文学部とは、人が人について考える場所です。
ここでは、さまざまな人がさまざまな問題に取り組んでいます。
その多様性あふれる世界を、「文学部のひと」として、随時ご紹介します。
編集部が投げかけた質問はきわめてシンプル、
ひとつは「今、あなたは何に夢中ですか?」、
そして、もうひとつは「それを、学生にどのように伝えていますか?」。

守川 知子 准教授(東洋史学研究室)

第1の答え

今、関心をもって研究していることは「墓地」です。というのも、わたしはこれまでシーア派の聖地巡礼とその歴史について研究してきましたが、シーア派の「聖地」はいずこもすべて「墓」だからです。「墓」といっても驚くにはあたりません。インドのタージ・マハルも、ヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂も、イベリア半島最西端のサンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂も、すべて「墓」です。「墓」が人びとの信仰を集めて「聖地」となり、「都市」となる。歴史のこのダイナミズムに魅せられています。もちろん、西アジアにも墓ではない由緒をもつ「聖地」がたくさんあり、それらの由緒や発展・衰退の経緯を文献史料から調べています。

歴史研究では、史料を丹念に読み込んでイメージを膨らませていくことにより、過去の事象を解き明かすことができます。今、関心をもっているイラクのナジャフという都市とそこにある世界最大規模の墓地は、アラビア語、ペルシア語、オスマン・トルコ語、英語、フランス語、ドイツ語など、様々な言語で語られた史料があります。もちろん、絵画資料もありますので、これらを読み込むことにより、立体的なイメージを作っていくことが可能となります。

また、「聖地」は訪れることにこそ意義がありますので、「苦しい時の神頼み」の心境で、いつも「聖地」を探しています。世界にはまだまだたくさんの「聖地」がありますので、いろいろな国や地域の聖地に出かけていきたいです。(ちなみに写真はイランで撮ったものです。ひとつはイスファハーンのアルメニア使徒教会のヴァーンク教会で、イランに暮らすアルメニア人たちにとっては「聖地」であり、敷地内には墓石がたくさんあります。もうひとつはイラン北西部にある数千年前の遺跡とされるシャフレ・イェリ遺跡です。これらの石像の用途はまだ明らかになっていませんが、墓石もしくは神殿への奉納物と考えられています。)

 

第2の答え

歴史学は、過去の事象を扱う学問なので、裏づけを取るために、史料をしっかりと読むことが大切です。史料探しは宝さがしみたいなもので、史料を読むと、そこから世界が大きく広がります。われわれの分野はマイナーかもしれませんが、その分、みなさんが見つけた史料を読む人は世界でも両手で足りるくらいかもしれません。それこそ、<新しい発見>がその<史料>には詰まっており、世界を相手に勝負することができるのです。史料という宝箱を開けて、歴史研究を楽しんでほしいですね。

 

 

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