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平成21(2009)年度 文化資源学講義・演習

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各コース共通科目

特殊研究

日本演劇の歴史(1)
古井戸 秀夫 2単位 火3
 日本の演劇・舞踊は、何を描こうとしているのでしょうか。それを人々はどのように受け止めてきたのでしょうか。神楽や舞楽をはじめとする古代の演劇と舞踊、能に代表される中世の演劇と舞踊、それぞれの演劇や舞踊の誕生と伝承を振り返ることで、日本演劇の持つ普遍性と、それぞれの演劇・舞踊の特殊性について考えてみることになるでしょう。
日本演劇の歴史(2)
古井戸 秀夫 2単位 火3
 演劇の歴史は、神々を主人公とする古代から、中世の英雄を経て、近世には等身大の人間の喜びや悲しみを描くようになります。男と女の恋、親子の恩愛、義理と人情など、人間の織り成すドラマはどのように表現されてきたのでしょうか。モダニズムの洗練からポストモダニズムまで、日本の演劇や舞踊が探し求めてきた表現について考えることになるでしょう。
展示論
木下 直之 2単位 火4
 博物館/美術館が社会に対してどのように有効な施設なのかを考えることが、この授業の大きな目標である。そのためには、活動の検証が欠かせない。博物館/美術館における「展示」はその活動の1部ではあるが、本質に関わる。博物館/美術館は、自然物にせよ人工物にせよ、それらを不特定多数の人間に公開することから始まったからだ。しかし、そこには関与する人間の解釈が加わる以上、展示は開かれた可能性とともに限界を常に抱え込む。この講義では、東京近辺で開催される3つの異なる「展示」(美術、建築、写真)を分析する。それぞれに3回の講義をあて、講師(木下)、展覧会企画者、来館者(受講生)の観点から論じる。6月6日(土)に「坂倉準三展」(神奈川県立近代美術館)の見学会を予定している。
陶磁器と日本文化
ニコル・クリッジ・ルマニエール 2単位 月4
 This course will focus on Japanese Late Edo , Meiji and Taisho ceramic production. In particular we will examine the end of the Edo period ceramic traditions and their redeployment in the Meiji era with renewed export and new channels of trade. Chinoiserie, Japonisme, Art Nouveau and other topics will be looked at in depth. In particular we will examine certain kilns and kiln groups, such as Noritake, Seto, Kutani, Satsuma, Kyoto and Yokohama to understand their production, market, techniques and styles as well as looking at individual artists such as Makuzu Kozan, Seifu Yohei (III), Itaya Hazan and Tomimoto Kenkichi. Taste makers and international connections will also be highlighted, with people such as Christopher Dresser and A.L. Liberty and Hayashi Tadamasa forming one session of the course. We will take a trip to the Kansai and Seto area as part of the course. Each student should pick a kiln or a potter that they wish to explore and will help direct part of a class on that specific topic.(授業は日本語で行います)  この講義では、江戸後期、明治、大正時代の陶磁器制作について考察します。特に江戸時代末期の陶磁器の伝統が、輸出品を一新し、あらたな輸出先を獲得した明治時代にどのように展開されていったかを見ていきます。シノワズリ、ジャポニズム、アールヌーボ等のテーマについても掘り下げる予定です。また、名をなした窯元や窯群(則武、瀬戸、九谷、薩摩、京都、横浜)における生産体制、市場流通、技術、様式について検討するとともに、個人作家(真葛香山、三代清風与平、板谷波山、富本憲吉)についても詳しく考察します。また、クリストファー・ドレッサー、A.L.リバティー、林忠正といった人々がもたらした国際交流も講義の重要なテーマとなります。講義には関西と瀬戸への遠足も含まれます。各受講生は窯を一つ、または陶芸家を一人選び、そのテーマについて講義の一部を担当してもらいます。
展覧会の諸問題
村上 博哉(国立西洋美術館) 夏冬 2単位 金2(隔週)
 英文テキスト数本を講読しながら、美術展の歴史、作品の公開と保存、キュレイターの役割、展示の空間、展覧会の評価などの問題について考察する。あわせて、日本の美術館における展覧会の現実的諸問題についても随時とりあげる。

