条件(公理S)を前提し、選好関係を利用して効用についての関係を定義し、更に、効用についての関係から信念の度合を定義し、そのように定義された信念の度合が実際に確率計算の公理を充たすことを証明した。

第2章において第一に、私は、(P2)の変種を正当化するために、条件付けの特性を明らかにし、条件付けを正当化しようとした。条件付けを正当化するためのものの中で最も典型的なものの一つは条件付けに対するダッチ・ブック定理である。しかし、条件付けに対するダッチ・ブック定理は、適正価格関数についての共時的独立性だけではなく、適正価格関数についての通時的独立性という一般には成り立たないことを前提してしまっている。では、どのようにすれば、条件付けを正当化できるのだろうか。確率関数がそれらを充たすときかつそのときのみ条件付けが適用可能であるような条件を求め、これらの条件を求めることが条件付けの一種の正当化であると考え、実際、確実性条件および相対的な固定性条件という二つの条件がそれらの条件に当たることを示した。この正当化の議論によって、(P2)は次の(P2-b)へと修正すべきであることがわかった。

(P2-b)修正版-信念変化-条件付けの原則:確実性条件および相対的な固定性条件を充たす信念変化、そして、それらのみが条件付けによって表現されうる。

第二に、私は、条件付けを一般化したジェフリー条件付けの特性を明らかにし、ジェフリー条件付けを正当化しようとした。ジェフリー条件付けを正当化するためのものの中で最も典型的なものの一つはジェフリー条件付けに対するダッチ・ブック定理である。しかし、ジェフリー条件付けに対するダッチ・ブック定理は、条件付けに対するダッチ・ブック定理の場合と同様の理由で認められない。では、どのようにすれば、ジェフリー条件付けを正当化できるのだろうか。或る前提条件の下で乍ら、確率関数がそれらを充たすときかつそのときのみジェフリー条件付けが適用可能であるような条件を求めたい。これらの条件を求めることが条件付けの一種の正当化であると考えたい。実際、極値条件が前提されれば、《ジェフリー条件付けが適用可能であるのは相対的な固定性条件が充たされるときかつそのときのみである》と主張することができる。

第三に、私は、ジェフリー条件付けの変種であるフィールド条件付けの特性を明らかにしようとした。

最後に、私は、相対的情報量最小の原理の特性を明らかにしようとした。相対的情報量最小の原理は非常に一般的な原理であり、条件付けおよびジェフリー条件付けをその特殊な場合として含む。そこで私は、どういう場合に相対的情報量最小の原理が条件付けと同じ結果を齎し、どういう場合に相対的情報量最小の原理がジェフリー条件付けと同じ結果を齎すかを示した。ファン・フラーセンは、JB問題と呼ばれる有名な例を、相対的情報量最小の原理に対する反例として挙げ、相対的情報量最小の原理批判を行った。しかし、私は、彼が依拠している第一階通時的確率空間よりも私が提示した第二階通時的確率空間の方がJB問題の確率空間として相応しいことを示すことによって、彼の批判が正当でないことを示した。

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