定年退職者の社会参加のマイクロ・マクロモデルの構築

片桐 恵子

本研究では、社会参加をRowe&Kahn(1997,1998)のサクセスフル・エイジングの第三の基準である「人生への積極的関与」を実現する手段として位置づけ、特に大都市の男性で進んでいない社会参加を促進する要因を検討することを目的としている。
社会老年学の系譜において社会参加活動の定義は曖昧であり、かつ広範な活動内容を包含し、分類は単に外形的に行われてきた。モデル化されるほど社会参加の規定要因は研究が蓄積せず、どのような社会参加活動がどういう結果をもたらすのかということが整理されてこなかった。
よって、本研究では、サクセスフル・エイジングの第三の基準の2つの下位概念「他者との交流」「生産的活動の維持」の実現度と社会的効益性の観点から社会参加活動を4分類する「社会参加活動4分類モデル」を提案した。このモデルは無活動状態(レベル0)、一人でする趣味活動(レベル1)、グループ活動(レベル2)、社会貢献活動(レベル3)と分類した。このレベルには、心理的要因として「利己的志向」「ネットワーク志向」「社会貢献志向」が関連しており、レベルによってその高低が異なると仮定したモデルを提案した。
質的調査と量的調査を組み合わせたMixedMethodを採用し、質的調査(調査1)と2つの量的調査(調査2,調査3)のデータを用いて研究1から研究8までを実施した。調査1は首都圏のシニア・グループ、NPOの50~70歳代の参加者26名に実施したインタビュー調査。調査2は練馬区と茅ヶ崎市の60歳代の有配偶者の男性を層化2段階抽出し、男性とその妻を対象に2002年に調査を行った。調査3は全国縦断調査であるJHRS(東京都老人総合研究所が中心に実施した縦断研究)のデータの二次分析を行った。研究1と研究2は社会参加活動とは何かについて、研究3~研究5は社会参加の促進・阻害要因について、研究6~研究8は社会参加の結果の効果について検討した。
研究1では、社会参加活動に3つの志向性が関連していることを確認し、3つの志向性と社会参加活動の定義を行った。さらに定年退職者の特徴と思われる健康志向や、地域密着志向等を析出した。研究2では、社会参加4分類モデルを検討し、仮説通りレベルによって志向性の高低差があることを示した。POSA分析により、男性では約9割の人がレベル0からレベル3までモデルで想定した通りの一次元上に位置づけられることを明らかにした。
研究3は調査1のデータにM-GTA(木下,2003)を適応して促進・阻害要因を析出し、社会参加促進・阻害モデルを提案した。個人的・社会関係・社会的要因が関連していることが明らかになった。奇特な人がすることだといったステレオタイプ的なボランティア・イメージがボランティアをするのに阻害的に働いていること、マクロ的な要因が定年退職者の活動に対して阻害的に働いていること等が判明した。研究4では多項プロビット・モデル分析を用いてモデルの一部を量的データにより検討した。レベル2にはネットワーク志向、レベル3には社会貢献志向が関連し、仮説に沿った結果となった。ステレオタイプ的なボランティア・イメージは阻害的に働き、グループやボランティア参加者は周りにボランティアの知り合いが多かった。
研究6では質的データから、社会参加が個人、社会関係、社会に与える効果をまとめた。社会参加は特に生きがいをもたらす点で重要であり、地元のネットワークを形成することで、地域から遊離して生きてきたサラリーマンが地域へ溶け込むことを可能にしていた。グループ活動による消費活動や、ボランティアや情報提供を行うことにより、社会に貢献している様子も明らかになった。研究7では、社会参加のレベルが高い方が主観的幸福感が高いという結果を得た。研究8では、夫の社会参加活動が妻の生活満足度に関連し、夫が就業して社会参加をしていると妻の生活満足度は高く、どちらもしていないと低かった。
社会参加の規定因に関しては、個人的要因にとどまらず、社会関係や社会的要因からも検討する必要性が明らかになった。定年退職者が入りやすいグループを増やし、その情報を提供する、病院や施設などにおいての積極的なボランティア受け入れ体制を構築していくことなどが、定年退職者の社会参加を増やすことに介入可能な要因であることを示した。
社会参加活動の与える効果としては、生きがいの創出に役立ち、地元のネットワーク形成を可能にするなどの個人に与える効果にとどまらず、その配偶者に対しても影響を与え、社会のリソースと見なしうることが判明した。
このように社会参加活動がサクセスフル・エイジング実現の方略として有効であり、社会参加の規定因からその結果までを捉えるのに有効な社会参加活動の4分類モデルを提案したことが本研究の理論的貢献である。仮定した4つの社会参加活動の階層性が支持され、趣味からはじめてグループ参加をし、ボランティア活動をするというルートが日本の定年退職者にとっては、ボランティアをしやすいルートであることを示した。

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