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平成24(2012)年度 文化資源学講義・演習

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各コース共通科目

特殊研究

日本演劇の歴史(1)
古井戸 秀夫 2単位 金2
 日本の演劇・舞踊は、何を描こうとしているのでしょうか。それを人々はどのように受け止めてきたのでしょうか。神楽や舞楽をはじめとする古代の演劇と舞踊、能に代表される中世の演劇と舞踊、それぞれの演劇や舞踊の誕生と伝承を振り返ることで、日本演劇の持つ普遍性と、それぞれの演劇・舞踊の特殊性について考えてみることになるでしょう。
日本演劇の歴史(2)
古井戸 秀夫 2単位 金2
 演劇の歴史は、神々を主人公とする古代から、中世の英雄を経て、近世には等身大の人間の喜びや悲しみを描くようになります。男と女の恋、親子の恩愛、義理と人情など、人間の織り成すドラマはどのように表現されてきたのでしょうか。モダニズムの洗練からポストモダニズムまで、日本の演劇や舞踊が探し求めてきた表現について考えることになるでしょう。
博物館展示論
木下 直之 2単位 火3
 ほとんどすべての博物館が何らかの物品を展示する機能を持っている。歴史博物館は文書や道具を、美術館は美術品を、動物園は生物をどこからか運んできて(したがって本来それがあった場所からは切り離し)、館内に配列して展示する。展示物とは企画者が何らかのメッセージを観客に伝える媒介物であるため、よりよい伝達のために、展示のスタイルと技術の向上が欠かせない。しかし、それはまた理念によって左右される。何のために何をどのように伝えるかが、常に問われるからだ。博物館の展示活動がどのような歴史的変遷を経て形成されてきたか、その大きな枠組みを開講から5回で把握する。その後は、展示活動を支える運営面と施設面の双方に注目し、明治15年(1882)に開設された3つの博物館(現在の靖国神社遊就館、東京国立博物館、恩賜上野動物園、開設時にはいずれも国立博物館であった)をケーススタディとし、博物館の歴史と現状と課題を論じる。
埋蔵文化財と文化資源学ー加賀藩邸&東京大学探索

木下 直之、堀内 秀樹(埋蔵文化財調査室)、成瀬 晃司(埋蔵文化財調査室)

2単位 火3
 東京大学は、1983年に臨時遺跡調査室(現在の埋蔵文化財調査室)を開設して以来、本郷キャンパスの発掘を営々と続けてきた。東京で、これほど徹底的に掘られた場所はほかにない。かつての加賀藩上屋敷の跡に、東京大学がほぼそのまま存在しているがゆえに、発掘の成果は近世考古学という学問領域の開拓に大きく貢献した。しかし、その視野は東京大学開学以前に止まる。本講義は、発掘の成果に加えて、地上(すなわち路上や建物内部)にあって見逃されている「埋蔵文化財(むしろ地上文化財と呼ぶべきか)」にも目を向け、加賀藩邸と東京大学への理解を深め、東京大学の「文化資源」を探ろうとする試みである。文化資源学研究室と埋蔵文化財調査室が組み、さらに、史料編纂所、工学部建築史研究室、総合研究博物館の教員が参加し、リレー形式で東京大学の知られざる姿を明らかにする。少なくとも2回、キャンパスと発掘現場の見学会を実施する。
文化資源としての日本建築 Japanese Architecture as Cultural Resources

ウイリアム・コールドレイク

2単位 金3

 この講義は文化資源学の観点から日本建築を取り上げる。堂々とした伊勢神宮や絢爛豪華な日光東照宮のバリエーション豊かな日本伝統建築は貴重な文化資源である 。このコースでは、日本建築の様々な形態を調査し、各タイポロギー(社寺、城郭、書院、数寄屋と茶室、町家、民家、霊廟)を紹介して、それぞれの様式や用途を分析する。さらに東京都23区に 保存されている建物の実例を現地で見学する。 講義は日本語で行う。
 This course examines Japanese architecture from the viewpoint of Cultural Resource Studies. From the subdued dignity of Ise Shrine to the sumptuous magnificence of the Nikko Toshogu, the richly varied historic architecture of Japan constitutes an indispensible cultural resource. The many and varied forms of Japanese architecture will be investigated. Each of the main typologies will be introduced: Shinto shrines, Buddhist temples, castles, palaces, tea-houses, vernacular architecture of city and country, and shogunal mausolea. There will also be field trips to assess first-hand actual examples of surviving historic architecture in Tokyo. The course will be conducted in Japanese.

