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ドイツ語ドイツ文学研究室における研究教育が目標とするところは、主として、中世より現代にいたるドイツ語による文学作品を対象に、さまざまなテクストを緻密に読み解いていく作業を通じて、そこに表出されている文化的、思想的な意味を考察することである。その領域は、たかだか近世になってようやく成立したドイツ国家の文学、ひいてはドイツ人の文学にかぎられるものではない。たとえばドイツ系ユダヤ人の文学的営為が、いわゆる「ドイツ文学」のなかに占める位置は、無視できないものがある。民族的な文化現象のもつ収斂的な志向性を顧慮しつつも、ややもすればそこから排除される要素にも、目配りを怠ってはならない。テクストの細部に集中するミクロの視線には、同時に歴史的、空間的なマクロの視野が要求されるのである。そうした理念に沿って、中世高地ドイツ語による文学ならびにルターとその時代の思想、近代批評・文学、中・東欧のドイツ語文学、第二次大戦後の旧東独のそれをも含めた文学などに関する研究が、それぞれの方法はさまざまながら、多彩に遂行されている。

四人の専任教員の専門分野は、カリキュラムにおいて広範な領域をカバーできるよう配置されている。地域的にはドイツにかぎらず、オーストリア(そこには、現在は東欧に属する地域も含まれる)も包含し、また時代は中世から第二次大戦後にまでおよび、ジャンルとしては小説、戯曲、詩、評論など、きわめて多彩である。

このように書けば、いかにも堅苦しいアカデミズムの場を想像されるかもしれないが、かつて在籍した教員のなかに、生野幸吉、柴田翔、池内紀など、詩人、作家、文人の名が見受けられるように、この研究室には、繊細で自由な言語的感性を重んじる気風が伝えられている。そもそもドイツ語というと、それだけで何やら堅い印象を受ける向きもあろうが、それは偏見というものである。グリム童話も、エンデの小説も、ドイツ語で書かれている。ドイツ歌曲の詩も、『ファウスト』も、ホーフマンスタールの流麗な散文も、ドイツ語が紡ぎだしたものである。ドイツ語も例外ではないが、どの言語も、その言語独自のメロディーとリズムを、美しさと緻密さを、柔らかさと硬度をもっている。その意味で、まずはテクストのなかから、ドイツ語が語りかけてくる声を聴きとることが、教員と学生の別を問わず、そして、研究と学習の別を問わず、前提として要求される。そうした認識を共有するかぎりにおいて、学生が自由に、個性的であろうとして、かつそれが許されることが、研究室の特色、雰囲気を形づくっているといえよう。