本研究の目的は,近年広がりを見せている,日本の中等教育における英語以外の外国語教育の実状を可能な範囲で明らかにし,かつ高等学校におけるロシア語教育の現状・歴史・成果・課題などを究明することにある。
基本的な研究方法は,まず文部省及び教育機関の調査資料,学校資料,さらには研究文献などを基礎資料として,その資料からわかる範囲内で中等教育段階において英語以外の外国語教育を実施している学校の存在を特定し,当該外国語教育の実状を把握・整理する。次に,数字からは見えない点などについて,関心項目に基づいた取材調査票を作成し,各学校を訪問して,担当教師をはじめとする学校関係者に当該外国語の教育現場の状況などを詳しく取材調査するというものである。その調査によって得た様々なデータを全体として構造が見えてくるまで積み上げる。そして,ある程度取材データが集まったところで類型化・体系化を図るという帰納法的な手法である。したがって,研究自体の性格はフィールドワーク的な要素を色濃く持っていると言える。外国語教育の実態調査研究は,研究領域としては,外国語教育の目的論,教授法・指導法,教材論,教育課程論などの領域に様々な視点と資料を提供しうるという意味で,外国語教育学の一端に含められるものである。
全国規模の,高等教育における英語以外の外国語教育に関する調査研究の先行研究文献は比較的存在しているが,初等・中等教育における調査研究となると極めて少ないのが実状である。とりわけ.全国規模での,幼稚園,小学校,中学校における英語以外の外国語教育の調査研究ならびに高等学校におけるロシア語教育の調査研究については,筆者の知る限り,皆無に近い状況である。したがって,本研究は,日本の中等教育における英語以外の外国語教育,とりわけ,高等学校におけるロシア語教育の調査研究としては,おそらく先駆的な研究事例となるはずである。
本稿の構成は,「中等教育における英語以外の外国語教育」と「高等学校におけるロシア語教育」の二章立てである。第一章については,中学校と高等学校に加えて,高等工業専門学校も調査対象として記述されている点が特徴的である。また第二章では,1997年度のロシア語設置校全21校を中心に実施した取材調査に基づく内容が詳細に記述されている。さらに,筆者はロシア語を教える側の教師の教育意識と学ぶ側の生徒の学習意識の傾向性を調べるために1999年に大規模なアンケート調査を行ったが(日本人教師10人・ネイティブ教師10人;10校,生徒509人;16校),その集計結果を踏まえた検討・考察が含まれている。
また,本研究の成果の一部を,2001年3月13~16日にモスクワ大学文学部で開催された国際会議「ロシア語:その歴史的運命と現代的状況」(ロシア科学アカデミー・モスクワ国立大学・アメリカ国際教育評議会の共催)において研究発表したが,その内容も納められている。