古代・中世の日本ではさまざまな目的で絵図が作られていた。とくに中世の絵図には、境界争いなど土地に関わる訴訟に際して、自己の正当性を主張するために作成されたものが数多く残されている。写真もその一つで、14世紀のはじめ、西大寺との間で寺領をめぐって争っていた秋篠寺(いずれも現在の奈良市)が作成した絵図である。関連史料から、西大寺と秋篠寺との間にある池とその周囲の野山の用益権などが争点だったことがわかるが、この絵図でも画面中央に描かれた池の周囲に朱線が引かれ、「当論所」すなわち係争地と表示されている。また西大寺・秋篠寺背後の山(とくに樹木)の描写が念入りで、これらの山にも大きな関心が寄せられていたことがうかがわれる。重要文化財。

日本史学高橋典幸