豊臣・徳川の霊廟。文化資源としての建築 The Toyotomi and Tokugawa Mausolea as Cultural Resources

ウイリアム・コールドレイク

2単位 金3

 徳川幕府の栄華を伝える絢爛豪華な日光東照宮は貴重な文化資源となっている。この講義は文化資源学の観点から日本霊廟建築を取り上げる。現存する建物や 絵画、写真などの関連する文献を使いながら 、桃山時代の豊臣家の霊廟と江戸時代の徳川家の霊廟の建築について、それぞれの様式や用途を分析する。また、1945年に、東京大空襲で焼失した二代徳川将軍秀忠の台徳院霊廟については、最近発見された明治期の模型を分析し、その先駆けとなったのは豊臣秀吉が祀られていた豊国霊廟であったことを明らかにする。東京都23区に保存されている建物の実例も現地で見学する。講義は日本語で行う。
 The magnificence of the Nikko Toshogu is a manifestation of the glory of the Tokugawa shogunate at its prime and is a precious cultural resource. This course examines Japanese mausoleum architecture from the viewpoint of Cultural Resource Studies. Actual surviving buildings will be analysed together with paintings, photographs and other primary sources in order to establish the architectural style and function of the Toyotomi mausolea of the Momoyama period and the Tokugawa mausolea of the Edo period. The debt of the Taitokuin Mausoleum, dedicated to the second Tokugawa shogun Hidetada, to the Toyokuni Mausoleum of Toyotomi Hideyoshi will be made clear using a recently discovered model made in 1911. An important part of the course will be field trips to assess actual examples of surviving mausoleum architecture in Tokyo. The course will be conducted in Japanese.

展覧会の諸問題
村上 博哉(国立西洋美術館) 夏冬 2単位 金2(隔週)
 展覧会とは実に効率の悪い事業である。美術品あるいは文化財という貴重で壊れやすいものをリスクにさらして世界中から運び、数ヵ月後にはまた元の場所へ返さなくてはならない。大量のヴァーチャルな情報をいつでも簡単に入手できる時代に、これほど非効率な事業を行う意義はどこにあるのか。人々は何を期待して展覧会へ足を運ぶのか。この授業では、展覧会に関するいくつかのテキストを読みながら、今日における展覧会の諸問題を考える。
博物館資料論(美術工芸品)

佐藤康宏(美術史学研究室)

2単位 火1

 目標――博物館における調査研究の意義を理解する。博物館が扱う資料のうち有形文化財(美術工芸品)について、その種類を把握する。ドキュメンテーションの概要を知るとともに、絵画・彫刻・工芸品に関して実践を通してその基礎を学ぶ。博物館における資料の購入・寄贈、整理・公開・活用の実態について知る。
 概要――美術工芸品を有効に情報化するためには、物そのものに関する知識が欠かせない。いかなる種類がありどう記録すべきなのかという基礎的な知識と技術を習得してもらうことを中心に、博物館における調査研究の意義、資料の収集・整理・公開・活用について概観する。実際に東京国立博物館や東京国立近代美術館に陳列されている物を言語化する実習を伴う。

演習

文化資源学フォーラムの企画と実践
木下・小林・古井戸・中村 夏冬2単位 木3(隔週)
 フォーラムの企画から実践まですべての作業を学生が中心に行う実習であり、文化資源学修士課程1年生の必修とする。夏休みまでに企画会議を重ね、フォーラムのテーマと構成を決定し、夏休みから秋にかけて、テーマに関する理解を深めるための研究会・交渉・広報などの準備を行い、年度内に公開フォーラムを開催する。公開で行われることが条件で、規模とスタイルは問わない。終了後は報告書をまとめる。
文化資源学の原点
木下・他 夏冬 4単位 木4・5(隔週)
 文化資源学研究専攻の教員・学生全員が参加し、各学生の修士論文・博士論文のテーマをもとに毎回議論する。学生がそれぞれの論文の起点(動機や関心の所在)=原点を確認し、その方向性や方法を検討するとともに、文化資源学として研究を成立させるための原点を探ることをも目的とする。博士論文予備審査も、随時、この場で行う予定。
Japan and the Paris Exhibitions 日本とパリ万国博覧会

