布文館開室にあたって

東京大学文学部長(1987年当時) 戸川芳郎

このたび、文学部3号館の完竣にともない、布文館が開室される運びとなりました。

そもそも本室の設営は、久保正彰前学部長の構想に出、研究室間の障壁をこえるべく、 教官共通の、学部のための客堂、つまり談話室として準備されました。

環境としてその窗外は、まさに緑陰の間、懷徳園の四季をほしいままにする池塘に臨み、 本学にたぐい稀な幽邃の芸窗であって、室内には各種のレファレンス・ブックを配架して、 読書子の用に供すること、可能ならば、憩息に喫茶を恬しむための文物をも備えること、が考えられました。

一方、この地層に接する二層の書庫は、学部に必須の図書室を兼ね、本室はそれら豊贍の専門書を背にし、 恰好の閲覧室に該当して位置します。研究にいそしまれる教官学士諸兄の有効な利用を期待します。

当初の一、二年は、「利用規則」に従って、記念閲覧室“布文館”にふさわしい使用の慣習ができますよう、 たがいに努めたいと思います。

わが学部は、いまや各部門にわたり充実と進展を唱道する機に際会し、この時にあたって殊勝の芳志による “基金”と得がたい優美な文房の実現とをあわせ記念することのできますことは、われわれ竝世の教官・職員の こぞって慶びとするところであります。

ここに布文館の開設にあたり、布施郁三博士をお迎えし、ささやかな祝宴の席ではありますが、 謝恩の意を表する機会を得ましたこと、文学部一同喜びに堪えない次第です。布施先生の萬壽無疆と 学部文運の彌榮えを祈ってやみません。

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