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イスラム教は西暦7世紀に生まれた比較的若い宗教であるが、古代オリエント、ギリシア・ヘレニズム、インド・イランなどの文化を吸収・発展させて独自の輝かしい文明を生み出し、ユダヤ・キリスト教世界、インド亜大陸や東南アジアなどの周辺諸地域に大きな影響を与えてきた。西洋中世哲学や近代科学の発展は、イスラム世界の哲学や科学の影響を無視しては語れない。
イスラム世界の文化は、こうした歴史的意義をもつだけではない。その神秘思想体系は深い精神性を持った人類共通の知的財産として、混迷する現代社会の中で再評価されている。また、西アジアやソ連崩壊後の中央アジアなどにみられるイスラム復興を求める動きは、民族問題とも絡んで複雑な様相を呈しており、イスラム教についての正確な理解に対する社会的ニーズは急速に高まっている。
本専修課程は、このような時代の要請に応えて、イスラム教の思想や文化そのものを、主として文献によって歴史的・実証的に研究し、教育活動を行う組織として、1982年、わが国で初めて開設されたものである。
一口にイスラム学とはいえ、その研究対象は広く、イスラム教以前の古詩から、中世イスラム世界の教育制度、現代のいわゆるイスラム原理主義までその対象に含まれる。このため、思想研究とはいえ、その方法も多岐にわたっている。古典的な思想史的文献学的研究はもとより、哲学、宗教学の立場からイスラムを取り上げることも可能である。また法史学や比較法学の立場からイスラム法を研究することも可能である。ただし、どのような研究をするにしても、文献を自ら読む作業を避けていては実証的・批判的な研究態度は身に付かない。そのため本学科においては、必須ではないものの、アラビア語をはじめとする現地語を習得することが望ましい。
学科の性格としては、イスラム文化全般を扱うため、解放性が高いことが挙げられる。学生は、本学科を拠点として、東洋史、哲学、宗教学など、他学科の授業にも積極的に参加し、そこで学んだことを自分の研究に活かす。また逆に、他学科からの授業参加者も多い。この意味において、本学科は、イスラム文化をできるだけ広く学ぶための「場」を提供しているといえるであろう。
留学する学生も多く、その留学先は欧米とイスラム地域で半々くらいの割合である。また、外国からの留学生・客員教授も多い。これも本学科の解放性の高さを表しているといえよう。
全世界のイスラム教徒人口は現在18億人でなおも増加の一途を辿る。既に欧米ではイスラム文化との接触は日常の一部になっており、21世紀はまさに「イスラムの世紀」と言える。日本においても、イスラム研究の重要性が更に増していくのは明らかであり、今後は、日本のイスラム研究を国際的な場でアピールしていくことが目指される。