考古学研究室:研究室一覧

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◇教員◇  教授:佐藤 宏之  設楽 博己   准教授:福田 正宏   助教:石川 岳彦
◇学生◇  学部:15名  修士課程:11名  博士課程:10名

 (1)考古学とは

 考古学とは、人類の歴史を遺跡や遺物を通じて明らかにする学問である。おもに文献を通じて明らかにする文献史学とともに、歴史学の一翼を担っている。したがって、文字のない時代の研究は考古学の独壇場となる。では文字のある時代は考古学の守備範囲でないかといえば、そんなことはない。平城宮跡からたくさんの木簡が発見されて当時の都の様子が明らかになったし、出雲大社では鎌倉時代の社殿の柱が出土して、3本まとめてひとつの柱にしていたという伝承が裏付けられた。エジプトのピラミッドもヒエログリフという文字の時代だが、考古学の研究対象であることは言うまでもない。

 では、方法の上で考古学が文献史学と大きく異なっているのは何だろうか。それは、発掘調査によって研究資料を得ることである。上のいくつかの例からもわかるように、遺跡とそこから出土した遺物を分析することが考古学固有の研究方法であり、発見の喜びも加わって考古学の醍醐味ともなっている。そのためには、遺跡を発掘する能力や遺物を観察する考古学独自の能力を身につけなくてはならない。

 考古学が扱う分野は多岐にわたる。自然環境と人類とのかかわりを扱う環境考古学、動物との関係の仕方を研究する動物考古学、儀礼や祭祀などを扱う祭祀考古学、民族誌や現存する民族に分け入って考古事象と比較研究する民族考古学など、特定の名を冠した考古学の研究分野もじつにさまざまである。年代測定には炭素14年代測定などいろいろな方法があるが、理化学の分野の協力が必要である。古人骨のDNA分析から親族組織の研究も進んでいるし、炭素窒素同位体比分析から食性の傾向を判断する研究もおこなわれている。考古学は文系の学問というイメージが強いが、理科系の学問とも連動した学際的な文理融合の学問といえよう。

 このように考古学の裾野が際限ないほど広がっているのは、人類の活動が世界の隅々まで広く多岐にわたり、森羅万象と関係しあいながら、そして数百万年という長い期間にわたって展開されてきたからにほかならない。

 (2)考古学では何を学ぶのか

 考古学専修課程の必修科目(括弧内は単位数)は、史学概論(2)、考古学概論(4)、考古学特殊講義(16)、考古学演習(6)、野外考古学(4)、卒業論文(12)である。

 さきに考古学独自の方法として発掘調査をあげたが、上のカリキュラムでは「野外考古学Ⅰ・Ⅱ」がそれに相当する。発掘は破壊である。学問の進歩を破壊よりも価値あるものとするためには、遺跡の発掘には慎重に当たらなくてはならないし、そのための手順の習得が必要になる。

 遺跡がどのような地形に立地しているのか正確に把握するために測量をおこなうが、それには測量機器を使いこなせなくてはならない。発掘調査の区画設定をおこなったのちに、いよいよ発掘となるが、ただ無茶苦茶に掘ればよいわけではない。どのような堆積状況のなかに遺構が埋まっているのか、土層観察の畦を残し、図面や写真などの記録を残しながら掘り下げる。遺構が完全に掘りあがったらやはり図面や写真をとる。出土した遺物は研究室で水洗いや注記を済ませ、接合して図面や写真、あるいは拓本をとり、発掘調査報告書の形で刊行する。こうした一連の作業のなかで、写真や図面などの記録が重要であることがお分かりいただけただろう。それは発掘調査によって次から次へと失われていく情報のできるだけ正確な記録をとどめておく必要があることと、この記録が遺跡と遺物を分析するための大事な基礎データ、共有の財産となるからにほかならない。

