研究科長挨拶 

 

人文社会系研究科修士課程に入学された皆さん、

博士課程に進学、あるいは入学された皆さん、

研究科教職員一同とともに、皆さんを心より歓迎いたします。

 

本来ならば、皆さんに向かってじかにこの歓迎の辞を述べさせていただくところですが、ご存じのように、先月11日東北地方太平洋岸を襲った未曾有の地震の余震がいまだに止まず、福島の原子力発電所の混乱が長期化の様相を見せるなか、安全上の配慮からやむを得ず、大勢が一同に会する通常のガイダンスを中止することにしました。私の挨拶もこのような書面の形になることをどうかご了解ください。

震災による行方不明者が今なお多数あり、被災者の多くが不自由な避難所生活を強いられる一方、原発の放射能漏れの情報が時時刻刻伝えられる状況では、あるいは勉学に集中しにくいこともあるかもしれません。しかし、ここはぜひ平常心を失わず、大学院での勉学を開始していただきたいと思います。そうすることが、つまるところ、被災した人々に活気をもたらすことにもつながるはずです。

人文社会研究科は、思想、歴史、言語・文学、行動科学という文学部の四学科からなる組織に日本、アジア、欧米という地域研究的カテゴリーを交差させて再編した五専攻に、大学院独立専攻の文化資源学と韓国朝鮮文化研究を加えた七つの専攻からなります。本研究科では、その前身である人文科学研究科の時代から、分野を問わず、知の蓄積を尊重しながら新たな展望を切り拓く、卓越した研究が積み重ねられてきました。皆さんには何をおいてもまず、本研究科における専門研究の奥深さ、醍醐味を存分に味わわれ、人文社会学研究の未来の担い手としての知識とスキルを身につけていただきたいと考えます。

同時に、専門の枠のなかに自足せず、つねに隣や遠くを見る視線を働かせ、学問の総体における、さらには社会と時代における自分の知的営みの意味を問う気持ちを持っていただきたいと思います。本研究科の学問、とくに人文学は、現実がはらむ種々の問題の解決に直接役立つことは少ないにしても、日々変化する状況より一歩退いた地点から、実用的な知識とは異質な、精神や想像力に働きかける力を持つと信じます。

自分の営みを相対化しながら専門的研究を深めるのに、異分野、異文化、異なる言語、異なる論理のなかに身を置いてみることほど有効な試みはありません。専門が何であろうと、ぜひ在学中に、たとえ短期間であれ、外国を知ること、外国の研究機関で研鑽を積むことをお勧めします。それは自分を形成しているものを揺さぶり、最終的には間違いなく自分を鍛えることに通じます。本研究科では、2009年度から日本学術振興会の若手研究者海外派遣プログラムに則った「次世代人文社会学育成プログラム」を実施し、大きな成果を上げています。このような派遣枠が恒常的に提供されることを願ってやみません。

ともあれ、本日皆さんを新しい仲間としてお迎えすることを心から喜び、皆さんにとって本研究科で過ごす時間が、知的興奮と相互感化に満ちた人生の充実した季節になることを祈念します。

 

2011年4月6日

       人文社会系研究科長   中 地 義 和