ソシオロゴス 45号 (2021年11月発行)

太田 美奈子 無線/有線からみる地方のテレビ受容
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本稿は、有線によるテレビ受容が盛んだった地域の一例として青森県田子町に着目し、無線/有線というインフラストラクチャーの側面から人々のテレビ受容について考えるものである。日本においてテレビは、家々の屋根にアンテナが取り付けられた風景が一般的であるように、基本的には電波という無線技術によって成り立つメディアである。しかし電波は、山岳や高い建造物に遮られるなど、地理的条件によって届かないことがある。電波の空白地帯は中継局の設置が進んだ後も日本全国に残された。奥羽山脈の北部に位置する青森県田子町も同様の状況であり、町民たちは有線によるテレビ受容を試みた。電気店店主による取り組み、NHK共聴を経て、1994年には県内自治体が運営するケーブルテレビ局としては初めて、田子町ケーブルテレビジョンが開局する。日本中速やかに電波環境を整えるという無線のナショナリティに対し、有線には日本中隈なく電波環境を整えるというナショナリティがあった。
今井 聖 「指導死」概念は何をもたらしたのか
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本稿は、教師の指導をきっかけとする児童生徒の自殺を意味する「指導死」という新たな概念が登場したことで、子どもの自殺に関する人々の社会的経験のあり方がいかに変容したのかを、遺族の語りにもとづいて検討するものである。その上で、子どもの自殺を既存研究とは異なる角度から問い直すことをねらいとする。特に本稿では、「指導死」概念が存在しなかった頃の遺族たちの経験と、「指導死」概念がある事件をきっかけに広く知られるようになる時期に見られた問題と、近年の「指導死」事件をめぐる遺族の経験を検討することで「指導死」という新たな概念のもとで人々の実践がいかに変化したのかを明らかにした。「指導死」概念は遺族たちの「救済」に寄与してきたのであり、それゆえ今後さらにその概念が用いられるとすれば、それは遺族を今まで以上に広く「救済」しようとする人々の選択によって達成されることになる。
福永 玄弥 「毀家・廃婚」から「婚姻平等」へ
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近代国家は婚姻制度をつうじて一対の異性間に道徳的・法的特権を付与し、親密性やケア関係の自由を制限してきた。2013年に台湾伴侶権益推動連盟が提唱した「多様な家族(多元成家)」草案は親密関係を再想像する試みであり、先行する主流派女性運動の「ジェンダー平等」路線と、ラディカルな「性解放」路線の両方を包含した。その包摂性が性的マイノリティ運動の連合を可能にし、さらには女性運動との連帯や民進党との同盟関係を促進した。一方、「多様な家族」を求める運動はプロテスタント保守を中心としたバックラッシュを喚起した。性的マイノリティ運動は、「伝統家族」の根拠を中華民国民法に求めた保守派のプロパガンダや運動と交渉する過程でラディカルな「毀家・廃婚」路線を放棄し、同性愛者も「良き市民」であるとして婚姻制度への包摂を主張した。そして2019年の同性婚法制化をもって「多様な家族」を求めた運動は「成功」に終わった。
毛里 裕一 検閲と娯楽
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検閲に代表されるような、マス・コミュニケーションを対象とした言論統制策は、合法/非合法というコードを外挿することにより日常的な価値判断を組織化しなおす契機となることもあれば、規制を課すことによって新たな内容の考案を賦活し、水路づけることもある。本研究では、まず、草創期から1930年代半ばごろまでの日本におけるラジオ放送に合焦して、番組の制作とそれに対する検閲、さらには新聞での両者の動向の報道という3つの実践が相互をどのように規定し、影響しあっていたかを検討した。その上で、この時期に放送された2つの娯楽番組をとりあげ、「時事的話題に触れる即興的な娯楽番組」という新機軸が、同時代の検閲実践をいかに意識しながら制作され、喧伝されたかを分析した。
野村 駿 集団による音楽活動成立の条件
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本稿では、あるバンドの結成から解散までの軌跡を描き出すことで、集団による音楽活動成立の条件を明らかにする。先行研究では、ミュージシャン同士やミュージシャンと音楽産業との関係が論じられる一方で、バンドという活動形態の集団性については十分に検討されてこなかった。そこで、ある1つのバンドを対象とした調査結果から、個人の志向性を越えて、集団としての活動が成り立つ過程と、それが崩壊する過程を検討した。 明らかになった知見は次の3点である。第1に、バンドマンたちは個々の目標とは別にバンドとしての「共有目標」を決定することで、集団としての活動を可能にさせていた。第2に、「共有目標」の決定にはメンバー間の相互性が基底にあり、個々の目標をすり合わせる実践が見られた。しかし、第3に、相互性に依拠した共同性の確保は、前者の不調によって後者の解体を招き、その結果としてバンドは「解散」していた。
矢吹 康夫 見た目問題のモデルストーリーから距離をとる当事者たち