ウイリアム・コールドレイク

2単位 月4

 There were four major expositions universelles held in Paris in the Meiji period (1868-1912). This course examines Japanese participation at each of these exhibitions. Each had its own special characteristics: at the 1867 exhibition rival delegations were sent by the Tokugawa bakufu, Satsuma and Saga domains; the 1878 and 1889 exhibitions marked the high point of Japonisme: and the 1900 exhibition saw the changing mood of Art Nouveau at the beginning of the new century.
 These differences will be identified using different types of cultural resources, including the works of fine art and decorative arts that were on display, written records and photographs. The tensions between official Japanese government policy to promote export art and actual artistic reality in Europe will be explored.
 The course will be conducted in English.
 このコースでは、明治期にパリで行われた大規模な国際博覧会における、日本の参加の特性について考察する。1867年の博覧会では、徳川幕府のみならず、薩摩藩、佐賀藩も代表団として参加した。1878年および1889年の博覧会では、ジャポニズムが高く評価された。ところが1900年の博覧会においては、アール・ヌーボーへとその趣向が変化していく様子が見られる一方で、日本の出展品自体の評価は高くなかった。これらの違いを明らかにするため、展示された美術品・工芸品および 当時の史料や写真を分析する。 また、日本政府による芸術の殖産政策と、ヨーロッパにおける芸術の現状との間にあった緊迫した対立関係についても取り上げる。
 授業は英語で行う。

Photography and Japan's Participation at the International Exhibitions 写真と万国博覧会における日本

ウイリアム・コールドレイク

2単位 月4

 Photography had a revolutionary impact on society in the second half of the 19th century. What impact did photography have on the presentation and reception of Japanese culture at the international exhibitions?
 There are many different categories of photographs associated with the exhibitions. These include official photographs of objects displayed at the exhibitions included in official reports, catalogues and guide books, official photographs of the exhibition venues, portrait photographs of exhibition organisers. There were also many picture postcards. What are the characteristics of each of these photographic types? How do photographs reflect the point of view of the photographer or the person commissioning the photograph? How do photographs compare with other forms of documentation of Japanese participation at the exhibitions, including paintings and lithographs? Tokyo Imperial University prepared special photographic albums for display at the 1900 Paris and 1904 St Louis exhibitions. What do these photographs reveal about official attitudes of Tokyo Imperial University towards its international image?
 The course will be conducted in English.
 写真術は19世紀の後半、社会に革命的な影響を及ぼした。写真は万国博覧会で日本文化のプレゼンテーション、および受け取られ方においてどの程度のインパクトを持っていたか。博覧会に関連した様々なカテゴリーの写真がある。公式報告書、カタログやガイドブックなどに含まれた写真、展示現場の写真、それに博覧会の主催者の肖像写真や、さらには絵はがきもある。これらの写真のタイプ別の特徴は何であろう。写真は、写真を撮る人の視点をどのように反映しているだろうか。また写真は、日本の展覧会参加を留めた、絵画とリソグラフなども含めた他の文献とどう比較できるであろうか。 また、東京帝国大学は、1900年のパリ博覧会および1904年のセントルイス博覧会に写真アルバムを提供している。それらの写真は、東京帝国大学の国際的なイメージに対する公式的な姿勢をどのように明らかにするであろうか。
 授業は英語で行う。

段玉裁『説文解字注』講読
大西 克也 夏冬 4単位 金5
 段玉裁『説文解字注』は、全巻現存するものとしては最古の字書である後漢の許慎『説文解字』に付けられた注として、最高峰にあるという評価が定着している。緻密な思考の末に練り上げられた段玉裁の文章に立ち向かい、その思考経路を追体験し、検証することにより、清朝の文章の正確な読解力を養う。今学期は巻一を冒頭から読む。
高橋由一油画史料を読む
木下 直之 夏冬 4単位 金5
 『高橋由一油画史料』(全5冊、東京藝術大学蔵)とは、「鮭図」(同蔵、重要文化財)で知られる画家高橋由一(1828?1894)の足跡を示すスクラップブックである。やはり画家となった長男源吉の歿後、遺族から東京美術学校に納められた。それは、高橋由一の行動録であるとともに、発言録、あるいは提言集の性格を有する。高橋は単なる画家にとどまらない。油絵の普及を通して、新たな美術の構築(たとえば美術学校の開設や美術館の建設)を社会に向かって積極的に説いた。その提案の大半は実らなかったが、本史料集を読み解くことで、幕末明治前期の日本美術を取り巻く諸問題が明らかとなる。この授業では、近代日本美術史を(高橋由一から語り始めるということをも含めて)再考し、概観することを試みたい。折しも東京藝術大学大学美術館で「近代洋画の開拓者 高橋由一展」が開催されるため(4月28日?6月24日)、文字資料と絵画作品とを付き合わせることの出来る絶好の機会となるだろう。夏休みには、宮司が高橋由一のパトロンを務めた金刀比羅宮(香川県琴平町)への見学旅行を予定している。
文化財保護の諸問題
木下 直之 夏冬 4単位 火5
 文化財とは何かを考える。現代社会にあって文化財を否定することはほとんど困難だろう。「法隆寺も平等院も焼けてしまって一向に困らぬ」(『日本文化私観』)と豪語した坂口安吾は、あれは無頼作家の発言だからと退けられ、もはや誰も文化財を面と向かって否定できない。文化財保護法の制定から62年にわたって、文化財という不可侵の聖域が築かれてきたのである。近年では、これに文化遺産という新たな仲間が加わった。文化財保護法は全部で203条から成り、法律というものがそうであるように、すべての条文が整合され、法の内部に矛盾はない。しかし、一見堅固な文化財保護体制にほころびはないのか。「聖蹟」は戦後になって明白に否定された文化財だし、近年の「文化的景観」のような新たな文化財概念の導入は、実は旧来の文化財概念の否定であるという見方もできる。同法成立のはるか以前にさかのぼって、日本国がどのような理念からどのような保護政策をとり、何を守ろうとし、そのための仕組みをどのように築いてきたのかを検証しつつ、現行の文化財保護法体制への理解を深めたい。参加者は開講日までに文化財保護法を読んでおくこと。
特別演習:美術館における教育研究
寺島 洋子(国立西洋美術館)・村上 博哉(国立西洋美術館) 夏冬 4単位 集中
 国立西洋美術館での活動体験を通して、美術館における教育の役割を確認することを目標とする。国立西洋美術館のインターンシップに参加し、教育普及インターンとして同館の教育活動(独立行政法人国立美術館主催の指導者研修、夏期教員研修、FUN DAY、Fun with Collection等)の企画・実施を補助する。

