1.反射率地図アプローチの提案
我々は画像の濃淡、すなわち陰影から立体感を得ることができる。このことは、我々の視覚系が何等かの方法で、陰影から形状(立体形状)を推定している事を意味している。陰影から形状を推定するには、反射率地図と呼ばれる関数が必要である。これは、画像強度と物体表面の傾き(本研究では、視線と物体表面の法線の成す角である傾斜角で表現する)の関係を表す関数であり、物体の材質や、照明条件(物体を照明している光源が存在する方向や、照明光の強度など)をパラメータとして定義される。ある画像が与えられたとき、画像上の各点はそれぞれ特定の画像強度を持つので、反射率地図を調べることで、その画像強度に対応する傾斜角が分かる。従って、与えられた画像から、反射率地図を介して、物体の形状を傾斜角表現として得ることができる。このようにして陰影から形状を推定することを、陰影からの形状復元と呼ぶ。
我々の視覚系も、何等かの反射率地図を用いて陰影から形状を推定しているはずである。そして、その反射率地図の特性によって、我々が陰影から知覚する形状は大きく規定されていると考えられる。従って、我々の視覚系が行っている陰影からの形状復元を理解するには、視覚系が用いている反射率地図の特性を明らかにする必要がある。それにも関わらず、視覚系が用いている反射率地図に関する実証的な研究は、これまで全く行われてこなかった。そこで本研究では、5つの実験を通して、我々の視覚系がどのような特性を持つのかを明らかにすることを試みた。また、このような問題意識に基づく研究を、先行研究と区別して、反射率地図アプローチの研究と呼ぶことを提案する。
2.視覚系が用いている反射率地図の実験的推定:実験1
実験1では、視覚系が用いている反射率地図を推定するために、球の画像と円柱の画像を刺激画像として用い、そこから知覚される形状を測定した。そして、刺激画像の画像強度と、測定された知覚形状の傾斜角の関係から、視覚系が用いている反射率地図を推定した。このとき得られた反射率地図は、実験心理学的な裏付けを持つ反射率地図の最初のデータであり、先行研究の報告にはなかったものである。
先行研究の多くは、被験者の知覚を解釈する前提として、拡散反射面の反射率地図を用いている。拡散反射面は、ハイライトを生じないつや消しの面のことであり、その反射率地図は、余弦関数状となる。本実験で得られた反射率地図を、先行研究で用いられた拡散反射面の反射率地図と比較したが、本実験で得られた反射率地図は拡散反射面の反射率地図とは異なっており、むしろ、ハイライトに対応する鏡面反射成分を含むものと解釈できた。
3.実験1の結果に基づく被験者の知覚の予測:実験2
実験2では、刺激形状の画像を、実験1で得られた反射率地図を用いて生成した。実験1の結果が妥当なものであれば、その刺激画像から知覚される形状は刺激形状と一致するはずである。そこで、被験者が知覚した形状を測定したところ、刺激形状と良く一致するという結果が得られ、実験1の結果の妥当性が確認された。
4.視覚系は反射率地図を変化させているか?:実験3・実験4・実験5
実験3の目的は、視覚系が反射率地図を変化させている可能性を検討することである。実験3では、5種類の柱面を刺激形状として定義し、それらの画像から被験者が知覚した形状を測定した。そして、刺激画像が持つ画像強度と知覚形状の傾斜角の関係から、視覚系が用いている反射率地図を求めた。刺激形状が5種類あるので、5つの反射率地図が得られ、それらが二つのグループにはっきりと分離するという結果が得られた。このことは、視覚系が反射率地図を変化させていることを示唆している。なお、実験4,5として、系統的に変化する多種類の刺激画像を用いて反射率地図を推定した結果、視覚系が反射率地図を多段階に変化させていることがわかった。
5.まとめ
本研究では、視覚系が行っている陰影からの形状復元を理解するためには、視覚系が用いている反射率地図の特性に基づいて被験者の知覚を分析していく必要があることを指摘し、そのような研究を反射率地図アプローチの研究として提案した。そして、反射率地図アプローチの研究を実践した結果、視覚系が用いている反射率地図が鏡面反射成分を含むものであることと、刺激条件に応じて視覚系が反射率地図を変化させていることを示す実験結果を得た。反射率地図アプローチの研究は、単に被験者の知覚が正確か不正確かを問題としていたに過ぎない先行研究に代わるものとして、今後更に発展させていく価値があると思われる。
