文学部卒業インタビュー #008

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畑中 計政さん

畑中 計政さん

畑中 計政さん

2008年 英語英米文学専修課程卒業 / 2011年 大学院教育学研究科修士課程修了
関東第一高等学校英語教員

  • 英語教員として関東第一高等学校の教壇に立って6年目を迎えました。毎日が新鮮で、驚いたり、落ち込んだり、ドタバタ、ワクワクしています。小さいときから“先生”と“サッカー選手”に憧れていました。僕にはどちらもカッコよかったんです。サッカーでは選手どころかベンチ入りも難しかったけど、教壇に立つとき、毎日、試合にレギュラー出場している気分です。そんな僕にとって東大文学部に行って一番よかったことは?と聞かれれば、「学生がすごかった」「先生がすごかった」、そして「もっと学ばなくちゃ」と思ったことです。

そうか、君はそう思うのか

生まれは鹿児島の霧島ですが、小学校5年生まで千葉県木更津にいて、6年生で熊本に来ました。転校してからしばらくはキョロキョロしながら過ごしていたように思います。“先生”になりたいと思ったきっかけは、中学のときの加藤哲也先生です。英語の先生で、授業ももちろんおもしろかったんですが、「そうか、君はそう思うのか」とよく話を聞いてくれた。生徒としてとても居心地がよかったです。それに、テストの出来がいいと「頭の中が見てみてぇ〜」と思い切り褒めてくれた。すっかり英語が好きになりました。
将来の仕事として“英語の先生”が明確に浮かぶようになったのは熊本高校時代です。学年主任の山本朝昭先生や、1年次担任の月井雅晴先生をはじめ、高校の先生方はまず圧倒的な知の蓄積の中に自分の世界があって、生徒たちのことを気にかけつつも、のめり込んでその中で溺れない、そのバランスがとれている感じが、すごいな、カッコいいなと思いました。ですから、1年生の三者面談のときには「教員になりたい」と言っていました。そのときに月井先生から「じゃ、畑中君、いろんな本を読みなさい」って言われました。すぐには習慣をつけられませんでしたが、今、教員になって、言われたことがよくわかります。
僕はサッカーが大好きで、ほぼベンチかベンチ外でしたが、幼稚園から小、中、高、大とサッカー部です。高校でもはじめは教員免許がとれる福岡の大学を考えていたんですが、サッカー部の副顧問だった2年次の担任の先生から「東大、目指せると思うよ」と言われて、そこから本気で勉強を頑張ったという感じですね。ちょっぴり、東大ならレギュラーになれるかもとも思いました。甘かったですが。高校2年生の3月に、先輩や大学の先生のお話が聞けるということに興味を惹かれて、東京大学訪問に参加しました。教育学部の先生に教員志望の学生数について質問したところ、そんなに多くなく、教育研究に力点が置かれているようなお話で、英語の教員を目指すんだったら英文科かなと。

文学部へは教員免許を取りに

駒場に入るとクラスメートはすごいやつらばっかり。「既に研究しています」「こんなことに興味がある」とかすらすら言える。読書量も圧倒的に違う。やべ、こんなとこ、来ちゃった、というふうに思いましたね。僕が文学部を目指した動機は「教員免許を取る」ことですが、大半の教職の授業では、例えば『豚のPちゃんと32人の小学生』など“教育”の難しさやジレンマを扱う事例が多くて、「“教育”は簡単なことではないんだぞ」というメッセージを感じたのですが、「大変そうだけどやってみたい」というふうに、そこは揺らがなかった気がします。小國喜弘先生と佐藤学先生の授業では、教職の魅力も教わりました。
大学でもア式蹴球部でサッカーを続け、4限まで受けたら本郷に電車を乗り継いで行って部活をやって、それから1時間半かけて下宿に戻るという生活で、駒場の2年間があっという間に過ぎていった気がします。そうそう、東大のア式蹴球部、強いんですよ。2年生のときに東京都の新人戦で優勝しました、僕は出られませんでしたがしっかりと見届けました。それに熊本高校の後輩の久木田紳吾君は初の東大出身Jリーガーです。僕が4年生のとき1年生で来て、どれどれと思ったら一気にレギュラーを取っていきましたけど、はい(笑)。
進学振り分けでは希望どおり英文科に進むことができました。授業はどれも中身が濃くて、まず大橋洋一先生のシェイクスピア演劇作品読解が衝撃でした。そんな解釈があるのか、と。プリントもまだ持っています。柴田元幸先生の翻訳の授業は、学生が訳した文をOHPで写してくださって、「訳のここがうまい」とか「この文章は実はこういうところがポイントだった」みたいな参加型なのです。すごい人気でした。僕は1回だけですけど、OHPで写してもらって、「あー、これ、僕の」って思いながら聞いていました。ちゃんと添削されちゃいましたけど(笑)。実は、英語教員になってから、別の高校で勤務されている柴田先生の大ファンの方とその授業の話で盛り上がり、そこでいかに貴重な経験をしたか実感しました。
阿部公彦先生の「なぜ英詩は声を出して読んではいけないのか?」という授業も印象深いです。レポートを提出すると「この比喩はいいですね」とか、一歩踏み込んでコメントしてくださる。自分が教員になって、添削ってすごいエネルギーが要ることだとわかるようになったので、そんなに深く見ていただいていたんだと思って改めて感激しました。
渡邉明先生の授業もおもしろかったです。束縛理論というのがあって、セオリーCの説明のときだけ「よろスィですね?」と言われたんです。僕、あとから聞きに行っちゃいました。「さっき“スィ”っておっしゃいましたよね」って(笑)。渡邉先生には卒論でもお世話になっています。卒論では定冠詞のtheについて、中学校の教科書ではどんなふうに扱われているかみたいなことをやりました。教科書に冠詞の項目がなかったので、つまずくところだと思っていましたし、授業でも冠詞について第二言語習得のいろいろな先行研究を紹介してもらって、こんなふうに扱うといいのかなということで取り組みましたが、よく完成したなというレベルだと思います。渡邉先生や今西典子先生からは論文のお作法や本論の展開の仕方などを丁寧に教えていただきました。生成文法をほんの少しとはいえ学んだことは、授業にも生かせていると思います。
髙橋和久先生には大学院でもお世話になりました。一緒にお食事をしていて、僕がエビアレルギーなんですという話になったとき、「なんか繊細な印象になるよね。逆に僕たち、野蛮な印象になっちゃって、なんでも食えて恥ずかしい」みたいなことをおっしゃった(笑)。おお、そのエスプリの効いた切り返しは初めて!と思いましたね。おもしろかったです。

