採用面接には入社後の仕事ぶりを予測するための評価を行うという明確な目的があり、入社後に期待する業務内容や役割行動に基づき、どのような人物特徴を評価するかが決められる。しかしながら、先行研究では、実際に意図した人物特徴が評価されているかどうかについて、明確な結論が得られていない。

欧米で行われた採用面接研究では、面接評価が入社後の職務遂行度と平均的に有意な相関(基準関連妥当性)を持つことが示されたため、意図した内容が評価されていることは暗黙の前提として片付けられているように思われる。しかし、面接は評価ツールであって、さまざまな人物特徴の評価が可能であるため、何が評価されたかがわからなければ妥当性の値は意味をもたないし、実務の役にも立たない。例えば、面接で職務に関する知識の程度を評価したつもりで、実際は論理的思考力が評価され、この論理的思考力が職務遂行度と相関があったとする。これを知らずに職務知識の評価をテストで代替した場合、職務遂行度の予測が出来なくなる。また面接の妥当性向上のためには、幅広く職務知識を聞くのではなく、知識の適用について論理的に説明させる機会を設けることが必要になるなど、面接評価の精度を向上させる方法についても正しい示唆が得られない。

 本研究では面接研究の発展のためにはまず何が評価されるのかを明らかにすべきと考え、面接の評価内容を整理するための概念的な枠組みを提案することとした。面接で評価できる人物特徴は無数にあるが、これを整理する視点として、個別の組織や面接者が評価したいと考える人物特徴があり、加えて面接で対人コミュニケーションをとることで特定の個人特徴が自然に評価される可能性を考える。前者は採用基準として評価されるもので、職務および組織との適合予測のための評価である。後者は面接場面で自然に形成される一般的な対人評価であって、どの採用面接でも面接の初期印象として、特定の人物特徴(たとえば、外向性)にもとづき形成されると考えられる。

 実証研究では、日本の新卒採用面接時のデータを用いて、概念的枠組みで提案した3つの評価要素(職務との適合評価、組織との適合評価、面接場面での一般的な対人評価)がいずれも最終的な面接評価に影響することを確認した。また、各評価要素で評価されうる具体的な人物特徴が何かや、評価の性質に関する仮説も検証した。日本の新卒採用面接実務は先行研究が扱ってきた欧米での採用面接実務とは異なる性質を持つが、3つの評価要素はいずれの採用面接においても共通にみられる評価要素であるとの前提に立ち、先行研究を参考に仮説を構築した。検証にあたっては、以下の2つのアプローチを用いた。一つは、面接者による人物特徴の評価を、その人物特徴に関連する客観的な測度(たとえば 応募者が回答した性格特性尺度の得点)を用いて確認する外的基準アプローチで、もう一つは面接者自身がどのような内容を評価していると思っているかを用いて確認する主観的基準アプローチである。これら2つのアプローチは、対人評価の研究においてしばしば異なる知見をもたらすことが指摘されており、本研究では2つのアプローチを組み合わせて用いることで、面接の評価内容に対してより多角的な検討を行うことをねらいとした。

全部で7つの実証研究を行った。研究1と2では「面接場面での一般的な対人評価」について、研究3と4では「組織との適合評価」について、研究5と6では「職務との適合評価」について検討し、研究7では3つの評価要素が統合的に最終的な面接評価に及ぼす影響を検討した。研究の結果、「面接場面での一般的な対人評価」では、欧米の先行研究とは異なり、一般知的能力が会社や面接者の違いに関わらず評価されるとの結論は得られなかった。一方、性格特性では、外向性や情緒の安定性の高い応募者の評価が、一般に高くなることが示された。質問や返答の内容は面接ごとに異なるため、これらの一般に評価される人物特徴は、質問が行われる前の初期印象で評価された可能性があり、これを支持する結果も得られた。さらに日本の新卒採用では、採用基準として評価される「組織との適合」と「職務との適合」は分けて意識されることはないが、それぞれの意味合いをもつ適合評価が面接評価には含まれることが示された。「組織との適合」の検討では、同一組織に属する複数の面接者は、応募者の同じ価値観を用いて組織との適合評価を行ったことを示し、組織との適合評価に関する先行研究で指摘されていた、面接者との適合評価にすぎないのではないか、という可能性を否定する結果を得た。また、職務を特定せずに行われる日本の新卒採用であっても、面接の評価視点には将来の職務遂行における成功度を予測する意図が働いており、これが「職務との適合評価」につながることを示した。

さらに、実証研究からは、先行研究にはないいくつかの新しい知見も得られた。まず、初期印象での評価が面接の最終評価に与える影響が、予想以上に大きくなる可能性が示された。さらに、組織との適合評価では、これまで検討されていた価値観や性格特性で組織に類似した人が評価される適合以外に、協調性や誠実性が高く「温かい」人物であると思われた応募者の適合が高いと評価することが示された。また、職務との適合評価では、日本の新卒採用に典型的な職務経験のない応募者を対象とする面接で、欧米の面接のようにこれまでの仕事ぶりを尋ねることができなくとも、将来の仕事での活躍を妥当に予測できることが示された。

本研究の貢献は、個別性が高く、知見を共有し積み上げることが難しかった採用面接の評価内容を理解するために、一つの枠組みを提案したことにある。加えて、先行研究とは性質の異なる日本の新卒採用面接のデータを用いることで、先行研究から得られた知見の限界と、新たな研究視点を示したことにあると考える。最後に、この概念的枠組みの実務場面での活用可能性と、その促進のために取り組むべき研究課題を示した。