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 国文学研究室の歴史は、東京大学とともに古い。明治10年創設時の和漢文学科、あるいは明治18年和漢文学科から分離独立した和文学科がその淵源である。和文学科が国文学科と改称された明治21年でも、優に百年は超えている。過去には作詞家としても著名な芳賀矢一、歌人の佐佐木信綱、国文学研究の確立に功績を残した藤岡作太郎、なども教鞭をふるった。ちなみに、隔年ごとに発行している卒業生名簿は、明治17年から始まっている。卒業生の主な進路先として、一般企業の他、マスコミ・出版社、そして中学・高校の国語教師が挙げられる。また、創作方法を教えるような授業を設けているわけではないが、中勘助、川端康成、堀辰雄、中島敦、阿川弘之、大岡信、橋本治など、多数の作家を卒業生として輩出したのは、日本語の表現にこだわり抜く伝統に由来するのかもしれない。伝統はときに桎梏ともなることは肝に銘じるべきだが、強靭な新しさもまた、伝統の豊穣さ抜きに生まれないのである。

 日本語で書かれた「文献」を考究していくのが国文学研究の基本姿勢であり、その対象は、万葉集や源氏物語などの古典、あるいは近・現代文学といったいわゆる「文学」にとどまらない。歌謡・能・歌舞伎や近・現代演劇、宗教・思想の言説など、幅広い表現の分野にまで広がっている。そして、その中で大切にされるのが、「本物の文献を見る」という作業である。自ら文献を直接読みこむことこそ、自分の眼で見、自分の頭で考えた、借り物でない思考へとつながってゆくからだ。国文学研究室は、文化財クラスの貴重な写本・版本、和本を数多く所蔵しており、「本物」の文献を研究するのに恵まれた環境にある。

 国文学研究室には、上代・中古・中世・近世・近現代の五つの時代別にそれぞれ担当の教員がいるが、複数の時代にわたる授業もある。学部で必修となっている卒業論文については、テーマ設定を学生自身の自由な選択に委ね、教員は助言しつつ、各自の自主的な研究を見守るというのが、学部教育の特色だ。大学院生(毎年約3割の学部学生が進学)に対しては、本格的な研究方法を指導するようになる。研究室所属の院生・学部学生、あるいは卒業生たちが参加する研究会などの議論を通じて、学んでいくところも多い。大学院に所属する留学生は増加の一途をたどっており、彼らは帰国後、それぞれの国の日本文学研究の枢要の位置を占める存在となっている。今後ますます、世界への視野を広げることが求められている。