撮影 上野則宏

室町時代後期(16世紀)の狩野派が描いた水墨扇面画として貴重な作例。印は「元久」とあるが逸伝で、狩野元信(1477~1559)の様式との類似から、その配下の絵師と推定される。このような扇面は初期狩野派の主力商品として量産された。画面右端に柳の老木を配し、枝にとまるヒヨドリが嘴を開いて鳴く姿を中央に描く。ふわふわとした羽毛、上部から垂れ下がる柳の葉のしなやかさ、老木の根元に生えた笹の葉のぴんとした張りなど、墨によって対象の質感を的確に表現しており、絵師の安定した技量がうかがえる。扇面であるが折り畳んだ跡はなく、もとは六曲一双の屏風に貼られていた。日本画家・入江波光(1887~1948)旧蔵。

美術史学髙岸輝