文学部のひと

 

文学部とは、人が人について考える場所です。

ここでは、さまざまな人がさまざまな問題と取り組んでいます。

毎月ひとりずつ、「文学部のひと」をご紹介します。

編集部が投げかけた質問はきわめてシンプル、

ひとつは「今、あなたは何に夢中ですか?」、

そして、もうひとつは「それを、学生にどのように伝えていますか?」。

 

村本 由紀子准教授(社会心理学研究室)

第1の答え

心理学はデータ重視の学問です。多くの社会心理学者がそうであるように、私もたいていの場合、実験や調査を通じてデータを得ていますが、数値化されたデータの限界を感じることも少なくありません。そこで、数字にならない生々しいデータを求めて、ときおり現場研究(フィールドワーク)に出かけます。

現在は、ある漁村離島の伝統制度について調べています。島の長男たちが中学卒業と同時に、実の両親とは別の夫婦を親と定めて、10年余にわたってその夫婦宅で寝起きするという疑似家族制度です。なぜそのような仕組みが生まれたのか、なぜ今も続いているのか、リサーチ・クエスチョンはつきません。そうした問いに答えを見出し、ひとときでも島の暮らしに寄り添うことは何より貴重な経験ですが、加えて重要なのは、この一見極端な制度についての探究が、より一般的な日本社会のありようを読み解くヒントを与えてくれるということです。ここには、共同体と個人の関係、家族的関係性の心理的意味、文化の生成・維持過程など、社会心理学のさまざまな重要テーマが隠れています。

ローカルな現場の事例は必ずしも一般化可能性の低い「例外」ではなく、むしろ、多くの共同体が持ち合わせている特徴を純化したかたちで見せてくれる、理論構築の源泉です。だからこそ私は、現場で何が起きているのかを知ることに常に夢中であろう、と心がけています。

 

第2の答え

私にとって、この質問には2つの側面が含まれています。ひとつめは文字通り、「私が現場で夢中になったことを学生にどう伝えるか」という問題。これはもう、学生にすぐ話します。「この前、島に行ったらね…」というおしゃべりとして話すこともあれば、授業のトピックとして掲げることもあります。自分が受けた刺激や発見を学生たちと共有したい、純粋にそういう気持ちです。研究の面白さを知ってもらう最初のきっかけとしては悪くないのでは、と思っています。

もうひとつのより重要な側面は、「学生が自らの現場で夢中になるために、どんなサポートができるか」という問題です。現場研究の教育は、学生が見出したテーマを彼らとともに磨き、ともにデータを眺めながら、その成果を心理学研究として結実させるという共同構築の作業にほかなりません。そのために私がなすべき最初のことは、毎回の報告と討論の繰り返しを通じて学生自身の現場を知ること、彼らが何を面白いと感じているのか、その興味・関心を「追体験」することです。上手く追体験できて初めて、さらに面白くするためのアドバイスが可能になります。つまりは「ともに楽しむ」、それが研究の面白さを伝える唯一の方法かもしれません。

 


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