 野外考古学Ⅰは、本郷で野外調査のさまざまな基礎的技術を学ぶ。野外考古学Ⅱでは、それを活かして実際の遺跡の発掘調査と整理作業を北海道サロマ湖の岸辺にある人文社会系研究科付属の「北海文化研究常呂実習施設」でおこなう。この発掘調査では、教員から大学院生、学生が一つの施設に寝泊まりし、同じ釜の飯を食べる共同生活がまっている。調査現場をよごさないために大きなスコップで土をまとめて投げる「円匙(えんぴ)投げ」などさまざまな発掘技術が伝授されるし、教員、先輩の垣根を取り払って日頃抱いているさまざまな疑問をぶつけるよい機会にもなるだろう。

 このようにして手に入れた遺跡と遺物のデータはそのままではたんなる雑然としたまとまりのない資料にすぎないが、考古学的な手法によって分類、分析されて歴史資料になる。そのための研究方法に、たとえば型式学と層位学がある。型式学は物がもつ年代的、地方的特徴をとらえてその変化を明らかにするための方法であり、層位学は地層塁重の法則や一括遺物という概念を用いて型式の組み合わせや配列を検証する方法である。いずれも編年や地域性といった、人類の歴史を考古学的に明らかにするための基礎作業にかかせない。あるいは物の形態や製作技術からテクノロジーのありようを探るのも、物質文化を扱う考古学特有の研究課題であり、そこでもまた遺物の細かな観察にもとづく分類や同定といった厳密な分析手法を身につけていることが要求される。

 「考古学特殊講義」では、こうした考古学の方法論を中心にさまざまなテーマについて講義形式で、「考古学演習」ではすぐれた内外の文献にもとづいて方法論およびその具体的な実践方法を演習形式中心に学ぶことになる。

 先に述べたように考古学の守備範囲は広く、地理学、民俗学、民族学、生物学、物理学、化学など他の学問分野と交流する。たとえば遺跡立地、狩猟方法、人骨の部位や性別の同定、花粉分析、年代測定など学ぶべき研究分野は多岐にわたっている。もちろん、これらは専任教員だけではカバーできないので、非常勤講師などに依頼して幅広い分野の学習の場を用意している。それでもすべてにわたって講義するのは不可能であるから、書物などを通じて基礎的な知識は身につけるようにしてほしい。

学部3年生までにこのような基礎を身につけたあと、4年生には卒業論文という大仕事がまっている。自らが選んだテーマを深く研究して論文にするのだが、研究史にもとづいて課題と目的を明確にし、分析手法を提示し、資料を収集し、分析し、結論を示すという作業は準備に非常な時間を要する。しかし、この作業は4年間の学業の集大成であり、論理的思考と努力の結晶として一生の財産になるであろう。研究職を希望する方も、就職を希望する方も頑張ってほしい。

 大学の外にも考古学を学ぶ場はさまざまにある。各地で行われている発掘調査に、教員や先輩の紹介で参加している人が今も何人かいる。海外に出かけ、調査に参加している人もいる。よその大学や博物館、あるいは埋蔵文化財センターなどで有志が集まり特定のテーマで開かれるシンポジウムに出かけ、現在どのような議論がおこなわれているのか把握しておくのは重要だ。各地の博物館や資料館で、学んだ遺物について実際に見学するのもよいだろう。若いうちは何でもできる。

 (3)教員の紹介

 佐藤教授の専門は日本の旧石器時代であるが、狩猟に関する国内、国外の民俗・民族調査にも力を入れている。巨漢ならではのパワーに満ちた指導が君たちを考古学の世界に誘ってくれるだろう。設楽教授は弥生時代が専門であるが、縄文時代にも精通している。基本的な土器の研究から精神世界の研究まで幅広い分野を扱っている。今年度着任した福田准教授は、シベリア・ロシア極東・日本列島における土器出現期以降の先史文化について、環境への適応という視点から復元を試みている。石川助教は、中国東北地方の紀元前1千年紀から紀元後1千年紀前半の文化や社会について研究を進めている。