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疾患や外傷によって「ふつう」とは異なる外見となった人びとが直面する問題の解消は、現在、NPO法人マイフェイス・マイスタイル(MFMS)によって担われている。MFMSは、先行したユニークフェイスが起動したアイデンティティ・ポリティクスの弊害を乗り越えようとしている。本稿では、語り手と聞き手との対話によって意味が生成されていく過程に照準するライフストーリー研究に依拠して、MFMSが配信したユーストリーム番組『ヒロコヴィッチの穴』の内容を分析し、いかにしてMFMSが旧来の当事者像を相対化していったのかを明らかにする。MFMSは、ユニークフェイスの運動を継承し、「かわいそう」と見なすマスターナラティブへの対抗を促しただけでなく、ユニークフェイスが提示した「強い」主体というモデルストーリーへの反省を意識的に行い、その過程を動画配信という形で公開したのである。
平島(関) 朝子 障害という差異が本質化されない運動経験はいかなるものか
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これまで障害学/障害の社会学では、障害を抑圧と捉えることが障害の本質化に繋がるという指摘や、障害者運動における、障害者とされる者と健常者とされる者との間のコンフリクトなどが提示されてきた。そこで本稿では、実践レベルにおいて障害を本質化しないことの可能性を模索する試みとして、Pさんという障害のある人が、たんぽぽ運動という障害者運動に参加する中で、障害という差異/アイデンティティを意識していなかったり、するようになったりする過程を明らかにした。 具体的には、M. Wieviorka(2001=2009)による集合的アイデンティティの生成条件の議論に着想を得、たんぽぽ運動に関わる中でPさんが障害を差異として意識するようになったり、積極的に「障害者」として考えたり発言したりする契機として、契機A:障害という差異への貶価、契機B:運動への関わりにおける障害の積極的な意味づけの可能性の二つを置き、これに基づいてPさんの経験を再構成した。
杉山 怜美 ファンのライフコースからみるメディアミックス作品の経験
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本稿では現代日本に特徴的なメディアミックス現象に関する研究が産業視点での分析に偏っていたことと、それをファン個人の多様な経験から分析する重要性を指摘した。その際、メディアミックスの時間的展開に着目して、ファンのメディアミックス作品の経験を、作品を受容する経験、ファンの個別のライフコース、メディア経験を可能にするインフラとしてのメディア状況が組み合わさったものとして捉えて分析することを提案した。分析対象としてメディアミックスが30年ほど継続している『スレイヤーズ』作品のファンを取り上げて、インタビュー調査に基づき分析した。その結果、メディアミックス作品は、ファン自身のライフコース、その経験を支えるインフラとしてのメディア状況、ほかのファンの存在、家族の協力状況に影響されて、作品の展開タイミングより遅れて、なおかつ長期的に、各自の生活に根ざしたかたちで経験されていることを明らかにした。
大尾 侑子・陳 怡禎 〈貢献〉するファンダム
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2000年代後半以降、ICT技術の著しい進展はトランスナショナル/カルチュラルなファンの実践やネットワーク化を促し、国家の枠組みによる障壁を取り払ったかにみえる。しかし、デジタル空間におけるファン実践においてすら、現実的にはいまだ言語や時差、文化商品の流通などを巡ってさまざまな壁が存在しつづけている。従来のファン研究は、こうした「本国/非本国」という立場性が文化実践にもたらす影響について十分に論じてきたとはいいがたい。そこで本稿は2018年から本格的にネット解禁を進めたジャニーズアイドルの日本/台湾ファンに注目し、デジタル空間における応援の実践を比較分析した。その結果、両者には社会・文化的背景に基づく多くのファン活動上の差異が確認された一方で、アイドルに対する「応援以上のもの」としての〈貢献〉意識が共通点として確認された。さらにファンは〈貢献〉という目的達成をめぐり、自らのファン活動を通じて自己効力感を抱いている可能性についても示唆された。
ロゴスとミュートス(3) : 長谷川公一氏インタビュー
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今号では、社会変動論の研究から出発し、環境社会学、社会運動研究を切り拓いた研究者の一人である、長谷川公一氏へのインタビューを掲載する。 多くの社会学者は、現代社会のコンフリクトについて何らかの関心を抱き、研究としてアプローチし、コンフリクトを引き起こしている社会を記述しようとする。一方で、対象との関係であったり、社会学者として何を発言すべきかに頭を悩ませる社会学者も多くいることであろう。長谷川公一氏は、環境問題、公害問題との関わりから、社会学の公共性、そして国際化、制度化について熟慮し、積極的に発言し、実践してきた社会学者である。 今号のインタビューでは、環境社会学、社会運動研究を中心とした社会学の歴史を知ることができるだけでなく、現在の社会学に求められている公共性、国際化、ディシプリンとして制度化していくために必要な手がかりが示されている。

『ソシオロゴス』

新しい社会学を希求する人々の冒険の媒体として1977年に創刊された『ソシオロゴス』は、意欲的で発見に満ちた論文を発表する場を与えることにより、新しい社会学を発信していく媒体としてその先頭を走り続けています。

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創刊以来公開の場において投稿者と査読者が直接顔をあわせて査読を進めていくというスタイルによって、新しいパラダイムにもとづく議論、大胆な冒険を行うための開かれた学術誌を目指して参りました。多くご寄稿をお待ちしております。

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