バンティック語の構造と接辞の意味・機能

内海 敦子

本論文は、オーストロネシア語族、西部オーストロネシア語派(Hesperonesian)に属するサギル諸語(theSangiricLanguages)の一つであるバンティック語の構造を記述し、多数の接辞とその意味・機能について詳しい統語的特徴と意味的特徴の記述を試みたものである。バンティック語は、スラウェシ島北部州の州都マナド近郊の9つの村、さらにそこから100キロほど西に行ったところの二つの村で話されている。
本論文は、バンティック語の基本的な構造を音声・音韻、形態、統語の各側面から見たものである。そして、多数ある接辞に関しては、その統語的な特徴と意味的な側面から詳述することを試みた。
音声・音韻に関して述べる。バンティック語にはピッチの高さの違いが意味の対立を生む、高低アクセントが存在する。バンティック語の音素は子音が/b,p,t,d,k,g,s,h,r,?,m,n,ng,y/の14、母音が/i,e,a,o,u/の5である。
音節構造は、V、CV、CVC、VCのいずれかで、(C)V(C)と表せる。
バンティック語は、語根が語形成の重要な単位となる。語は、自立語と付属語に分けられる。このうち自立語は名詞、数詞、形容詞、動詞、前置詞、接続詞、副詞、の七つ、付属語は助数詞と小辞の二つである。そのほか、多数の接辞の存在がある。小辞は、比較的多くの品詞の後に置かれるのに対し、接辞はそれぞれ付加する語根が決まっており、付加した後に形成される品詞が定まっている。
前置詞、接続詞、副詞の三つの品詞は、常に語根のみで用いられる。
名詞は、派生的なものを除き、語根のみで名詞として用いられる。文中の動詞とのかかわりあいで、名詞は主語、目的語1、目的語2、主体語、補語として機能するが、そのとき、接頭辞が付加され、それぞれの役割を示す。そのほか、形容詞や動詞を形成する語根が、名詞形を派生するときに付加される接辞がある。形容詞は、語根のみで形容詞として用いられるものと、接頭辞ma-が付加して形容詞として用いられるものがある。
動詞は、語根のみで用いられることが大変まれでほとんどの場合は接辞を伴う。基本的な動詞を形成する接辞をヴォイス接辞と呼ぶが、これは接中辞-um-/-im-、接頭辞ma-/na-、接頭辞maN-/naN-、接尾辞-AN、接頭辞ni-の五つからなる。
それ以外の接辞を動詞派生接辞と呼ぶが、これらは「使役」「能力」などの意味を表す。また、継続アスペクト、習慣アスペクトと反復アスペクトを表す形態もある。動詞は、非過去形と過去形の二つのテンスを持つ。この点で形容詞と区別される。
動詞は、最大三つの態をとることができる。態の種類は、ActiveVoice、PassiveVoice1、PassiveVoice2の三つである。ActiveVoiceの形しか持たないものはintransitiveverb、ActiveVoiceとPassiveVoice1の形しか持たないものはtransitiveverb、ActiveVoice、PassiveVoice1、PassiveVoice2のすべての態を持つものはditransitiveverbと呼ぶ。
ActiveVoiceの形を持たず、態の変化をもたない動詞群がある。場所を表す名詞句を主語に取るlocativeverb、道具を表す名詞句を主語にとるinstrumentalverb、受益者を主語にとるbenefactiveverb、被害者を主語に取るmalefactiveverbである。
バンティック語は、ActiveVoiceの場合、主語、動詞、目的語1の語順をとるSVOが基本的な語順である。名詞を修飾する関係節についてだが、関係節化を起こす名詞はほぼ主語に限られる。主題を含む文は、既知の情報を文頭に提示し、その既知の情報と関連のある命題をその後に置かれる文で表す構造をしている。
バンティック語の動詞には非過去形と過去形という二つのテンスを表す形態がある。そのほか、継続アスペクト、習慣アスペクト、反復アスペクトという三つのアスペクトを表す形態がある。
本論文では、テンスに関して、動詞を6種類に分けた。第一、第二、第三のタイプは事態の開始時点より前が非過去形、開始時点より後が過去形になる動詞である。このうち、第一のタイプは、継続アスペクトが進行中の動作を表すものである。第二のタイプは継続アスペクトが反復する動作を表す。第三のタイプは継続アスペクトを持たない。
第四と第五のタイプは、動作の終了時点より前が非過去形、終了時点より後が過去形になるものである。このうち、第四のタイプは、継続アスペクトが進行中の動作を表す。第五のタイプは継続アスペクトを持たない。
第六のタイプは、習慣アスペクト、反復アスペクト、能力や非意図を表す接頭辞ka-が付加した動詞などからなる。これらは、過去の事態であっても非過去形を用いて表現できるという特徴を持っている。しかし、限定された状況下では過去形が用いられることがある。

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