演習

文化資源学フォーラムの企画と実践
木下・小林・古井戸・渡辺・中村 夏冬2単位 木4(隔週)
 フォーラムの企画から実践まですべての作業を学生が中心に行う実習であり、文化資源学修士課程1年生の必修とする。夏休みまでに企画会議を重ね、フォーラムのテーマと構成を決定し、夏休みから秋にかけて、テーマに関する理解を深めるための研究会・交渉・広報などの準備を行い、年度内に公開フォーラムを開催する。公開で行われることが条件で、規模とスタイルは問わない。終了後は報告書をまとめる。
文化資源学の原点
木下 直之 夏冬 4単位 木5・6(隔週)
 文化資源学研究専攻の教員・学生全員が参加し、各学生の修士論文・博士論文のテーマをもとに毎回議論する。学生がそれぞれの論文の起点(動機や関心の所在)=原点を確認し、その方向性や方法を検討するとともに、文化資源学として研究を成立させるための原点を探ることをも目的とする。
近代日本の文化政策:動物園とは何か
木下 直之 夏冬 4単位 金5
 「動物園とは何か」というシンプルな問いに答えることは容易ではない。動物は自然そのものであるが、狩猟・肉食・家畜・ペット・動物園など、人間が動物との間に築く関係は文化に属する。ゆえに人文学の中に動物について考える場は成立し、国家や地方自治体が動物園を建設し運営するのであれば、文化政策を考える視野の中に動物園をもとらえることができる。早くも明治15年(1882)に、上野動物園は明治政府が建設した博物館の一部として開園し、現代においては、旭川市の旭山動物園が、地方自治体による文化施設運営の理想モデルのように語られている。このように動物園について考えることは、その不要論も含めて、数多くありそうだが、まずは、受講生が動物園について考えるということは何を考えることなのかを考えることから始めたい。その手掛かりを得るために、4月25日(土)に上野動物園で勉強会と写真撮影会を行う。受講希望者は、4月17日(金)の開講日に必ず出席すること。
国際美術展プロデュース入門
ニコル・クリッジ・ルーマニエール 2単位 火5
 This course will examine the concept of international exhibitions in the current financial climate, their meaning and impact as well as lasting implications for the field and the sponsors involved. The course will focus on three types of exhibitions, government-sponsored, private initiatives and individual collections. The main area of concentration will be on the exhibition of Japanese art, but contemporary work will also be included. Students in the course will be able to virtually participate in two exhibitions, one at the EdoTokyo Museum on Treasures from Corfu (from 4 July 09) and another Japanese Government sponsored exhibition of Dogu at the British Museum (September 09). The class will also entail everyone working together to create an exhibition proposal in Japanese and English and a full exhibition plan and pamphlet. We will use as material the rich collection of objects and materials that have been excavated from the Tokyo University campuses to create an attractive and compelling small exhibition. Everyone will have the chance if they would like to work in English, but the class will be conducted as a rule in Japanese.(授業は日本語で行います)  この講義では、国際展覧会の企画について、現在の経済状況の中で考えて行きます。不況下で国際展覧会を企画することの意義や効果、学問分野や出資者・賛助者に対する将来的影響などが考察の対象となります。講義では「政府出資」、「民間主導」、「個人コレクション」 といった三つの展覧会形式に焦点を当てます。基本的には日本美術の展覧会について考察しますが、その他にも現代美術などの展覧会についても検討する予定です。受講生は現在企画されている二つの展覧会にヴァーチャルな形で参加します。一つは江戸東京博物館で開催される『写楽 幻の肉筆画―ギリシャに眠る日本美術〜マノスコレクションより 』展(7月開催)、もう一つは大英博物館で行われる『土偶 (The Power of Dogu)』展(9月開催)です。講義の一環として受講生同士で展覧会企画を提案し、英語・日本語で展覧会計画書とパンフレットを制作します。展示物には東京大学構内で発掘された出土品や関係する資料を利用し、最終的にはそれらを紹介する小さな展覧会の開催を目指します。希望者には英語で授業に参加してもらいますが、原則として講義は日本語で行われます。
特別演習:美術館における教育研究
寺島洋子(国立西洋美術館)・村上博哉(国立西洋美術館) 夏冬 4単位 集中
 2009年度の教育普及インターンシップ・プログラムは、当館の建物に関する小企画展に関連するプログラムの企画運営と当館の建築関係資料の調査・整理を行う。「国立西洋美術館インターンシップ募集のお知らせ」(http://www.nmwa.go.jp/jp/education /internship.html)にしたがってあらかじめ応募し、採用された場合に単位として認定する。応募締切:2009年2月27日(金)。