憧れの先生から
「先生になるのか?悪いことは言わん、やめておけ」

教育実習では卒業した熊本の中学校に行きました。僕としてはうれし恥ずかしという感じで、加藤先生に「お久しぶりです」と挨拶したら、「畑中、ほんとに教員になるんか」と言われて、「はい」と答えたら、「悪いことは言わん、やめておけ」。まさか一番憧れていた先生に反対されるとは思っていなくて、授業だめだったのかな、とか、なんでだろうって、今でも心に引っかかっているんです。確かに、コードに足を引っかけてラジカセを落としたり、落ち着きない感じでしたけどね(笑)。最終日の帰り際に「なんか、変なこと言っちゃってごめんな」と言って下さったんですけど、そのあと会えていなくて。いつかお会いしたいです。たぶん僕の性格を知っていて、他にも広い世界があるから見たらどうだ?ということだったんじゃないかな。
そうは言われても諦める理由が見当たらなくて、でも確かにこのまま教師になるにはまだまだ勉学も経験も足りないと思って、大学院では教育学研究科の佐藤学先生の「教職開発コース」に進み、ほんとうは2年でいいんですけど3年間お世話になりました。研究を甘く見ていたのだと思います。親にも心配をかけたし、失敗しました。実は教員免許についても、院に入ってから免許発行をお願いしに行ったら「単位が足りていないですよ」と言われて慌てました。同じ科目名の別教員の単位を取っていたそうで……。やっぱりまだまだでした。
大学院に行って良かったと思います。先輩の吉國陽一さんに愛育養護学校の非常勤講師に誘っていただいたことも大きかったと思います。留年が決まって落ち込んだときも、子どもたちと一緒に過ごす中で居場所をもらえている気がして、現場で救われました。子どもの行為を表現として捉えること、レッテルにとらわれずに一人一人と出会うことを学び、愛育での経験で「先生になる」ということがもっと見えてきたように思います。僕の場合は、大学院を出ていないと今の自分はないですね。関東第一高等学校に来られたのは大学院でスーパー読書家の同級生に誘ってもらったからですし、奥さんにも出会えていないです、養護学校で一緒に働いていましたから。

  • 教壇に立つことは僕にとっては
    レギュラー出場

    教員って時間割が決まった時点で必ず試合があるから「お、やっと憧れのレギュラーになれた」という気がします。現場で起きることって毎回個別で、しかも1回きりです。常に準備不足で緊張しますし、英文の説明をしているときに「なんでこうなっとっと?」って急に熊本弁が出てきたり、プリントを持参し忘れたり、ほんとにドタバタです。生徒の方はけっこうそういうのを「また、やっているよ」「出た、出た」くらいの感じで、温かく見てくれている、かな〜(笑)。生徒たちと話すのも発見の連続でおもしろいです、僕が低身長のせいか、やたらと上から目線ですし。
    去年、初めて担任として卒業生を送り出したのですが、学部を卒業するときに平石貴樹先生が「君たちは、我々教員のことをずっと同じところに残ってかわいそうと思っているかもしれないけど、私たちは幸せです」みたいなことをきっぱりおっしゃっていたことを思い出しました。うちの卒業生にも、「僕はここでやることがある。行ってらっしゃい、またね。」と言い続けたいです。

2年3組(2016年度)

女子フットサル部のみなさん

インタビュー日 / 2016.11.15 インタビュアー / 肥爪周二 文責 / 松井 千津子 写真 / 藤山 佳那

PROFILE

PROFILE

畑中 計政さん

畑中 計政(はたなか かずまさ)さん

2008年3月 東京大学文学部 言語文化学科 英語英米文学専修課程卒業
2011年3月 大学院教育学研究科 学校教育高度化専攻教職開発コース修士課程修了
2011年4月 学校法人守屋育英学園関東第一高等学校勤務

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