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文化経営学コース

特殊研究

文化施設経営論
小林真理 2単位 木1
 文化施設には美術館、劇場、博物館、コンサートホール等様々なジャンルのものがあります。これらは、また国公立によるもの、あるいは民間によるものなど、設立や運営の形態も様々です。これらの施設を取り巻く社会環境について学び、よりよい運営のために必要な知識を身につけます。 
海外の文化政策研究論文を読む
小林真理 2単位 木2
 文化が属地性が強いものであり、それぞれの地域や国によって多様であるにも関わらず、対象とする問題領域には共通の課題がある。海外の文化政策の研究動向に着目しながら、具体的な論文(英語)や書物を講読し、日本の文化政策研究を客観化することを目的とする。 
アートマネジメントの現在
平田オリザ(大阪大学) 2単位 隔月5・6

 この授業は、社会における芸術の位置づけを考えることを主目的としている。
 授業の内容は、講師の専門である演劇を中心に、実際の実技も交えながらワークショップ形式で進めていく。
 内容は大きく分けて、アートマネジメントの総論、劇場論、芸術教育論などになるが、いずれも理論よりは、実践の経験を主眼とし、講師の経験談を直接語る内容となる。
 受講者には、今後の専門分野での研究を進めていく上での、新しい視点や発想を得られる講義内容を目指したい。
 また学期期中に、何度かの演劇鑑賞を行い、現代芸術に対する姿勢についても考えていきたい。

 
チェコ文化交流政策
ペトル・ホリー(チェコセンター) 2単位 火6
 チェコセンターという、日本でチェコ文化を発信する施設を率いり、異国文化を日本で紹介する豊富な経験を活かし、チェコの文化、芸術、美術、デザイン、映画、建築、意外なところでの日本との関わりなどを紹介する。長い歳月の文化史を誇るチェコ共和国の様々な事例を挙げながら、波乱万丈の歴史を経験してきた小規模な国であるチェコが輩出した偉大な芸術家の足跡を丁寧に紹介しつつ、国の文化はいかにそれぞれの環境や民族意識に影響され、その魅力をいかに発揮するか、その国際性と可能性を辿る。チェコそのものについて前もって知らなくても、この授業を通して意外なことを知ってもらうことが出来れば、という試みの授業である。場合によって、特別ゲストトークも行う。
文化政策の潮流と社会的課題に対峙するアート――支援・保護される芸術文化からアートを起点としたイノベーションへ
吉本光宏(株式会社ニッセイ基礎研究所) 2単位 隔水5・6