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文化経営学コース

特殊研究

博物館学1
金子 啓明(東京国立博物館) 2単位 金3
 近年の日本美術関係の展覧会では仏像展が増える傾向にあり注目される。その意味するものについて春に東京国立博物館で開催の「国宝 阿修羅展」を中心に考察する。また、博物館では展示以外にも教育、情報、環境などの諸分野で来館者向けのさまざまな実験が行われている。本年はその事例について実地見学を含めて検討したいと思う。また、国立博物館は国立美術館等とともに、2001年4月からすでに独立行政法人化されており、現在の名称は「独立行政法人 文化財機構」、「独立行政法人 国立美術館」となっている。「独立行政法人 文化財機構」の中には、東京、京都、奈良、九州国立博物館及び東京、奈良文化財研究所の4館2所が含まれている。今後、独立行政法人については行政府のなかで、再統合問題や民営化議論が起こることが想定され、国立博物館がその対象となる可能性も否定できない。また、地方自治体では公立博物館に指定管理者制度を採用しているところも多く、日本の国公立の博物館はさまざまな問題に直面している。こうした状況のもと博物館の理念や目標、そして、その必要性は何なのかを改めて問われている。この講義ではこうした現在直面する問題についても検討したいと考えている。
博物館学2
金山 喜昭(法政大学) 2単位 水5
 博物館においてコレクションマネジメントは最も基本的な機能である。本科目の目的は、将来、博物館や美術館などに関連する仕事に従事することを志す者ばかりでなく、文化資源としての博物館コレクションに関心をもつ者に対して、コレクションの歴史と実情や、そのマネジメントに関する理論と実践の知識や技能を修得することを目的にする。
 授業では、コレクションマネジメントの先進国である英国の事例を扱いながら、日本の事例とも比較して、日本でのコレクションマネジメント改革の方向性について検討する。具体的には、コレクションの収集・処分、ドキュメンテーション、収蔵目録、安全管理、登録・借用、調査、収蔵管理、コレクションの公開・活用化などを取り上げる。
戦後日本の文化政策を検証する1
小林 真理 2単位 火2
 2006年に地方自治法が改定され指定管理者制度が導入されました。この制度は、これまでの文化施設(美術館、博物館、図書館、文化会館)等のあり方を劇的に変化させることになりました。この制度は、これまで地方自治体が設立したこれらの施設で提供する公共サービスを、民間に委託することを可能にした制度です。この制度がどのように導入されて、運用されてきたかについて、具体的な資料を元にそのメリットとデメリットについて明らかにします。また、この授業においては、これまでの美術館や文化会館のあり方を変容させて新たな取り組みを行うようになった点に注目し、美術館や文化会館のあり方を考えるとともに、指定管理者制度のあり方も考えます。
戦後日本の文化政策を検証する2
小林 真理 2単位 火2
 日本の文化政策が何を目指してきて、これらか何を目指すのかを、山崎正和『社交する人間ーホモ・ソシアビリス』(中公文庫)を読みながら、考察します。ドイツにおいては地域劇場やサークル活動が、個人の趣味としての芸術愛好を越えて、地域の社交の重要な場として機能しています。それゆえにドイツの都市には、教会、病院や学校と並んで、劇場が重要な役割を担う場として存在するということが言われてきました。それにならい、日本の地方自治体でもとくに 1980年代以降文化会館を建設してきました。ただし、日本においても地域住民の様々互助組織が展開してきました。文化会館は、コミュニティに不可欠なものとして機能してきたのか、またする可能性はあるのか。社交という観点から読み解くことをしたいと考えています。
ミュージアム・テクノロジー
西野 嘉章(総合研究博物館)・藤尾 直史(総合研究博物館) 夏冬 4単位 金5
