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社会心理学は,社会的な環境における人々の行動と,その背後にある心的過程,社会文化的な基盤との間のダイナミックな相互規定関係について研究する実証科学である。研究対象は,社会的状況の認知・理解やそれを支える情報処理過程,援助・攻撃・協力・共感性などの対人的行動,規範の形成やリーダーシップ,集団の意思決定などの集団・組織行動,文化・歴史的な影響過程など,幅広い。また,基礎的な知見を,司法をめぐる問題や,高齢化,インターネットなど,現代のさまざまな社会問題や社会現象の解明に応用することもなされている。現在の社会心理学は,他の心理学領域はもちろん,哲学・経済学・法学・政治学などの人文社会科学領域,脳科学・生物学・情報科学などの自然科学領域との活発な相互交流を軸に,人間の社会行動について学際的な議論を行うプラットフォームとしても機能している。社会心理学研究室は1974年に設置された比較的新しい研究室であるが,このような社会心理学の展開の中で,多様な実証的研究を生み出すと共に,学際性と国際性を重視して先端的な実績を上げてきた。
教育に関しては,実験や調査法を中心とする実証研究を行うスキルの養成を重視している。学部教育で社会心理学調査実習,社会心理学実験実習,および社会心理学統計の各4単位を必修化し,仮説検証型の実証研究をインテンシブに学ぶ。複雑な社会現象や人々の行動に関して検証可能な仮説を生成し,それを妥当な操作によって検討するためには,社会現象や行動を分析的に見て,それらに影響している諸要因を抽出し,適切な概念化を行う能力,さらには,統計的分析能力が要求される。また卒業論文では,各自がオリジナルな仮説を検討するための実験や調査を行い,得たデータに基づき「社会の中における私たち」の心の仕組みや,社会現象に関わる社会心理学的要因の働きについて考察を行う。大学院教育では,各教員が行うリサーチ・ミーティングでの徹底した議論のもと,論文執筆・学会発表・学術誌投稿を積極的に行っている。また,国際誌への論文投稿や国際学会での研究発表,国際共同研究を奨励したりするなど,先鋭な若手研究者の育成をはかり,実績を上げている。
研究面では,亀田は人々がどのような社会的意思決定を行うのかを中心に,価値の形成とその働きについて,脳科学・経済学・情報科学・進化生物学の研究者と共に,学際的な融合研究を進めている。唐沢は道徳的判断,他者の心的状態の推論,自己制御を中心とした社会的情報処理過程や,社会的場面での判断バイアスが対人態度や対人行動への動機に与える影響について研究している。村本は,“心の文化差”をもたらす社会環境要因の解明を目指した比較文化研究に携わるほか,現実の組織や共同体をフィールドとして,集団規範や文化の生成・維持過程を探究している。大坪は,ヒトという極めて社会的な動物の社会行動の特徴,特に対人相互作用の特徴を進化論的な観点から理解することを目指している。岩谷は,集団内での相互作用がもたらす規範の生成・維持プロセスについて,社会の流動性などの社会生態学的要因に着目しつつ検討を行っている。
社会心理学研究の卒業生の進路は,大学院の他,民間企業,情報産業,官庁など多岐にわたっている。配属される部門は,人事,教育,調査,取材,システム・エンジニアリングが比較的多いが,それは実習で学んだことが社会に出て武器となることの証であるとも言える。