 今では芸術は、美術館や劇場で鑑賞したり、趣味や娯楽で楽しんだりするだけの存在ではなくなりつつある。例えば、芸術の授業を受けた子どもたちの方が、国語や算数、理科の成績が高い、という調査結果が公表され、お年寄りが芸術活動に参加して、リハビリでは上がらなかった腕が上がった、気がついたら車いすから立ち上がっていたなど、介護士が驚くようなこともしばしば起こっている。過疎と高齢化に悩む瀬戸内の離島では、国際芸術祭に90万人もの人々が訪れた。
 人口減少と超高齢社会が現実のものとなり、東日本大震災や終わりの見えない原発事故によって、経済や産業、暮らしなどあらゆる側面で将来のビジョンが描きにくくなってしまった日本。そんな現代の日本社会が抱える様々な課題、すなわち教育、福祉、地域再生などに対し、芸術ならではの革新的なソリューションがもたらされる、そんな時代が到来しようとしている。
 本授業の第Ⅰ部では、これまで文化財の保存・活用、伝統芸能の伝承・発展、芸術文化の振興といった枠組みで進められてきた国の文化政策、あるいは、劇場・ホール、博物館・美術館等の整備とそれらの公立文化施設における公演や展覧会等の鑑賞事業、文化団体への施設提供などを中心に実施されてきた地方公共団体の文化行政、そして民間企業が取り組んできたメセナ(芸術支援)など、日本の文化政策の潮流を1980代から振り返り、日本の文化政策の現状や課題を把握する。その上で、第Ⅱ部では、社会的な課題に対峙し、従来の枠組みとは異なるアングルからその解決に取り組みはじめたアートの可能性について、国内外の先進事例を引用しつつ、教育、福祉、ソーシャル・インクルージョン、創造産業、創造都市などのテーマから議論と考察を重ね、今後の文化政策のあるべき姿、そこから展望できる新しい日本社会の可能性を模索する。

博物館表現論
西野 嘉章(総合研究博物館) 遠藤 秀紀(総合研究博物館) 夏冬 4単位 変則土
 博物館の責務は、研究と教育における高度な自己表現である。説明責任の名のもとに、自己表現が軽んじられ、代わりに矮小化された業務的目標が掲げられる今日、博物館の自己表現を自由に語り、実際に自己表現への挑戦を企図した授業を開くこととしたい。表現者の本質とは何か、人間が表現することへの欲求とは何かを問い続けたい。

演習

文化政策の諸問題
小林 真理 夏冬 4単位 火3
 日本で自治体が文化行政の取り組みだしてからすでに30年の時を経た。当初自治体文化行政論で掲げられた原則である(1)市民主体の市民文化の育成、(2)基礎自治体主導の方法、(3)行政の自己革新、は達成されたのかという観点からこれまでの自治体文化行政を検証し、文化行政を実践する上での方法論を明らかにすることを目的としている。今年度は、改めて地域における公共ホールの運営について、具体的な地域に密着しながら検討を行い、これらのよりよい運営のための制度構築を検討する。

論文指導

修士論文指導
各教員 夏冬 2単位 隔月1
修士論文のテーマ、構想、構成などについて指導する。 ※修士2年のみ
博士論文指導
各教員 夏冬 2単位 隔月1
博士論文のテーマ、構想、構成などについて指導する。 ※博士課程のみ

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形態資料学コース

特殊研究

聴覚文化論の射程: 1950-70年代日本の音風景
渡辺 裕 2単位 水3
 「聴覚文化 (auditory culture)」という言葉が最近よく使われるようになった。「視覚文化 (visual culture)」の研究が、「美術」という概念ではカバーできない広告図像や都市景観と社会の関わりといった問題圏を開拓したように、聴覚文化研究もまた、われわれの身の回りにある、「音楽」としては捉えきれないような多彩な音が醸し出す文化のありようを照らし出しつつある。この講義では、1950-70年代の日本に焦点を合わせ、55年体制の確立と高度成長、都市環境問題や農村過疎化問題、反体制運動とレトロブーム、「国民文化」の変容と「ふるさと」志向の出現といったこの時代の状況を、「音」という切り口で切り取ってみたときに、何がみえるか、という観点から考えてみたい。そのことはまた、近年の「昭和ブーム」の中でできあがってきたこの時代のイメージがいかに一面的なものであるかを明らかにすることにもなるだろう。
明治期印刷文化
岩切 信一郎(新渡戸文化短期大学) 2単位 木2
 近代日本の印刷は、木版主義の伝統的印刷出版文化と西欧からの移植としての新たな印刷技術と出版文化との触発によって成り立ち、「明治」という最も印刷の版の種類が豊富な時代、印刷・出版の黎明期となって、豊かな印刷文化を形成している。新たな文化としての新聞や雑誌、洋装の本と、それらの概念と形が次第に浸透していく。木版、銅版、石版、木口木版(西洋木版)、写真製版、コロタイプといった表現を異にする様々な版が、芽生え、そして活躍する。こうした時代に刷り出された印刷物について問いかけ、その表現と価値を学ぶ。具体的には同時代の印刷物を教材として、文化財的意義、印刷技術、メディア史(メディアとしての近代印刷)、出版文化などの観点から総合的に捉えてみる。授業の到達目標としては、近代版画、近代印刷の成立と展開を理解すること。具体的には現在残る文化財としての紙媒体印刷物について、その版と印刷、印刷・出版の文化、美的表現(時代表現)を学び、文化財としての意義を理解することを目標とする。
文化資源としての歴史的建造物
光井 渉(東京藝術大学) 2単位 火4
 この講義は、日本における歴史的建造物の文化的な意義について考察するものである。講義内容は、歴史的建造物の持つ価値がどのような経緯で見いだされ、その結果どのような保全の措置が講じられたのかを、寺社・城郭・民家・近現代建築・町並といった建築のタイプ毎に概説していくものである。
社会調査資料の二次分析実習
佐藤 健二 2単位 水5
 既存の社会調査を通じて作成された資料をふたたび分析する「二次分析」は、歴史資料の内容分析であると同時に、社会学の基本的な方法を学ぶ上でたいへん有効なレッスンである。今回は東京大学社会学研究室が1950年代に実施した川口地域の工場調査である『鋳物の町』調査について、残されている原資料群の二次分析を実習形式で行う。
近世日本の異文化交流とその資料 -シーボルトを中心に-
松井洋子(史料編纂所) 2単位 金3
 長崎に来航するオランダ船を通した、ヨーロッパ及びアジアとの接触は、日本近世の異文化交流の主要なルートの一つである。出島のオランダ商館の文書、オランダ船によって日本から運び出された文物、出島にやってきたヨーロッパ人たちの残した叙述等からは、近世の日本がどのように見られていたのかを知ることができる。一方、異文化と出会った日本の人々が残した絵画や叙述、そして入手した文物からは、当時の日本人の異文化観を見ることができる。こうした史・資料をもとに、異文化接触の諸相を考える。2012年度は、19世紀の出島にオランダ商館付き医師としてやってきたフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトに視点を据え、彼が日本にもたらしたもの、ヨーロッパに伝えたものを見ていきたい。

