担当教員: 熊木 俊朗
連絡先: 093-0216 北海道北見市常呂町字栄浦376
TEL.0152-54-2387  FAX.0152-54-2387

常呂実習施設は、北海道東北部のオホーツク海に面した北見市常呂町に所在する、教員2名が常駐する小さな研究室である。長いこと、文学部では唯一の本郷キャンパスの外にある施設であった。常呂町はオホーツク地域最大の河川、常呂川の河口部に位置しており、サロマ湖やオホーツク海といった豊かな環境のもと、ホタテや牡蠣の養殖など農林水産業が基幹産業として営まれ、近年はカーリング競技でもその名を知られるようになった。川や海の資源に恵まれたこの地区は、大規模な古代遺跡が残る場所としても古くから知られており、東京大学文学部は半世紀以上にわたって考古学の調査を継続してきた。

この地域における文学部の調査研究は1955年に開始された。きっかけは樺太アイヌ語の研究を目的とした言語学の調査であったが、遺跡の調査を望む地元の熱意に応えて考古学の発掘調査が1957年から始まり、その後は現在に至るまで毎年、地元の協力を得ながら­調査を継続している。その結果、この地区には約20,000年前の後期旧石器時代から、縄文時代、続縄文文化、擦文文化、そして考古学からみたアイヌ文化の時代まで連続して人々の暮らしが営まれ、数多くの遺跡が残されていることが判明した。特に、常呂川の河口部からサロマ湖に至る海岸部には2,500軒もの竪穴住居の跡が今も埋まりきらずに窪んで残っており、国内でも有数の規模となるこれらの遺跡群は、大学の調査を経て国の史跡「常呂遺跡」に指定された。また、北方に起源をもち、5世紀から9世紀にかけて北海道のオホーツク海岸に展開したオホーツク文化も当施設の重要な研究テーマであり、東北アジア世界との交流の解明も進めてきた。半世紀以上もの間、特定の地域で学術調査を継続した事例は極めて稀であり、その研究成果は日本列島北部地域の考古学研究の発展に大きく寄与してきた。

当施設の前身となる研究室が開設されたのは1965年、常呂町が建設した郷土資料館が最初の拠点となった。間もなく資料陳列館や学生宿舎が整備され、1973年には今の体制が整った。その後、施設に隣接した史跡に復元住居や展示施設を整備した「ところ遺跡の森」が北見市によって開設され、現在、当施設はこれら北見市の組織と一体になって地域連携型の研究や教育普及活動を推進している。学内向けに開講されている教育プログラムには、考古学専修の学生を対象とした野外考古学実習(8~9月)、全学の学生を対象とした博物館学実習(7月)と体験活動プログラム(2月)、学部前期の学生に向けた全学体験ゼミナール(5月)があり、いずれも実地体験を核とする実習となっている。また、一般向け講座として、文学部を中心とする東大の教員が講演する「文学部ところ公開講座」や、遺跡見学会なども実施されている。文学部がこの地で発掘した考古資料を展示する資料陳列館(写真)も併設され、通年で開館しているので、本学の学生はもとより、オホーツクの古代文化に関心を持たれた方は、ぜひ当施設に足を運んでいただきたい。

北見市の地図 常呂資料陳列館外観