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明治38年(1905年)、東京帝国大学文科大学に宗教学の講座が開設されたのが当研究室の始まりである。初代の教授は、文人としても知られた姉崎正治(嘲風)であった。

宗教学という学問は比較的新しく、欧米の大学に宗教学の講座が置かれはじめたのは十九世紀末のことである。それ以前は、欧米で宗教の学問的研究といえばほぼキリスト教神学に限られていた。これを行う神学部から独立して、キリスト教だけでなく、仏教やイスラム教といった大宗教はもちろん、いわゆる民間信仰や「未開」社会の宗教まで、古代エジプトの宗教から現代の新宗教まで、特定の宗教伝統や地域に限定することなく、あらゆる宗教現象を研究対象とする学問として宗教学は成立した。そうした新興学問のための講座が、日本で二十世紀の初頭に生まれたのは、世界的に見ても稀な早さであった。

宗教学は、このようにあらゆる宗教現象を研究する学問だが、研究方法もさまざまである。古い経典の精密な読解も、現代社会の宗教状況調査も宗教学でありうる。対象を理論化する視点も、哲学、思想史、社会学、心理学、人類学、民俗学、文献学、図像学、等々、どれであってもよい。したがって当研究室では、各自の関心におうじた自由な研究が許容されており、学生に特定の研究対象を指定するようなことはほとんどない。他学科の講義にも積極的に出席することが奨励される。(ただ、自分が信ずる特定の宗教だけを真理として、これを宣伝することを意図した研究は、当研究室の学風にはそぐわない。)

こう書くと、宗教学研究室は、みながばらばらな研究を個別に行っているように見えるかもしれないが、実態は正反対である。教員、院生、学生間の交流は親密であるし、何よりもみなが、宗教という多面的で奥深い対象をめぐる関心を強く共有している。古代メソポタミアの楔形文字資料から当時の宗教事情を読み解こうとしている大学院生が、現代世界のインターネット空間に出現している新世代の宗教性を取り出そうとする学生の研究発表を、真剣な興味をもって受け止め、適切に応答する(そしてその逆も)、といった知的状況が生み出されていること、これが宗教学研究室のよき伝統である。特定の専門領域を深めながら、そこに自閉しないで宗教をめぐる柔軟で広い問題関心を保ち続けること、そしてそれが専門領域の研究に豊かに反映していくこと、これが当研究室の追究する理想である。

こうした学風であるから、国内での研鑽にとどまらずに海外に留学して調査や研究を行う大学院生は数多いし、日本の宗教の研究のために本研究室に留学してくる外国人も少なくない。宗教への関心を共有する、内外を問わず多彩な傾向の研究者や学生が互いに刺激を与え合っていることは、本研究室の魅力の一つだろう。もちろん、専門の研究者になることだけが本研究室に学ぶことの意義ではない。学部を卒業し、あるいは修士課程を修了して社会に出て行く場合にも、本研究室で身につけた、「宗教」を通じて広く深く「人間」を見るまなざしは、陰に陽に大きな糧となることだろう。(そうあることを願っている。)