文学部とは、人が人について考える場所です。
ここでは、さまざまな人がさまざまな問題に取り組んでいます。
その多様性あふれる世界を、「文学部のひと」として、随時ご紹介します。
編集部が投げかけた質問はきわめてシンプル、
ひとつは「今、あなたは何に夢中ですか?」、
そして、もうひとつは「それを、学生にどのように伝えていますか?」。

向井 留実子 教授(次世代人文学開発センター)

第1の答え

東京大学では4,500人以上の留学生を受け入れていますが、その留学生と互いに学び合えるような接触をした経験のある日本人学生はどのくらいいるでしょうか。せっかく多くの留学生が身近にいるというのに、残念ながらごくわずかだと思います。異文化背景を持つ人々と接触することで多くのことが学べると頭では理解していても、なかなか接触の機会が得られないということなのでしょう。それなら、交流できる場や仕組みを作ればいいのではないか、ということになりますが、表層的な交流ではなく、深い学びを誘発する交流の場を作るには、関係する人々の個々の事情に配慮する必要があり、想像以上に難しいことなのです。そこで、数年前から私の専門である日本語教育学の知見を活かして、互いに学び合える接触の仕組みを制度的に構築しようと夢中になっています。

 

第2の答え

日本語教育学の強みは、留学生あるいは外国人が日本語や日本文化に接したとき、どのような困難が生じ、どう解決したらよいか、見通しが立てられることです。私は、予測される困難と日本人の関心や志向を突き合わせることで相互の学びある接触が創出できると考え、これまでに3つの試みを行ってきました。日本での学習方法の相談や日本語添削の希望に応える「学習サポート」、留学生が苦手とする日本人との付き合い方について考える「集中講座」、留学生が講義理解の前提として知っておくべき教養的知識を提供する「特別講座」です。いずれも院生が指導・支援にあたるようにして、院生側にとっても学びの機会となっています。このような場を提供することで、異文化背景の人々との接触の必要性や意義を伝えようとしています。  

実は、外国人と日本人との意味ある接触は、大学に限らず地域社会でも必要とされています。少子高齢社会となった日本を支えるために受け入れている外国人とどのように付き合っていくかは今の日本社会にとって大きな課題です。私はある地域でその接触のあり方についてフィールドワークをしながら研究しています。学生の皆さんには、その実践を紹介し、さまざまな立場にある外国人と接触することの面白さや外国人との共生のあり方も伝えていきたいと考えています。

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