自立性と関係性 —トマス・アクィナスにおける理性的実体としてのペルソナ—

山本 芳久

トマスは、「ペルソナ・人格(persona)」という言葉を人間について使用するさい、ボエティウスに由来する「理性的な本性を有する個別的な実体」という定義に基づいて論を進めている。そこから読み取れることは、ペルソナということが語られる原初的な局面においては、ペルソナは、他のペルソナや他の存在者との「関係」において捉えられているのではなく、自立的な「実体」として捉えられている、ということである。
だが、ペルソナの実体性や自立性の強調は、ペルソナを自己自身へと閉ざされたものとしてしまうのではないだろうか。実体であり「完結した全体」と言われるペルソナとしての人間において、他の存在者との「関係」はどのようにして遂行されるのであろうか。トマスにおいて、ペルソナの実体的・自立的な性格と関係的な性格とは、あくまでも実体的・自立的な性格に重心を置きながら統合されているのであるが、そこにどのような積極的な意味があるのかということが、本論文の明らかにしようとする問題である。それゆえ、本論文においては、認識者としての側面と実践者としての側面との双方に焦点を置きつつ、換言すれば、ペルソナにおける知性のはたらきと意志のはたらきとの双方に注目しつつ、「自立性と関係性」という観点から、理性的実体であるペルソナとしての人間の存在論的な構造を順序立てて明らかにしていくことが目指される。
まず、第I部「理性的実体としてのペルソナの基本的構造」においては、ペルソナの存在論的な基本構造を浮き彫りにしている。即ち、ペルソナとしての人間は、可感的な世界に存在するかぎりにおいて、諸々の付帯性を獲得したり喪失したりしながら存在し、様々な側面において絶えず変化し続けているが、そのような付帯性を担っている基体・実体であるペルソナ自体は、そのような変化を貫いて一性を保ち続けている。ペルソナは、「個別的・不可分割的(individuum)」であるかぎりにおいて、分割することも、他のペルソナと存在論的に融合することもありえない自立的で根源的な一性と全体性を有している。このような形で、「理性的な本性を有する個別的な実体」であるペルソナとしての人間を理解することによって、トマスは、諸々の付帯性を自立的な形で担っている自存者であるところの自己支配的な個体を存在論的に語り明かすことに成功しているのである。
次に、第II部「ペルソナにおけるはたらきの構造(1)-知性のはたらき-」においては、次のようなことを明らかにしている。即ち、ペルソナとしての人間は、「完結した全体」でありつつ、認識のはたらきにおいて実在の全体と関係しながらそれに対して自らを明示的に開放しつつ受容していくことによって、他のものとの関係を取り結ぶとともに自己自身へと還帰し、より高次の仕方で自立性を実現していくことができる。理性的実体の本性を形作っている全存在との合一-それは「魂は或る意味ですべてのものである」というアリストテレスに由来する命題によって表現されている-が、はたらきによる個別的な認識関係の形成を基礎づけつつ、逆にそれによって完成させられていくのである。
次に、第III部「ペルソナにおけるはたらきの構造(2)-意志のはたらき-」においては、ペルソナである人間における意志のはたらきの構造を「愛」のはたらきに注目しながら分析している。トマスは、「友愛は何らかの一致を含意しているが・・・・・・各々の人間は自己自身に対して一性を有しているのであり、一性は一致よりもより優れたものである。それゆえ、一性が一致の根源であるように、人が自己自身を愛する愛が友愛の形相であり根源である」と述べているが、このような言明のうちには、自立した理性的実体としてのペルソナの一なる存在論的な核が、ペルソナの相互的な関係性の形成を可能としているという構造が読み取られうる。人間は、他者との関わりを通して自己へとより深く立ち戻るという在り方の中で、自己自身の存在の一性を自己伝達的・自己還帰的な仕方で遂行することによって、自己ならざる他者を個体的に肯定するとともに、そのような仕方で他者を肯定している自己自身をより十全な仕方で肯定していくことができるのである。「完結した全体」としてのペルソナは、このような仕方で、既存の境界を流動化させ、新たな全体性を形成し直していくことができるのである。
このような仕方で、自立性を担ったペルソナに支えられていることによって、知性と意志のはたらきは、他者や他の諸事物との関係性の徹底的な構築のただ中においても、自立性を確保するとともに、それを新たな仕方で完成させていくことができる。一性と全体性という存在論的な完全性を常にすでに有しているペルソナは、はたらきによる関係性の形成を通して、さらに高次の完全性・全体性へと進んでいくことによって、自らの自立性を自他とのより深い関係性を含み込んだより高次の仕方で完成させていくことができるのである。

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