
撮影 上野則宏
大智度論はナーガールジュナ(龍樹、150頃~250頃)の著作で、大品般若経(摩訶般若波羅蜜経)の注釈である。クマーラジーヴァ(鳩摩羅什、344~413)により漢文100巻に訳された。この写本は末尾の識語によれば、天平六年(734)に播磨国賀茂郡気多寺(既多寺とも、兵庫県加西市の殿原廃寺に比定される)で書写されたもので、地方で書写された奈良朝写経として注目される。他巻と共に天安二年(858)には山階寺(興福寺)にあって、その学僧により講義がなされ、その際の日本語の読み(訓点)が白墨で記入されていることから、9世紀の日本語の資料として重要である。後、洛東の禅林寺を経て12世紀には石山寺(滋賀県大津市)に伝えられた。同寺に現存する40巻は重要文化財に指定されている。
(国語学・月本雅幸)