古典インドの祭式行為論 −Mimamsaのbhavana論研究−

片岡 啓

筆者は,始めに,ミーマーンサー研究の現状と問題点・課題を明らかにするために,第一章「序論」で,先行研究を中心に取り上げた.まず,ミーマーンサー思想史をめぐって繰り広げられたジャーとクップスワーミ・シャーストリーの論争を端緒に,現在に至るまでの主要な研究を振り返る(1.1).その中で,ミーマーンサーにおける行為論の中心的位置や輪郭も,おぼろげながら,読者に明らかとなるだろう.次に,本研究が扱う註釈者シャバラ・スヴァーミンと復註釈者クマーリラ・バッタという両思想家に関わる先行研究と年代論を取り上げる(1.2--1.5).従来,ミーマーンサー研究史全体の概観という作業は,Clooney[1990]に限定的に見られるのみである.したがって,本章が掘り起こす研究史の流れは,多く,筆者独自のものである.また,シャバラやクマーリラの先行研究概観という作業も,その全般に渡るものは,これまで皆無である.

ミーマーンサーの基本典籍であるシャバラ註とクマーリラ復註は,膨大な量を有し,一度に全てを研究するわけには行かない.全体に目を配りながらも,中心的なものから順次進めていくのが,思想史構築という当該目的のためには最も有効である.先行研究概観の中で,おぼろげながら,その中心的位置が明らかになってきた行為論を筆者は主題に据えた.このような捉え方は,クマーリラの《生じさせる働き》論を取り上げたFrauwallner[1938]にも支持される.シャバラとクマーリラの《生じさせる働き》論,そして,そこに至るまでの思想史の流れを明らかにすること,すなわち,「ミーマーンサーの祭式行為論」研究が,筆者の中心課題である.

第二章「原典研究」では,まず,《生じさせる働き》論研究の基礎となるべき当該シャバラ註(ad2.1.1--4)とクマーリラ復註(ad2.1.1--4)について,先行出版批判(2.1)の上に,それぞれ,十四写本,八写本を用いて批判校訂した(2.5,2.6).写本資料は,いずれも,従来未使用のものである.また,批判校訂に必要な写本相互の関係も明らかにした(2.4).このような作業は,校訂作業に不可欠であるにもかかわらず,従来のミーマーンサー研究では,疎かにされてきた部分である.

第三章「訳注研究」では,上で確立した信頼すべきテクストの上に,訳注研究を行った.まず,作品構成を明らかにするために,詳細な科文(synopsis)を作成した(3.1,3.4).ミーマーンサーという学問体系全体に留意しながら,部外者には煩瑣なテクニカルな部分には詳細な註を加え,正確な和訳を心がけた(3.2,3.5).また,科文で見た作品構成から浮かび上がる作者の意図も別個に論じ,個々の文脈把捉を確実にするよう努めた(3.3,3.6).その結果,文脈からはみ出す不自然な部分について,失われた先行註釈からの影響も指摘できた.

第四章「思想史研究」では,シャバラとクマーリラの《生じさせる働き》論確立に至るまでの軌跡が明らかとなるよう,思想史研究を行った.まず,スートラや,シャバラ註の記述をもとに,バーダリとジャイミニという先師の古説を再構成した(4.1,4.2).また,その古説からシャバラ註までのギャップを埋めるべく,現在全く失われてしまった著作に展開されたと思われる或るミーマーンサー学説を,他学派からの批判など,散在する文献資料断片から再構成した(4.3).「ダルマ開顕説」と仮に筆者が名付けるものが,それである.以上の行為論史の上に,シャバラとクマーリラの《生じさせる働き》論を位置づけた(4.4,4.5).バーダリからクマーリラに至る行為論の流れを追った結論(4.6)は,そのまま,ミーマーンサー思想史全体を占う中心軸となろう.

以上,原典研究,訳注研究,思想史研究という三つのレベルに渡る文献学的研究によって,ミーマーンサー思想史を描くための基礎を築くのが,本論文の意図するところである.

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