本研究は「消費者として個人」が情報ネットワーク社会の形成に果たしている役割に関心をおいて、行為としての「消費」と主体としての「消費者」と社会の関係、そしてその関係においての場またはメカニズムとしての「市場」を分析対象にし、情報ネットワーク化による変化とその方向性を探ることを目的にする。
まず本研究は個人と社会との関係に「相互規定性」という観点をとり入れ、個人がアイデンティティをもって自分を規定するためには社会が必要であり、また社会がアイデンティティをもつためには個人の行為が必要だというものである。したがって、個人の自由行為である消費はただ商品の使用価値を求めるだけのものではなく、社会的意味における側面をもり、また市場は「個人」と「社会」を結ぶ場とメカニズム、すなわち媒介的な役割をもつものとして位置づけ議論を進めた。
その結果、「消費者-商品-社会」の関係は、消費者と社会との間を媒介する役割をしながら、選択機構としての市場の外側に新たな消費者同士の評価機構としての関係が成立し、この消費者間関係は次第に既存の市場のもつ選択・評価機能を補完する関係になるか、またはそれより優位に立つようになる可能性もあることを明かにした。
また個人は消費という行為を通して社会の変化に参加することになるが、その消費は関係形成のメカニズムまたは場としての市場によって組織化される、そして今日の情報ネットワーク社会の到来によって新しく登場し成長している市場はより密接な消費者間関係とより多様な選択・評価のための環境を提供しながら個人の行為を組織化することを、主に電子商取引と電子マネーの発展を中心に議論した。
インターネットの普及による電子商取引の発展はより消費者主導の性格の強い市場を登場させることにより消費者間関係を強化し、またネットワークと電子マネーの発展は市場で個人が自分のアイデンティティを基盤にした消費がより行いやすい環境を構築されることを可能にする。そして情報ネットワーク社会では消費者には自分のアイデンティティにマッチした社会的ネットワークの選択肢が増え、そのネットワークを通じてアイデンティティを普及させることができ、また当該のネットワーク評価を高めることによって自分の望ましい社会アイデンティティを獲得することができる。
このように考察から情報ネットワーク社会の到来による市場変化の方向性を「アイデンティティ重視への転換」という観点から論じ、市場とは有機的な関係から形成されるもので、消費者は市場に参加し自由に対話(自己を語る行為)することで変わっていき、この市場と消費者の相互作用によって社会はある方向性をもって転換するが、情報ネットワーク社会ではその方向性はアイデンティティ重視というものであることに明かにした。