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教員紹介

楯岡求美 教授

 当初は20世紀初頭のロシア・アヴァンギャルド演劇を研究していましたが、いまでは、19世紀から現在までのロシアおよび旧ソ連圏の文学、演劇、映画などに対象を広げて研究をしています。主な関心は、無味乾燥で閉塞的な日常に対し、芸術表現がどのように対抗し、人々の感覚を覚醒しうるのか、ということです。同時にその裏には、どのように芸術表現が人々の目をふさぎ、安易な癒しや適応を導くのか、という問いもあります。
 「殺すなかれ」「搾取するなかれ」という大前提は誰もがわかっていることですが、われわれは過去2世紀以上にわたって戦争や革命、紛争、格差などによって大量殺戮や略奪を繰り返しています。なぜ人は善良になれないのか。「善良」とはなんであるのか。
 諸研究はこれらの問いに取り組んでいるわけですが、文学・文化研究もこのような問いとも関わっています。ただし、フィクションというパラレルワールドを作ることによって、少し違うアプローチをします。明治以降の日本同様、18世紀以来、急速な近代化による社会変革を経験し、貪欲に新しい文化表現を取り込むとともに独自性の追求を余儀なくされたロシア・旧ソ連圏では、このような問題意識を強く意識し、また異化しようとしている作家が多いという特徴があります。笑いやアイロニーを武器に、従来の意味体系を解体し、実験的表現によって意味と記号の関係を刷新しようとする創作作品を通して、人間の諸相を考えてみたいと思います。

主要論文:

  • 「メイエルホリドの演劇性-チェーホフ, コメディア・デラルテとの出会い」(小森陽一・沼野充義・兵藤裕己他編『講座 文学5 演劇とパフォーマンス』岩波書店, 2004年)
  • 「ナルキッソスの水に映る街 -劇場都市ペテルブルグ」(望月哲男編著『創像都市ペテルブルグ -歴史・科学・文化』北海道大学出版会、2007年)
  • 「創造と継承:エレヴァンの演劇事情紹介」(中村唯史編著『ロシアの南』山形大学出版,2014年)。

平松潤奈 准教授

 2022年にロシアがウクライナに対して開始した戦争は、ロシアとその周辺地域とが抱える問題や、世界におけるロシアの位置づけの問題 ––– 周辺諸国の植民地化、ナショナリズム、西欧世界との対立、国内の弾圧など ––– を浮き彫りにしました。これらの問題は近年突如として生じたものではなく、ロシアの近代国家形成に付随して生じてきた古く根深い問題であり、文学や文化もそうした問題の一部をなしています。私はこれまで主にこうした問題に関連する文学・文化現象を研究してきました。具体的には、大規模な国家暴力がふるわれたスターリン時代やその前後のソ連の体制的/反体制的文化、ソ連の国家暴力にまつわるポストソ連時代のロシアの記憶文化、また最近では、19世紀文学(主にドストエフスキー作品)における西欧的/反西欧的言説の問題などです。しかし、こうした問題を考えるとき、単に抑圧/非抑圧、西欧/ロシアといった対立構図をあてはめるだけでは、問題の本質的理解にはつながりにくいでしょう。いかなる通時的・歴史的条件のもとで問題が生みだされてきたのかについて、メディア論、新経済批評、身体表象などの多様な観点(とりわけ文化の物質的な側面へのアプローチ)を取りいれつつ研究や授業をおこなうようつとめています。上記のような諸問題を批判的かつ綿密に検討していくことが、現在のスラヴ地域文化研究に課せられた主要課題の一つだと考えています。

主要論文:

  • 「顔と所有 ––– スターリン体制下の文学にみる個人と親密圏」(松井康浩他編『ユーラシア世界 第4巻 公共圏と親密圏』東京大学出版会、2012年)
  • 「テロルから日常へ ––– ポスト・スターリン期の文学と社会」(浅岡善治他編『ロシア革命とソ連の世紀 第4巻 人間と文化の革新』岩波書店、2017年)
  • 「記念碑の存在論 ––– ポスト・ソヴィエト・ロシアのメモリースケープを望んで」(越野剛他編『紅い戦争のメモリースケープ:ソ連、中国、ベトナム』北海道大学出版会、2019年)

宮川絹代 助教

 20世紀ロシア文学が専門ですが、特に1917年のロシア革命を機に国外に亡命した作家や詩人による第一次亡命ロシア文学を軸に研究を進めてきました。出発点にあるのは、「ロシア」という個別性・特殊性と、「文学」という普遍性とが交わるところへの関心、国や文化から人間一人一人に至るさまざまなレベルにおける自己と他者の問題への関心です。第一次亡命ロシア文学の担い手は、亡命前に文学活動を開始していた「年上の世代」と、亡命後に作家や詩人として活動を開始する「年下の世代」とに分けられますが、どちらも「ロシア」に対して強い渇望を抱いています。前者は、革命以前のロシア文学、文化の伝統を守り、継承することを使命とし、後者もまた、亡命先の寄る辺ない生活の中で、定かな記憶すら持たない「ロシア」を追い求めました。傷つけられ、失われた「ロシア」は亡命者たちを呪縛し、幻想の「ロシア」を生みます。この「文学的ロシア」に分け入り、その境界を探りながら、個の他者との関係についても考え続けていきたいと思っています。特に知覚イメージに関心があり、主にイワン・ブーニンという作家を扱ってきましたが、イワン・シメリョフ、ボリス・ザイツェフ、ゲオルギー・イワーノフ、ガイト・ガズダーノフ、ボリス・ポプラフスキーなどにも興味があります。

著書:

  • 『ブーニンの眼――イメージの文学』(水声社、2013年)


主要論文:

  • 「ロシアから持ち去られた青:ゲオルギイ・イワーノフのシンボルとイメージ」(『ODYSSEUS東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻紀要』第21号、2017年)
  • “Skin as the Hurt Border between Russia and Heavens in Poplavsky’s Novels”(『札幌大学女子短期大学部紀要』第68号、2020年)