現代韓国語の先語末語尾-겠-の研究 ―その機能と多義構造―

全 恵子

本論文は、現代韓国語の先語末語尾-겠-の機能とそれがもたらす多義構造を、形態素の機能とそれを含んだ文の意味を区別して論じ、その構造がどのようにして多様な文の関連性を維持しているのかを体系的に記述したものである。

 以下、各章ごとに本論文の概要を述べる。

まず、第1章では本稿の目的と研究対象及び研究方法について述べた。

第2章では先行研究を概観し、従来の研究で何が明らかにされたかを考察しつつ、既存の研究で見過ごされたことや問題点について検討した。

第3章では、-겠-の文法範疇について述べた。テンスとテンポラリティ及びムードとモダリティに関する諸説を示しながら、本稿においては-겠-をムードの文法範疇で捉えるべきという立場を明らかにした。

第4章では、話し言葉を転写した発話データの計量作業とインフォーマントによる内省調査を行い、-겠-と他の語尾との結合関係及び共起関係についての観察を通して-겠-の出現環境を調べた。

その結果、-겠-は冠形詞形語尾と名詞形語尾に結合しづらいことから体言を修飾することに関わりにくいこと、形態的には-ㄹ-で始まる語尾とほぼ結合制約があること、そして特定の意味機能に関わる語尾と結合制約があることなどがわかった。これらの結果は先行研究における結合制約に対する反証の根拠ともなった。さらに、-겠-を含む複文では、条件を示す先行節と-겠-との共起性が高いことを明らかになった。

第5章では、-겠-が用いられる叙述形の文を文法的基準から用法を分類し、文の意味と形態素の機能を区別して論じた。

その結果、まず、-겠-が用いられる叙述形の文は、主体、結合する用言の種類、他の語尾との結合制約、テンポラリティという文法的基準に照らすと4種類の型に分かれる。これら文法的特徴はそれぞれの型の文の用法においても違いがあり、意志を述べる用法、予告する用法、命題に確実性を認識して述べる用法、発話時に主体が置かれている状態を述べる用法として分類できる。便宜上これらの型の文をⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型、Ⅳ型と称した。

そして-겠-には、Ⅰ型からⅣ型の文を通して「未来性」「確実性」「婉曲性」をもたらす役割があり、これらは互いに排除することなく文の意味の実現に関与することがわかった。「未来性」と「確実性」は、事態を「非現実」のものと捉えた述べ方であり、文の意味の実現に「現実」に対する「非現実」という文法的な対立をもたらす文法的機能である。一方「婉曲性」は、事態を間接的に述べるものであって、文の意味の実現において文法的対立に直接関与しない語用論的機能であり、この「婉曲性」は丁寧さ、曖昧さ、誇張表現、主体の感情を慮るという4つの語用論的効果をもたらすことを明らかにした。さらに-겠-を用いた文には「現場性」と「主体の固定性」という2つの特徴があることを確認した。

 第6章では、-겠-が用いられる疑問形の文を「普通疑問」と「特殊疑問」に大別して、「普通疑問」は叙述形にならって用法を分類し、「特殊疑問」は文の意味的側面からさらに詳細に下位分類して論じた。

その結果、疑問形の文の「普通疑問」を叙述形と同じ文法的基準に照らすと、聞き手の意志を尋ねる用法、命題に確実性を認識しているのかを尋ねる用法、発話時に主体が置かれている状態について尋ねる用法として分類できる。便宜上これらを叙述形に準じてⅠ型、Ⅲ型、Ⅳ型の疑問形と称した。そして-겠-は、Ⅰ型、Ⅲ型、Ⅳ型の文を通して、文の意味の実現に「未来性」と「確実性」をもたらす文法的機能を有し、異なった次元で派生的に「婉曲性」をもたらす語用論的機能も備えた形態素であることがわかった。さらに、-겠-を用いた文には「現場性」と「主体の固定性」に加えて、疑問形特有の「前提性」という特徴があることを明らかにした。「特殊疑問」においては、下位分類される確認要求の用法、及び疑念の用法における-겠-には「非現実」を表す機能があることを述べた。修辞疑問における-겠-の機能は明らかにするには至らなかったものの、用例の観察を通して、-겠-を含んだ文が反語として現れにくい発話状況、「名詞/名詞句 + 아니겠-?」の形態では判断が成立していない事態の確認要求がしにくいこと、特定の文において-겠-がなければ修辞疑問として成立しなくなることを指摘した。ここでは、従来の研究において見過ごされてきた疑問形における-겠-の詳細な分析と考察を通して、-겠-の新たな機能的、意味的側面を示した。

