文学部のひと

 

文学部とは、人が人について考える場所です。

ここでは、さまざまな人がさまざまな問題と取り組んでいます。

毎月ひとりずつ、「文学部のひと」をご紹介します。

編集部が投げかけた質問はきわめてシンプル、

ひとつは「今、あなたは何に夢中ですか?」、

そして、もうひとつは「それを、学生にどのように伝えていますか?」。

 

浦 一章教授(南欧語南欧文学研究室)

 

第1の答え

いま一番夢中になっていることは、肉体の若さと健康を保つことと言える。この年になると五十肩が夜も疼き、安眠を妨げる。ギックリ腰に襲われることもある。こうなると、自分の研究に沈潜しようにも、悲しいかな、なかなか思うようにはゆかないのである。編集部は、おそらく答えとして、いま私を夢中にしている学術的な事柄を挙げるように求めているのだろう。私はダンテと先行詩人たちの関係を研究テーマとしているが、それとの関連では、今も何十年前も、私を夢中にしているものは、本質に、一切変化していない。しばらく前はダンテに影響をあたえた南仏のトルバドゥールたちに強く惹かれたが、その関心は存続しながら、今はウェルギリウスのことが念頭を離れない。食事の前に祈祷をするように、ウェルギリスをひとくさり音読する毎日である。しかし、このようなストイックな暮らしを続ける張りつめた精神にも、時には息抜きが必要である。そのとき私が夢中になるのは、次の教授会・委員会で発言を求められる時に、いかにギャグを飛ばすか思案することである。

 

 

第2の答え

肉体の若さと健康を維持するのに特別な努力を必要としない学生諸君には、なぜ私が体を鍛えることに夢中になっているかは、伝えようとしても徒労に終わるだけだろう。悲しいかな、老人はこうして孤独に陥るのである。孤独を一層深めることにならないよう、教室でギャグを飛ばす時には、滑らないように細心の注意を怠らない。学術的な方面での伝達に関しては、モデルがいかに受け継がれ、革新されたのかを、翻訳などの補助を用いつつ、把握できるように心がけているが、この種の議論はやはり原典をオリジナルで読み比べることによってこそ、一層よく理解できるものなのである。それゆえ、「トルバドゥールの言語」などをカリキュラムに乗せることによって微々たる努力を重ねつつ、やはり全体としては、孤独に陥りがちな現状と言える。だが、嘆く必要もあるまい。文学研究は元来、少数の理解者のみをもつ、孤独な作業なのだから。

 

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