演習

演劇学・舞踊学への招待
古井戸 秀夫 夏冬 4単位 水2
 近現代の演劇・舞踊に関する文献を読みます。今年度は、明治の演劇改良運動に関する文献を中心に読む予定です。
 テキスト:日本近代思想体系18『芸能』
社会調査史
佐藤 健二 夏冬 4単位 金2
 全体の題名を「社会調査史」と大きく掲げたが、必ずしも歴史研究に限るつもりではない。私自身の「社会調査史」に対する基本的な考えかたは、『社会調査史のリテラシー』(新曜社、1911)を参照していただきたいが、そこでも述べているように、観察を含む広い意味での「調査」は、社会学と呼ばれる想像力や読解力の歴史的・社会的な形態であると同時に、新しい認識を生みだす方法でもあった。この演習では、それぞれの研究素材のなかでのリテラシーのありかたを主題としたい。
映像文化のなかの都市(1): コンテンツツーリズム再考
渡辺 裕 2単位 水4
 近年、映画やドラマの「ロケ地めぐり」やアニメの「聖地巡礼」が盛んである。各地のフィルムコミッションが積極的にロケ地を誘致し、観光資源としても熱い視線を浴びている。映画に描かれた都市は、フィクションという性格上、現実の都市としばしば大きな齟齬をみせるが、「ロケ地めぐり」や「聖地巡礼」が盛んになる中、フィクションの都市と現実の都市とはいたるところで交錯し、かつて《北の国から》の舞台となった北海道の富良野市のように、現実の都市のまちづくりが、観光客に向け、フィクションを模倣する形でどんどん進んでゆくことすらある。「コンテンツツーリズム」などと呼ばれるこの種の現象は、しかしながら、しばしば、その可能性を十分に検討されないまま、「町おこし」の安易な手段となっているきらいがある。この授業ではむしろ、芸術研究の側から、現実と非現実とが重なり合う虚実の皮膜に成り立つこれらの現象の中にある芸術作品特有の現実感覚や場所の表象のあり方を解明することを通して、その可能性を考え直してみたい。
映像文化のなかの都市 (2): ベルリンの事例研究
渡辺 裕 2単位 水4
 ベルリンを舞台とした映画を題材として、映像が都市表象を形作る過程やメカニズムを考える。1989年の東西合同以後20年以上が経過して都市改造が進む中、この都市の過去の「記憶」が様々な形で問題化し、このような「記憶」の形成や変容の過程において映画の果たした役割があらためて認識されるようになってきている。戦前や東独時代の過去の映像が発掘される一方で、東西合同後の東への郷愁(オスタルギー)の空気を色濃く反映した映画が次々作られ、その中には《グッバイ・レーニン》(2003)、《善き人のためのソナタ》(2006)など、世界的な広がりをもったものも多い。ここでは、戦前の《ベルリン大都市交響楽》(1929)、《ベルリン・アレクサンダー広場》(1931)から、壁崩壊直前の《ベルリン天使の詩》(1987)を経て今日にいたるまでの、ベルリンを舞台にした映画を、ドキュメンタリー映像も含めて幅広く取り上げ、映像に描かれているベルリンと現実の都市ベルリンのあり方を、それぞれの同時代の地図や写真なども駆使しつつ対照し、映像と現実の虚実のはざまに生成される都市の「記憶」のあり方を考えてみたい。

