【本採択のポイント】

  • 名古屋大学の岩田 直也 准教授らの「Humanitext(ヒューマニテクスト)」プロジェクトが、Google元CEOのエリック・シュミット氏らが設立した米国Schmidt Sciences(シュミット・サイエンシズ)※1の国際研究プログラム「Humanities and AI Virtual Institute (HAVI:人文学とAI仮想研究所)※2」に採択。(助成額:3年間で81万6,667米ドル(約1.3億円))
  • 世界42か国・501件の応募から19件が採択。
  • 本プロジェクトでは、AIが提案し専門家が検証する「人間とAIの共創」で古典文献間のつながりを知識グラフ化し、信頼できるAIの実現を目指す。(プロジェクトの詳細については【プロジェクト概要】(4頁~)を参照)

【採択概要】

 名古屋大学デジタル人文社会科学研究推進センターの岩田 直也 准教授(クロスアポイントメント機関:国立情報学研究所)を研究代表者とし、桜美林大学の田中 一孝 教授、東京大学の小川 潤 助教、大向 一輝 准教授、国立情報学研究所の上松 大輝 特任研究員から成る研究グループのプロジェクト「Humanitext: A Human-AI Co-Creation Platform for Verified Classical Scholarship(検証可能な古典研究のための人間とAIの共創プラットフォーム)」が、米国の非営利団体Schmidt Sciencesの「HAVI」に採択されました。
 2026年のHAVIには世界42か国から501件の応募があり、19件が採択されました。本プロジェクトへの助成総額は、2026年10月から2029年9月までの3年間で81万6,667米ドル(約1.3億円、1ドル=158円換算)です。助成金は2期(各18か月)に分けて交付され、第2期分は進捗評価を経て交付される予定です。
本プロジェクトでは、AI(大規模言語モデル)が古典文献どうしの引用・批判・言い換えといった「つながり」の候補を提案し、専門家がそれを検証・修正することで、文献間の関係について根拠をたどれる形でデータ化します。専門家が検証した知識に基づいて答える、信頼性の高いAIの実現が期待されます。
 

【補足説明】

※1 Schmidt Sciencesについて
 米Google社の元CEOであるEric Schmidt(エリック・シュミット)氏と、Wendy Schmidt(ウ ェンディ・シュミット)氏が2024年に設立した米国の非営利団体です。AI・先端計算、天体物理学、生命科学、気候、宇宙などの分野を中心に、最先端のツールを活用して科学的知見とブレークスルーを加速させる取り組みを行っています。
2026年HAVI採択プロジェクト一覧(英語)
https://www.schmidtsciences.org/havi-2026-announcement/

※2 HAVI(Humanities and AI Virtual Institute)について
 Schmidt Sciencesが運営する、人文学とAIの研究者が協働して双方の発展を目指す国際研究プログラムです。人類の歴史・文化・表現を探究する学際的プロジェクトを支援し、開発されたコード、モデル、ベンチマークデータなどを広く公開することを重視しています。過去2年間の助成総額は2,100万米ドルを超えます。
https://www.schmidtsciences.org/humanities-and-ai-virtual-institute/

【プロジェクト概要】

■ 研究の背景
 西洋古典学は、ひとつの文章に対して複数の読み方や翻訳、何世紀にもわたる注釈の伝統が積み重なる、解釈の層の厚い学問です。こうした知識は単純なデジタル化にはなじみにくく、汎用のAIに尋ねても、出典の取り違えや存在しない引用といった誤り(ハルシネーション)が生じやすいという課題がありました。研究グループはこれまで、ギリシア語・ラテン語の古典2,300作品以上を対象に、自然な言葉で問いかけると根拠となる原典箇所を示して答えるAI研究プラットフォーム「Humanitext Antiqua(ヒューマニテクスト・アンティクア)」を開発・公開してきました(2024年8月公開)。
■ 研究の内容
 本プロジェクトでは、この基盤の上に、AIと専門家が協働して古典文献間の関係を構築する仕組みを開発します(図1)。まず研究者自身が、哲学の注釈・歴史叙述・文学的引喩といった複数のジャンルから500件の関係を手作業で構築し、データ設計の検証と評価の基準とします。そのうえでAIが文献間の関係の候補を提案し、専門家と大学院生のチームが一件ずつ採択・修正・却下を判断します。検証された関係は、「引用」「引喩」「言い換え」「批判」といった種類や、どちらがどちらを引用・批判しているかという向き、確からしさ、検証の来歴をもつグラフ(カノニカル・グラフ)として蓄積され、WikibaseとグラフデータベースNeo4jを組み合わせて管理します。さらに、検証済みの関係をAIの回答根拠として活用する手法(GraphRAG)により、従来の検索拡張生成(RAG)と比べてAIの回答の信頼性や引用の正確さがどれだけ向上するかを、外部の古典学者の協力も得て評価します。3年間で1万件以上の検証済みの関係の構築を目指し、3年目にはラテン語文献にも展開して、言語や文学伝統を越えて適用できることを示します。


図1:AIと専門家の協働による知識グラフ構築のサイクル
 
■ 期待される成果と波及効果
 構築した知識グラフ、注釈用ソフトウェア、評価用ベンチマークデータはオープンなライセンスで公開し、知識グラフに基づく機能はHumanitextで一般にも提供します。どの議論が注釈者の間で最も争われてきたか、思想が時代や伝統を越えてどう変容したかといった、これまで定性的に問われてきた問いに、データに基づいて答えられるようになります。また「AIが提案し、専門家が検証し、検証済みの知識がAIを改善する」という仕組みは古典学に限らず、医学文献や法律分野など、正確さが強く求められる専門分野への応用も期待されます。
 

図2:本プロジェクトの基盤となるHumanitext Antiqua

Humanitext:https://humanitext.ai/
 
■ 研究体制
氏名 所属・職名 主な役割
岩田 直也
(研究代表者)
名古屋大学 デジタル人文社会科学研究推進センター 准教授(クロスアポイントメント機関:国立情報学研究所) 研究統括、間テクスト性研究の設計、RAG/GraphRAG開発の統括、専門家としての最終検証
田中 一孝 桜美林大学 リベラルアーツ学群 教授 ギリシア哲学の専門的知見、注釈の品質管理(作業指針の策定、注釈者間の一致度の評価)、専門家としての最終検証
小川 潤 東京大学 大学院人文社会系研究科
助教
グラフ設計、LOD連携、注釈インターフェース開発
大向 一輝 東京大学 大学院人文社会系研究科
准教授
知識グラフ基盤全体の技術的統括
上松 大輝 国立情報学研究所 特任研究員 Wikibaseの構築、人物・作品などの同定