撮影 上野則宏

大正10年(1921年)に来日したクローデルは、昭和2年(1927年)までわが国にとどまった。大正15年(1926年)10月には、画家・富田渓仙とともに、「四風帖」と題した四本の扇を制作する。それぞれの扇には、詩人の飾り文字で書かれた詩篇と、画家のデッサンが描かれている。翌月、この四扇に加え、十六篇の詩篇と同じ数のデッサン、総計三十六本の扇を収めた新しい詩集が生まれる。その全体が二百四十部印刷され(その一部が東京大学に保管されている)、当時フランス大使館のあった場所の名前(《雉子橋の館》)にちなんだ『雉橋集』という題名が付けられた。写真の扇は、クローデルの自筆の文字が、同じ紙、同じ空間で、渓仙の筆と一体となっていて、ひとつの完全な作品を創りだしている。

フランス文学・シモン=及川マリアンヌ、翻訳、塚本昌則