人文社会系研究科・文学部の渡辺裕教授(文化資源学・美学芸術学)が、 昨年刊行された著書『歌う国民―唱歌、校歌、うたごえ』(中公新書)により、 このたび芸術選奨文部科学大臣賞(評論等部門)を受賞されました。

 『歌う国民』は、唱歌や校歌、卒業式の歌、都道府県歌など、コミュニティのメンバーが皆で合唱するタイプの音楽の歴史的変遷を通して、明治期以後、今日
にいたる日本の文化の変容を捉え直そうとした著作です。選評には、「単に音楽的側面から考察するのではなく、音楽を社会、政治、歴史等との全体的な枠組みの中で捉え、『国民』というキーワードで読み解く」文化論を展開するという新鮮な視点 が評価されたと述べられています。
 また、「膨大な、部分的にはこれまで顧みられることのなかった資料を発掘し、既成の
価値観に縛られることなくその意味を読み解くという地道な作業」も本書の特徴です。 《夏季衛生唱歌》、《郵便貯金唱歌》などという想像もしなかったような曲の存在が示 され、その背景にあった社会の意外な姿が次々と現れてくるさまは実にスリリングで、 学術書である以上に読み物として、文化とは何か、ということについて広く一般に問い かけ、考えさせる本になっています。