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西洋史学専修課程の歴史は、1887(明治20)年の史学科設立に始まる。その際、ドイツ近代歴史学の始祖・ランケ門下のリースが中心となって教育にあたり、厳密な史料批判に基づく実証的な研究方法を初めて日本に伝えた。リース帰国後は、箕作元八が世界史的な広い視野で西洋史を体系的に脈絡づける構想の下、わが国における啓蒙的な西洋史学者として積極的にその役割を果たしていった。1919(大正8)年の制度改革で西洋史学科が正式に発足した後も箕作時代に培われた伝統は失われず、時流にのまれない鋭い批判精神のもと、生き生きとした問題意識と厳密な方法とによる本格的な研究への道が準備されていった。その過程においては、戦時下に学問的良心と激しい気骨で自由な研究の伝統を堅持した今井登志喜、「東大紛争」からその後の時期にかけて学部長・総長の要職を歴任した林健太郎らの尽力が大きな意味を持っている。この学風は現在まで引き継がれ、西洋史学科は一貫して権威主義的でない「リベラル」なスタンスを守ってきた。同時に、研究の面においても、戦後まもなく、村川堅太郎(古代ギリシア史)、柴田三千雄らが、日本の西洋史研究の質を欧米と同等のレベルにまで引き上げ、国際交流への道をきり開いた。

こうした伝統を受け、西洋史学専修課程は、現在では文学部屈指の大所帯となっており、在籍する学生の数は、大学院生を含めて合計100名ほどである。院生の存在感が大きいこともこの専修課程の特色であり、教育と並んで研究にも比重がかけられていることを示している。大学院研究生や特別研究員を入れると、院生と学部生の比率は1:1に近く、しかも助手・院生・学部生の間の親密な交流もなされるため、助言を与えてくれる先輩には事欠かない。研究室内の談話室は常に学生同士、ときには教員も加えた議論と交流の場となっている。西洋史学研究室の組織原理を一言で表すならば、古典的リベラリズムということになろう。ここでは他人の邪魔をせず結果に自ら責任を負う限り、最大限の自由が与えられるのである。就職については、マスコミ、一般企業、公務員、教員など極めて広い職種への可能性がある。

西洋史研究をとりまく情況は絶えず変化している。ヨーロッパはEUによる統合などに見られるように絶えず自己革新を進めるダイナミズムを内包させているが、ヨーロッパを対象とする西洋史研究もその動きを反映し、最近では北欧・東欧・南欧にまで研究範囲が広がっている。近年、それらの地域を研究対象とする学生も増えており、研究者を志す者は自分の対象とする地域へ留学し、現地の言語を用いて研究に取り組むのが通常である。現地でのフィールドワークと一次史料に触れる体験はもはや欠かせないものとなった感がある。さらに、海外の研究者を招聘いて、シンポジウム、コロキアム、研究会を開催し、研究交流をはかることも盛んに行われている。

専門化・高度化が進むと同時に多様化している西洋史研究の分野においては、欧米の研究者と同じレベルでの研究が必要なのはもちろんのこと、一方で「日本から見たヨーロッパ」のかたちを示し、これまで見過ごされてきた西洋史の特質を捉えるような日本独自の視点も求められている。