文学部のひと

 

文学部とは、人が人について考える場所です。

ここでは、さまざまな人がさまざまな問題と取り組んでいます。

毎月ひとりずつ、「文学部のひと」をご紹介します。

編集部が投げかけた質問はきわめてシンプル、

ひとつは「今、あなたは何に夢中ですか?」、

そして、もうひとつは「それを、学生にどのように伝えていますか?」。

 

池澤 優教授(宗教学宗教史学研究室)

第1の答え

生来、好奇心旺盛といえば聞こえは良いが、移り気で飽きっぽいので、夢中になっているものも多様である。大別すると、元からの専門である、古代中国の出土資料の研究と、生命倫理や死生学に関する研究の二つになる。前者の中国出土資料の研究は近年の新資料の発見により盛んなのだが、私が好んで読むのは、通常の研究者があまり扱わないヘンなものであることが多く、それらを通して死生観の変遷をあとづけるのを目的としている。後者は十数年前に偶然、参加した某学会の倫理委員会や個人的な体験などが深入りするきっかけになった。が、医療上の問題に関して何か主張することに関心があるのではなく、生命倫理学者といわれる人たちの発言を通して、現代的な死生観を探ることを目的としている。その意味では両方の研究は(自分自身にとっては)連続している。

 

第2の答え

本質的に自分の関心のおもむくままに授業をやっているので、自分が夢中になっていることのおもしろさを学生にどのように伝えるか、自覚したことはないが、宗教研究の醍醐味の一つは、外面的な行為や記録を通して、目に見えない“人の頭の中にあるもの”―単にその人が考えていることという意味ではなく、当の本人が気がついていない、思考の枠組みや前提を含めて―をそのままの形で理解する点にあるのだと思っている。演習で学生の発表を聞くときも、発表者の思考の枠組みをそのままの形で理解するように努めている。その人が考えていることが“理解できた”と思える時が、至福の瞬間である(発表者にとっては大いに迷惑かもしれないが)。強いていうなら、それが学生に伝えていることであろうか。

 


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