 専任の教員ではないが、北海道にある常呂実習施設に勤務する熊木准教授は北海道がおもなフィールドで、サハリン、アムール流域にも調査を広げ、周辺の古代北方文化を視野に入れながら、アイヌ文化の成立過程を追究している。北見市常呂町でおこなわれる「野外考古学Ⅱ」という発掘実習期間中はずっと指導を担当する。

 総合研究博物館には西アジアの先史考古学を専門とする西秋教授がいる。同博物館の米田教授は、年代測定や同位体分析を専門としており、講義を通じて最新の考古科学を教授してくれるだろう。学内には大学施設の新設等に伴い事前の発掘調査を担当する埋蔵文化財調査室があるが、調査室には近世江戸の考古学を専門とする堀内准教授がおり、「野外考古学Ⅰ」を通して発掘調査のイロハを指導してくれる。このような方々も卒業論文などの相談にのってくれる。

 (4)進学を希望する諸君へ

 考古学は広義の歴史学の一分野であるから、歴史関係の講義をできるだけ聞いておいていただきたい。とくに歴史時代の考古学を専攻するには文献史料に対する素養を積んでおく必要がある。先史考古学では、民族学の知識が必要となる。考古学に進学を希望する学生で、外国考古学を志すものは、外国語がすべての基礎になるから、とくにその習得に努めてもらいたい。ただし、日本考古学を目指すものでも、方法論を学ぶためには外国語文献の閲読が必須であるから、重要性に変わりはない。

 考古学に進学しようとする学生は、駒場Aセメスターに、必修科目となっている「考古学概論Ⅰ」、「史学概論」の授業を必ずとるように注意されたい。「考古学概論Ⅰ」は本郷で開講されているが、「史学概論」は駒場での開講なので、とりそこなうと、本郷進学後も駒場まで通うことになる。同じく駒場Aセメスターに開講される「人類学概説」は必修ではないが、考古学研究の基礎として重要なので、考古学進学予定者はできるだけ受講されるようお願いする。

  (5)卒業後の進路

 考古学のカリキュラムは研究の専門家を養成することを目的に組み立てられている。そもそも考古学が一般社会で企業などに直接役立つことはほとんどない。しかしある学問分野を深く勉強し、それを通して人間社会のあり方に独自の理解を獲得し、また卒業論文を計画して論理的な思考のもとに文章を練り上げていく経験、そして常呂での合宿による発掘調査の集団作業体験は一般社会に出ても底力となるであろう。

 卒業後、引き続き研究を続けていこうとする人は大学院を目指し、そうでない人は一般企業に就職するのがふつうである。近年の平均の比率は2対3ほどで就職のほうが多い。就職先は、新聞社、テレビ局などマスコミ関係をはじめとして、銀行、商社、運輸、情報、地方公務員などさまざまで、考古学だからという特徴は特にない。マスコミで考古学出身という経歴をうまく生かしている人もいる。

 修士課程進学者は多くがそのまま博士課程に進学し、研究を続けるために大学や博物館をめざすことになる。理想を高く掲げてそれに向かって突き進むことは重要だが、研究職につくのが容易ではないことは覚悟しておいた方がよい。専門を活かせる場として都道府県や市町村に埋蔵文化財センターなど緊急発掘調査に対応する組織があるが、この場合は学部卒、あるいは修士課程修了の段階で入る例が多い。しかし、これも最近は需要が減って狭き門となっている。

  (6)その他

 考古学研究室では独自のホームページを開設しているので、これも参照するとよいであろう。

http://www.l.u-tokyo.ac.jp/archaeology/

 遠慮せずに研究室を訪問し、先輩達の話を聞くのが実情を知るには一番である。法文2号館の地下に先輩たちがたむろしているので、一度訪ねてみてはいかがだろうか。