活動報告

The International Conference "Exploring New Dimensions of Empathy and Care Ethics: Cross-cultural and Cross-field Dialogues"

概要

日時
2023年 10月 16日(月)・18日(水) 9時 00分~ 17時 00分
実施方法
対面開催
会場
国際文化会館(東京都港区六本木5丁目11−16)
主催
東京大学大学院人文社会系研究科 死生学・応用倫理センター 上廣死生学・応用倫理講座
*本国際会議は公益財団法人上廣倫理財団の2023年度国際シンポジウム助成によって開催されました。

参加について

参加方法:

参加受付は終了しました。

開催報告

 2023年10月16日・18日に死生学・応用倫理センター上廣講座主催で、“Exploring New Dimensions of Empathy and Care Ethics: Cross-cultural and Cross-field Dialogues”=「共感とケアの倫理の新たな次元を探究する:異文化間対話と異分野間対話」と題する国際シンポジウムを開催した。本シンポジウムは、公益財団法人上廣倫理財団の2023年度国際シンポジウム助成によって可能になったものであり、上廣倫理財団には心より御礼申し上げる。
 本シンポジウムでは、基調講演者として現代倫理学の分野で世界的に著名なMichael Slote教授(マイアミ大学)をお迎えし、徳認識論の分野で著名なHeather Battaly教授(コネティカット大学)、ケア認識論や比較ケア倫理学の第一人者であるVrinda Dalmiya教授(ハワイ大学)にもご講演いただいた。また国内からは若手・中堅の研究者を中心に招聘した。
 基調講演者のSlote教授の講演は16日、18日の両日に行われた。講演では、ケアの倫理における共感概念、また心の哲学における信念概念や合理性概念が、yin-receptivityとyang-purposivenessの相互補完的な働きによって新たに捉え直された。その結果、ケアの倫理の発想が、陰陽の発想によってどのように豊かに再解釈できるのかが明らかにされた。
 16日は基調講演の他に6つの発表が行われた。Anton Sevilla-liu氏(九州大学准教授)は、和辻哲学の魅力と問題性を、ケアの倫理が重視する個別性・具体性・受容性の観点から明らかにした。石原悠子氏(立命館大学准教授)は、ケアの倫理においてまだ十分に着目されていない「遊び」という要素について、上田閑照やガダマーの議論と比較しつつ考察を行った。河野哲也氏(立教大学教授)は、間合いに含まれる緊張感が、どのようにケアを触発し促進するのかを明らかにした。飯塚理恵氏(学術振興会特別研究員/関西大学)は、Slote氏の受容性に関する見解をさらに発展させ、受容性が認識的徳であることを示す議論を展開した。Heather Battaly氏(コネティカット大学教授)は、他者志向的な認識的ケアと自己志向的な認識的ケアがあることを示し、両者のバランスを取ることが重要であることを示した。Vrinda Dalmiya氏(ハワイ大学教授)は、微生物や土壌へのケアを含む持続型農業によって、ケア・エートスが培われ、共感性を豊かに育むことができると論じた。
 18日も基調講演の他6つの発表が行われた。早川正祐(本講座特任准教授)は、共感には、相手のタイミングやペースを尊重する働きがあり、その共感の機能によって自律尊重も可能になると論じた。宮原克典氏(北海道大学特任講師)は、「認知は自らの行動・行為によって構成される」とするenactivismの立場から、共感の身体性や技能的な側面を明らかにした。田村未希(本講座特任助教)は、共感が現象学の歴史においてどのように扱われてきたのかを論じた上で、共感をハイデガーのmoodの観点から考察した。坂井愛理(本講座特任研究員)は、マッサージにおける会話分析の観点から、相手に触れながらの会話によってケアがどのように促進されるのかを分析した。冨岡薫氏(慶應大学助教)は、現代日本におけるケアの倫理の受容の状況を明らかにし、「女性が自分自身の声を取り戻すこと」というケアの倫理の当初の方向性が曖昧にされている現況の問題性を鋭く指摘した。阿部裕彦氏(独立研究者)は、Slote氏の受容性の概念やopen-mindednessの概念が、認識論においてどのような重要性と含意をもつのかを明らかにした。
 今回の学会で最も印象的であったのは、国内の若手・中堅研究者のいずれの発表も、Slote教授、Battaly教授、Dalmiya教授といった一流の哲学者から非常に高い評価を得ていたことであった。自らの研究が国際的な価値をもち世界の研究者の心を動かすことができると知ったときの喜びは計り知れない。多くの国内研究者にこのような得難い体験をする機会を惜しみなく提供してくださった公益財団法人上廣財団のご支援に、心より御礼申し上げる。

(東京大学大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理センター上廣講座特任准教授 早川 正祐)


Program

October 16th

09:00-09:10 Opening remarks 

09:10-10:00 Talk 1: Anton Sevilla-Liu,“Care Ethics and Empathy in Watsuji and the Kyoto School of Philosophy” 

10:10-11:00 Talk 2: Yuko Ishihara, “(Care)Ethics of Play: Ueda Shizuteru’s Zen Buddhist Account”

11:10-12:25 Keynote speech 1: Michael Slote, “Care Ethics and Beyond: New Roots for Care Ethics” 

12:25-13:10 Lunch break

13:10-14:00 Talk 3: Tetsuya Kono, “Ma’ai and Caring” 

14:10-15:00 Talk 4: Rie Iizuka, “Towards Establishing Intellectual Receptivity as an Epistemic Value” 

15:00-15:20 Coffee break 

15:20-16:10 Talk 5: Heather Battaly, “Epistemic Care, Self-Care, and Subservience”

16:10-17:00 Talk 6: Vrinda Dalmiya, “Care Ethics and Virtue Epistemology: Empathy and “Ethos” ” 

18:00 Banquet: Restaurant SAKURA (The International House of Japan. B1) 

 

October 18th 

09:00-09:50 Talk 7: Seisuke Hayakawa, “Timeliness, Respect, and Empathic Caring” 

10:00-10:50 Talk 8: Katsunori Miyahara, “On Respect in Empathy: An Enactive Proposal” 

11:00-12:15 Keynote speech 2: Michael Slote, “Care Ethics and Beyond: A Larger Picture” 

12:15-13:00 Lunch break 

13:00-13:50 Talk 9: Miki Tamura, “A Phenomenological Conception of Empathy: The Significance of Mood” 

14:00-14:50 Talk 10: Eri Sakai, Receptivity in Practice: Conversation Analysis of Pain Display within Massaging Session 

14:50-15:05 Coffee break 

15:05-15:55 Talk 11: Kaoru Tomioka, “Care Ethics as a Feminist Theory” 

16:05-16:55 Talk 12: Hirohiko Abe, “Why Be Open-minded? : Epistemic Justification in Testimonial Sentimentalism” 

16:55-17:00 Closing remarks