論文指導

修士論文指導
各教員 夏冬 2単位 隔月1
修士論文のテーマ、構想、構成などについて指導する。 ※修士2年のみ
博士論文指導
各教員 夏冬 2単位 隔月1
博士論文のテーマ、構想、構成などについて指導する。 ※博士課程のみ

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文字資料学コース(文書学・文献学)

特殊研究

江戸を読む
長島 弘明(国文学研究室) 2単位 水4
 昨年に続き、江戸時代における芭蕉七部集の研究書の一つである天堂一叟『七部十寸鏡』に注釈を付けつつ読む。稿本と版本を比較して本書が形成されてゆく過程を明らかにするとともに、江戸期の他の芭蕉七部集注釈と比較して、本書の芭蕉研究史上における位置を見定めたい。テキストは、原本の複写を用いる。
漢籍入門
大木 康(東洋文化研究所) 2単位 集中
 中国古典籍の取り扱いに関する総合的な知識を伝える。
 漢籍目録の原理、並びにその編纂の方法を教える。
中世文書の形態論的研究
林 譲(史料編纂所) 2単位 金3
 「花押と筆跡の史料学ーモノをみる・モノからみるー」をテーマに、古文書、特に中世武家文書の読解を講義と演習の形式で行う。本年度は、中世文書のうちでも、鎌倉幕府を開いた源頼朝が発給した文書、ながらく信濃守護を務めた小笠原氏に伝来した『小笠原文書』、また室町幕府歴代将軍の花押と筆跡などに関する諸問題を小テーマとして設定する。源頼朝文書については、後世に大きな影響を与えているにもかかわらず、『小笠原文書』については、活字化されているにもかかわらず、また室町幕府歴代将軍の花押については、例えば上島有氏『中世花押の謎を解くー足利将軍家とその花押ー』などの先行研究がありながら、必ずしも十分な検討・研究がなされているとは言い難い。特に、花押や筆跡、また料紙の紙質など、古文書の形態論的研究については未解決の問題が多い。そこで、写真版コピーに基づいた研究を進め、標記の課題の可能性を探ることとしたい。その結果として、古文書を史料として活用する上での基礎的な態度・技法を身につけること、各自の論文の作成に結びつく実践的な研究能力を養成することを目標とする。
作文教科書研究
月村 辰雄 2単位 金5
 特にルネサンス期フランスのレトリック教育史を中心とし、いくつかの傾向を解説する。ついで、ペリオド文(総合文)とプロギュムナスマタの2点を中心に、実際の教育内容を考える。

演習

明治期社会経済史史料演習
鈴木 淳(日本史学研究室) 2単位 水2
 日本史学の明治期社会経済史演習と合同の演習である
 明治期の史料の読解、批判とそれに基づく実証研究論文執筆法を研鑽することを目標とし、参加者の発表とそれに関する討論を基本とする。各参加者はそれぞれ1回、1時間前後の研究発表を行う。
 一週間前に発表の中で重要な役割を果たす基本史料1点の提示を伴う発表予告を行い、参加者はその史料を読解してくることを要求される。発表にあたっては、基本史料の性格を、その作成過程や、その史料が属する史料群の性格を含めて説明することを必須とする。
 発表内容は基本的に明治・大正期の日本を対象とした研究とするが、演習の性格を踏まえたうえで、前後の時期や関連の深い他地域に関する発表を希望する場合は、相談に応じる。
歌舞伎を読む
古井戸 秀夫 夏冬 4単位 水3
 歌舞伎の所作事を読みます。長唄の「娘道成寺」、常磐津の「関の扉」、清元の「保名」など、代表的な舞踊作品を取り上げる予定です。
アーカイブズ学入門
中村 雄祐・渡辺 浩一(国文学研究資料館) 2単位 集中
 本講義の履修者は、7月〜9月に国文学研究資料館において実施される「アーカイブズ・カレッジ」を受講する必要がある。「アーカイブズ・カレッジ」の案内と受講申込み用紙は文化資源学研究室にあるので、履修希望者は各自で国文学研究資料館に申し込むこと。ただし申込者多数の場合は選考を行うことになっている。選考にもれた場合は自動的に本講義の履修資格を失うので、あらかじめ了承されたい。なお本講義の履修は、文化資源学研究専攻所属の学生に限ることとする。
文書とその社会的役割:文化資源の読み書き
中村 雄祐 2単位 月3
 研究活動においては読み書きが中心的役割を占めるが,研究対象をやや幅広に捉える文化資源学的アプローチにおいては,研究課題をいかに設定し,何を調査対象とするか,つまり,そもそも何を読み書きの対象とするのか,という問いが極めて重要である.いかに調べ,いかに考え,いかに伝えるか.このゼミでは,これらの問いをワークショップ形式で一緒に考えていく。
人文情報学
中村 雄祐・A. C. ミュラー(次世代人文学開発センター) 夏冬 4単位 水2
 The is the first half of a two-semester course. The aim of this course is to introduce XML technology to humanities students as a means of enhancing their possibilities for research and publication in a systematic manner, while learning how to use non-proprietary software. We will begin by at a very basic level by reviewing the underlying HTML structure of web pages with a text editor. After students have gained a basic understanding of the concept of style markup through HTML, we will approach the tasks of web page creation and textual analysis through XML (eXtensible Markup Language). Students will learn the basic rules of XML syntax, soon after which they will learn how to analyze and publish documents using XSLT transformation. We will then gradually learn more sophisticated techniques using XML and XSLT, finally learning how to work through the TEI (P5) application model. This class is open to students with both beginning-level and advanced skills.