我々は画像の濃淡、すなわち陰影から立体感を得ることができる。このことは、我々の視覚系が何等かの方法で、陰影から形状(立体形状)を推定している事を意味している。陰影から形状を推定するには、反射率地図と呼ばれる関数が必要である。これは、画像強度と物体表面の傾き(本研究では、視線と物体表面の法線の成す角である傾斜角で表現する)の関係を表す関数であり、物体の材質や、照明条件(物体を照明している光源が存在する方向や、照明光の強度など)をパラメータとして定義される。ある画像が与えられたとき、画像上の各点はそれぞれ特定の画像強度を持つので、反射率地図を調べることで、その画像強度に対応する傾斜角が分かる。従って、与えられた画像から、反射率地図を介して、物体の形状を傾斜角表現として得ることができる。このようにして陰影から形状を推定することを、陰影からの形状復元と呼ぶ。
我々の視覚系も、何等かの反射率地図を用いて陰影から形状を推定しているはずである。そして、その反射率地図の特性によって、我々が陰影から知覚する形状は大きく規定されていると考えられる。従って、我々の視覚系が行っている陰影からの形状復元を理解するには、視覚系が用いている反射率地図の特性を明らかにする必要がある。それにも関わらず、視覚系が用いている反射率地図に関する実証的な研究は、これまで全く行われてこなかった。そこで本研究では、5つの実験を通して、我々の視覚系がどのような特性を持つのかを明らかにすることを試みた。また、このような問題意識に基づく研究を、先行研究と区別して、反射率地図アプローチの研究と呼ぶことを提案する。
2.視覚系が用いている反射率地図の実験的推定:実験1
実験1では、視覚系が用いている反射率地図を推定するために、球の画像と円柱の画像を刺激画像として用い、そこから知覚される形状を測定した。そして、刺激画像の画像強度と、測定された知覚形状の傾斜角の関係から、視覚系が用いている反射率地図を推定した。このとき得られた反射率地図は、実験心理学的な裏付けを持つ反射率地図の最初のデータであり、先行研究の報告にはなかったものである。
先行研究の多くは、被験者の知覚を解釈する前提として、拡散反射面の反射率地図を用いている。拡散反射面は、ハイライトを生じないつや消しの面のことであり、その反射率地図は、余弦関数状となる。本実験で得られた反射率地図を、先行研究で用いられた拡散反射面の反射率地図と比較したが、本実験で得られた反射率地図は拡散反射面の反射率地図とは異なっており、むしろ、ハイライトに対応する鏡面反射成分を含むものと解釈できた。
3.実験1の結果に基づく被験者の知覚の予測:実験2
実験2では、刺激形状の画像を、実験1で得られた反射率地図を用いて生成した。実験1の結果が妥当なものであれば、その刺激画像から知覚される形状は刺激形状と一致するはずである。そこで、被験者が知覚した形状を測定したところ、刺激形状と良く一致するという結果が得られ、実験1の結果の妥当性が確認された。
4.視覚系は反射率地図を変化させているか?:実験3・実験4・実験5
実験3の目的は、視覚系が反射率地図を変化させている可能性を検討することである。実験3では、5種類の柱面を刺激形状として定義し、それらの画像から被験者が知覚した形状を測定した。そして、刺激画像が持つ画像強度と知覚形状の傾斜角の関係から、視覚系が用いている反射率地図を求めた。刺激形状が5種類あるので、5つの反射率地図が得られ、それらが二つのグループにはっきりと分離するという結果が得られた。このことは、視覚系が反射率地図を変化させていることを示唆している。なお、実験4,5として、系統的に変化する多種類の刺激画像を用いて反射率地図を推定した結果、視覚系が反射率地図を多段階に変化させていることがわかった。
5.まとめ
本研究では、視覚系が行っている陰影からの形状復元を理解するためには、視覚系が用いている反射率地図の特性に基づいて被験者の知覚を分析していく必要があることを指摘し、そのような研究を反射率地図アプローチの研究として提案した。そして、反射率地図アプローチの研究を実践した結果、視覚系が用いている反射率地図が鏡面反射成分を含むものであることと、刺激条件に応じて視覚系が反射率地図を変化させていることを示す実験結果を得た。反射率地図アプローチの研究は、単に被験者の知覚が正確か不正確かを問題としていたに過ぎない先行研究に代わるものとして、今後更に発展させていく価値があると思われる。