文学部のひと

 

文学部とは、人が人について考える場所です。

ここでは、さまざまな人がさまざまな問題と取り組んでいます。

毎月ひとりずつ、「文学部のひと」をご紹介します。

編集部が投げかけた質問はきわめてシンプル、

ひとつは「今、あなたは何に夢中ですか?」、

そして、もうひとつは「それを、学生にどのように伝えていますか?」。

 

祐成 保志准教授(社会学研究室)

第1の答え

社会学を学びはじめて間もない頃から、「住まい」というテーマに関心をもってきました。社会学には「家族社会学」や「都市社会学」のように、研究対象をあらわす言葉を付けて自分の専門領域を示すという慣習があります。では「住宅社会学」とか「住居社会学」という分野があるのかというと、(少なくとも日本には)ありません。基本的に、住まいは社会学において見過ごされてきたのです。この、いわば未踏のジャンルを開拓する作業に没頭するうち、あっという間に十数年が過ぎてしまいました。ただし、新たな「○○社会学」を付け加えることが目標ではありません。特定の範囲にとどまらない領域横断性にこそ、住まいという現象の面白さがあると考えているからです。

ここ数年取り組んでいるのは、内外の半ば忘れられた社会調査の読み直しです。例えば、ロバート・K・マートンが1940年代中盤に実施したハウジング研究は、質・量ともにかなり充実したものでした。しかし、最終報告書『社会生活のパターン:ハウジングの社会学における探索(Patterns of Social Life: Explorations in the Sociology of Housing)』が公刊されなかったこともあり、ほとんど知られていません。大学院のゼミでは、コロンビア大学の「マートン文書」で撮影してきたこの報告書の謄写版を読み進めています。

 

第2の答え

住まいの領域横断性は、社会学の内部にとどまらず、建築学、経済学、法学と、際限なく広がっていきます。それは大きな魅力であると同時に、「これは社会学なのか」「他の学問と何が違うのか」という疑問(自問も含めて)に直面しやすいということでもあります。あまり学問の枠にこだわる必要もないのかもしれませんが、やはり社会学を専攻する以上、社会学ならではの視点を提示したい、というのが私の念願でした。

いまのところの暫定的な結論は、「ハウジング」と「ホーム」の二重性を自覚的にとらえるところに社会学の独自性がある、というものです。私の考える住まいの社会学の課題とは、希少な資源である居住空間を配分する主体と、日常的な実践を通じて自分の居場所を形成する身体が、住宅や生活財というモノに媒介されながら交渉する過程を観察・記述・分析することです。ようやく入り口にたどり着いたにすぎませんが、どこに入り口があるのかすら分からなかった頃に比べると、ずいぶん見通しがよくなったように思います。

こうした私の経験は、あくまでも個別的なもので、一般化はできません。しかし、自分が関心をもつ現象をいかにして社会学の対象として設定しうるのか、という局面で悪戦苦闘している人は、私が何に夢中になっているのか、理解してくれるかもしれません。

 


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