論文指導

修士論文指導
各教員 夏冬 2単位 月1(隔週)
修士論文のテーマ、構想、構成などについて指導する。 ※修士2年のみ
博士論文指導
各教員 夏冬 2単位 月1(隔週)
博士論文のテーマ、構想、構成などについて指導する。 ※博士課程のみ

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参考:文化資源学共通講義、文学部原典を読む、一般講義(学部のみ)

文化資源学入門(1) 文化政策入門
小林 真理 2単位 火1
 文化政策は、使われる時代によりその意図する意味合いがかなり異なる概念です。まずはその理由や意味を十分に考えた上で、戦後日本が文化に対する施策や政策をどのように展開してきたかを知り、現在の課題を明らかにします。
文化資源学入門(2) 文書文化論
中村 雄祐 2単位 月3
 現代世界において、文書はありふれた、しかし、生活に必須の道具であり、学術研究(特に人文系)の最重要資源であり、さらにはその成果の共有・公表のための主要媒体ともなっている.この講義では、認知科学や歴史学の先行研究を踏まえながら、現代世界における文書という道具の特徴、また、研究現場における使い方について考える.
博物館空間表現実習
遠藤 秀紀(総合研究博物館)、諏訪 元(総合研究博物館)、西秋 良宏(総合研究博物館)、西野 嘉章(総合研究博物館) 2単位 集中
 博物館の展示場を創造できる人材を育てることを目的とする。ここでいう展示場の創造とは、知と美の飽くなき追究に根差した文化の広がりと継承を、個たる人間として負うことを意味する。そうした人材は、ただのプランナーでもなければ行事経営者でもなく、優れた芸術センスと知的論理構成力を備え、世界に恥じない表現力を磨くことでのみ育てられる。本実習では、受講者にその入り口とそれに続く思慮の手がかりを導入したい。
『菅原伝授手習鑑』を読む
古井戸 秀夫 2単位 水4
 『菅原伝授手習鑑』は、歌舞伎の三大名作のひとつに数え上げられる作品です。主人公は、九州の太宰府に左遷された菅原道真です。菅原道真にまつわる愛樹伝説、飛び梅、枯れ桜、追い松、この伝説から梅王、松王、桜丸、という三人の主人公が生まれました。菅原道真と刈屋姫の生き別れ、白太夫と桜丸の死に別れ、松王と小太郎の首の別れ、三つの別れを描く名作を読むことにしましょう。
法律学入門
小林 真理 2単位 火1
 文学部に入学してきた皆さんにとって法とはどのようなイメージのものでしょうか。法は裁判と結びつきやすく、罰する、罰せられる、あるいは堅いといったイメージが強いのではないでしょうか。たしかに私たちの生活は様々な側面で法から規制を受けてはいます。しかしながら、私たちの権利を守るため、あるいは私たちの権利を実現するための法もあります。私たちの生活に法は不可欠なものになっているということです。さらに、私たちは法の価値の創出に関わることもできます。ただそのことはよほどのことがない限り実感できないかもしれません。そこで、この講義では、文学部の学生なら関心を持つであろう「表現すること」あるいは「文化の創出」という側面から、法律学の特徴を見てみることにしたいと思います。

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