本学部の卒業生であり、ノーベル文学賞受賞者である大江健三郎氏の訃報に接し、深い追悼の意を表します。

大江氏は、1954年、本学文科二類に入学、1956年、文学部仏蘭西文学科に進学し、在学中に執筆した「奇妙な仕事」が高く評価され、作家としてデビューをはたします。翌1958年には短篇「飼育」で第三十九回芥川賞を受賞しました。数多くの国内外の文学賞を受賞した他、1994年にはノーベル文学賞を授与されました。

本学部で教鞭を執っていた故・渡辺一夫教授の著作に触れ、大江氏が本学への進学を決意したことはよく知られていますが、卒業してからも本学部との関わりは深く、2007年5月18日には、文学部・布施学術基金主催による安田講堂での講演会に参加され、「知識人になるために 世界の普遍的な教養を目指して」と題してご講演いただきました。

2021年1月には、大江氏代理のご家族と人文社会系研究科・文学部とのあいだで、自筆原稿などの寄託に関する契約締結式が行われました。これを受けて、現在、「大江健三郎文庫」(仮称)の設立準備を進めておりましたが、その最中での訃報となり、大変残念に思います。貴重な資料は、東京大学のみならず人類の文化資産として受け入れ、世界に向けた研究拠点として同文庫を位置づけたいと思っております。

これまでの多岐にわたる活動に感謝申し上げ、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 

              2023年3月14日

        東京大学人文社会系研究科研究科長
                  秋 山  聰