本論文は、社会情報としての企業情報について、ディスクロージャーの側面に焦点をあてた議論を試みる。企業情報ディスクロージャーを巡っては、その作成者たる企業とこれを利用する様々な関係者が存在するが、これを情報の送り手と受け手の関係の枠組みから捉え議論を進めていく。企業を取り巻く環境は、コーポレートガバナンス、金融資本市場に見られるよう、今日、大きく変容しつつあり、特に、インターネットの登場は、企業情報ディスクロージャーに極めて大きなインパクトを与えている。企業情報ディスクロージャーは、まさに、変容しているのである。これは、法令等による強制的企業情報ディスクロージャーの持つ意味の低下、それに、任意企業情報ディスクロージャーの重要性向上となって現れてきている。これを理論的側面から見れば、送り手‐受け手間の権利義務関係としてのアカウンタビリティ理論、受け手指向に立った意思決定有用性理論に代わる、送り手‐受け手間の双方向的関係を説明しうる新たな理論が求められていると考えられる。そこで、本論文では、先行コミュニケーションの累積性、フィードバックの繰り返しを重視する双方向的なコミュニケーションモデルを援用し理論枠組みを構築する。
任意企業情報ディスクロージャーの重要性向上は、強制的企業情報ディスクロージャーと任意企業情報ディスクロージャーの融合をもたらすと考えられるが、受け手からフィードバックを得た送り手が、十分なフィードバックを実現することは、現実問題として極めて困難であることから、本論文では、データベース・ディスクロージャーの必要性を指摘する。データベース・ディスクロージャーのもとでは、双方向的コミュニケーションを実現するフィードバックの繰り返しも可能となり、コミュニケーションも累積される。ここに双方向的コミュニケーションを実現する企業情報ディスクロージャーが確立されるのである。本論文では、この「情報の送り手と受け手との間で双方向的なコミュニケーションを実現する」企業情報ディスクロージャーを企業情報ディスクロージャーのあるべき姿としての純粋理論的な企業情報ディスクロージャーと定義し議論を進めていく。ここで、本論文で議論の対象とする企業情報の範囲を明らかにすると、企業情報は、内外の諸利害関係者の意思決定に有用な企業内容についての知識をいい、会計的把握が可能か否かにより会計情報と記述情報とに分類されるが、この双方を含むものとして企業情報を捉えていく。
まず、企業情報ディスクロジャーにインパクトを与えているコーポレートガバナンスの変容、金融資本市場の変容、チャンネルの変容といった社会経済システムの環境変化について論じる。中でも、インターネットチャンネルの登場は、企業情報ディスクロジャーを根本から変革していくことを明らかにしていく。次に、従来からディスクロージャーの理論的根拠とされてきたアカウンタビリティ概念と意思決定有用性概念について検討するとともに、変容する今日の企業情報ディスクロージャーをこれらの説明概念で論じることは不可能となることを明らかにする。そして、変容する企業情報ディスクロージャーを理論的に説明する概念を確立すべくコミュニケーション概念について検討することで、新たなる理論枠組みを構築する。さらに、特定の法目的、規制目的といった制約下にある強制的企業情報ディスクロージャーが、任意企業情報ディスクロージャーの果たす役割の向上とともに、相対的にその存在意義を失っていく現状を概観する。ここでは、基準設定主体のあり方を問い直すことが不可欠である。最後に、企業情報ディスクロージャーの今後の方向性として、データベース・ディスクロージャーとこれを支えるシステム監査について論じる。