第7章では、叙述形と疑問形を対照させて、-겠-の機能や特徴の現れ方を整理した。

その結果、-겠-は叙述形と疑問形において文の型の種類や機能、あるいは文に現れる特徴などが必ずしも並行的ではないことがわかった。また叙述形と疑問形の両形式を、文の型ごとにそれぞれ文法的結合制約及び共起の関係からさらに下位分類して、一々文として成立しうるかを確認し、叙述形に比べて疑問形が成立しづらいこと、そして疑問形が成立しない文法的条件も詳細に示した。

第8章では、-겠-を含んだ文に現れる特徴である「現場性」「主体の固定性」「前提性」について詳しく論じた。その結果は以下の通りである。

まず、「現場性」とは、文の意味に「発話時に・発話現場で」というニュアンスをもたらすということである。この特徴はⅢ型の文においては、話し手が事態に高い確実性を認識するための情報の出所が発話時、発話現場における直接体験という「証拠性」に依拠していると考えられる。そのため、「現場性」を持たない一般的真理や普遍的事実や習慣的な事柄を語る文に-겠-は用いられない。次に、「主体の固定性」とは、文に明示されていない主体が、叙述形においては「話し手」であり疑問形においては「聞き手」であることが固定していることである。「主体の固定性」は、発話現場の対話参与者の主観が発話に塗り込められるために現れるものであり、これは「現場性」という特徴から2次的に導き出されたものと言えよう。

そのうえで、「発話時に」「発話現場で」「話し手」を、それぞれ「時間」「場所」「人称」

を示す直示的表現と捉え、-겠-は、命題が「発話時に・発話現場で・話し手が」という発話現場に依存していることを指し示しうる直示的機能を備えていることを論じた。加えて、-ㄹ 것이-との比較を通して、-겠-を含んだ文は発話現場に判断根拠がない場合には出現しない制約があることも明らかにした。

最後に、「前提性」とは疑問化された命題に対する話し手の予測のことを言い、疑問形だけに現れる現象である。この現象は、「現場性」という特徴を持つ-겠-が、話し手によって事態に対する予測を塗り込んで疑問化されるときに、否定的「前提性」を持った疑問となって聞き手に問いかけるという語用論的効果をもたらすものである。ただし、特定の疑問詞との共起、聞き手の判断に委ねる場合、特定の語彙的意味を持つ用言など、一定の条件を備えると消失することがわかった。

 第9章では、本稿で論じたことを要約し総括した。

 

以上、本論文の各章において論じたことから、現代韓国語の先語末語尾-겠-は、「非現実」を表すムード形式として用言に結合し文法的装置となり、文の意味の実現に「未来性」「確実性」というモダリティ的意味をもたらすとともに、「非現実」を表す文法的機能が語用論的機能として援用されて「婉曲性」をもたらす形態素であることがわかる。さらに-겠-は文脈の中で「時間」「場所」「人称」を指し示す直示的機能も備えており、その機能が働いたときに「現場性」や「主体の固定性」が文の意味の特徴として現れ、疑問形においては、「現場性」に起因した「前提性」という特徴が疑問形特有の現象をもたらすということも明らかになった。-겠-は本来の文法的機能とそれが援用される語用論的機能、さらに直示的機能という3つの機能を有し、これらが複合的に作用しあって、文法的現象、語用論的効果、さらには談話レベルにまで拡張されて文の意味の成立に影響を及ぼす形態素である。このように異なった次元の機能を備え持った形態素-겠-が、さまざまな文法的要件や文脈の中でその機能を多元的に果たすことによってかくも多様な文の意味を実現させ、これら機能の複合的作用こそがその多義構造を支える要因であると結論付けられる。

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