本稿は、今日の社会において、制度的支援の限界を乗り越え、いかにして人々の個別の「生」が支えられうるかという問いを立て、特に医療という領域に特化してその過程を検討するものである。
医療専門職は、医療が特に疾患とされるものに関わりつつ、人々の「生」を支えようとするものであることを考えれば、本来はケアを職務としている。ただ従来は、医療専門職は医療専門職は患者のニーズを定義すればケアを行えると見なされてきた。だが、医療化の進展により、今日の医療は転換期を迎えている。この転換期においては、医療専門職がニーズを定義すれば患者へのケアが行えるというわけではない。こうした中で、医療専門職が自らの制度的限界を乗り越え、個別の患者の「生」を支えられるとしたら、それはいかにしてだろうか。
本稿は、臨床現場に徹底して着目し、ケアを医療専門職と患者の相互行為過程として捉えた。そこから明らかになったのは、医療専門職が患者の観点を導入するという過程は、自己を問い直すことによって自明視していた限定性を乗り越えるという過程だったということである。そしてさらに、その過程においては医療専門職は従来の制度的あり方と無関係に内省を行うというより、それに立ち戻りつつ、差異を生み出すことによって自己を問い直し、限定性を乗り越えていた。また、そのような限定性の乗り越えは、各医療専門職間の相補的自律性によって支えられるということも明らかになった。
これらの検討から、今後の社会においてケアを実現していくための提言が導き出された。その一つが、ケアにおける職能を従来のように単独者をモデルとして考えるのではなく、複数者による相補的自律性によっても捉えることである。そうした相補的自律性を実現するようなシステム作りが求められる。もう一つには、ケアの担い手の中に相補的自律性が実現するだけの多様性を作り出すことである。従来のように有資格者以外はケアに携わるべきではないという考え方から、多様な人々によるケアという考え方へ移行する必要がある。それによって、今日の社会においてケアを実現する可能性が高められるであろう。