 平成21年度に総合研究博物館で実施予定の各種ミュージアム事業のいずれかのプロジェクトに参加し、そこでの具体的な体験を通じて学芸員、文化事業担当者としての専門的なスキルを修得する。なかで小石川分館を拠点とするデジタルアーカイヴ・プロジェクトについては、藤尾直史が中心となり、それを指導する。事業それぞれのプロジェクトの活動内容と研究成果は、出版物(図録、報告書、目録など)のかたちで公刊される。初回に各プロジェクトへの振り分けを行うが、定員を15人とし、希望者多数の場合には受講者の選抜を行う。
パフォーミング・アーツにおけるプロデューサー論 ―事例研究を中心として―
飯島 健(新国立劇場) 2単位 水5
 パフォーミング・アーツにおけるプロデューサーの役割が極めて重要であることは論を待たないであろう。
 飯島は複数の劇場、ジャンルでプロデューサーの経験をしてきた。
 また、慶應義塾大学大学院経営管理研究科付属ビジネススクール(KBS)で長年教鞭をとられた和田充夫現関西学院大学教授(慶應義塾大学名誉教授)が川又啓子現京都産業大学准教授と共同で『1999年度文化経済学会<日本>長久手大会発表余稿集』のために執筆された『アートマネジメントとビジネススクール〜ケースメソッド教育の有効性〜』(和田充夫、川又啓子)において「ケースメソッド教育」がアートマネジメント教育に貢献しうる可能性について、「ケースメソッドで用いる「ケース」は経営者・管理者が判断し、決定しなければならない問題、関連する周囲の状況や意見などが記述されており、このケースをもとに、受講者は事前予習としての「個人研究」それを踏まえての「グループ討議」、そして全体での「クラス討議」の3つの教育プロセスに主体的に参加することが求められる。ケースメソッドとは、ケースを教材として、経営上必要とされる知識や能力の習得をはかる教育方法であるが、ケースリードを通して担当教員が受講生に伝達すべき知識とは、当該ケースに埋め込まれている一般性の高い理論であり、また受講生よって取得されるべき能力とは理論と現実とを関連付ける力や分析力、意思決定能力、自らの考え方を論理的に発表するプレゼンテーション能力であるといえよう」と記述されておられる。
 飯島の経験的プロデューサー論をケースメソッドによる授業をとの組み合わせで、「パフォーミング・アーツにおけるプロデューサー論」として、様々な視点から受講生諸君とともに考え、探求していきたい。
アートプロジェクトのマネジメント
熊倉 純子(東京芸術大学) 2単位 月5
 美術館やコンサートホールなどの文化施設ではなく、まちのなかで展示やパフォーマンスをおこなうアートプロジェクトは、今日、日本各地でさまざまな規模や形態で開催されている。地域密着型のこうした文化事業は、今日の人びとの暮らしに芸術がどのような意味をもつのか、また社会で芸術がどのような役割を果たしうるのかを考察するうえで示唆に富んでいる。本講義では、数多い事例のなかで10年以上継続し、市民参加や地域連携においてさまざまな試みを展開している「取手アートプロジェクト」の例を取り上げて、アーツマネジメントが市民の暮らしとどのような関係を築けるのか考察する。
 茨城県取手市で開催されている「取手アートプロジェクト」(TAP)は、さまざまな市民たちが行政(取手市)と大学(東京藝術大学)と共同でおこっている活動である。1999 年から毎秋、3週間ほどの会期中、まちのあちこちに若手を中心とした芸術家たちの美術作品や、音楽やダンスなどのパフォーマンスが出現し、ごくありふれた郊外都市が先鋭的な芸術に彩られる。本講義では、実際のプロジェクトが扱う作品群とそれぞれの制作背景を紹介しつつ、
 1)プロジェクトの沿革(大学・行政・市民の協働の変遷)
 2)運営組織とボランティア活動が抱える課題
 3)「市民」と「専門家」の役割
 4)アーツマネジメントの人材育成
 5)地域振興に芸術やアートプロジェクトが果たす役割
などについて具体例の分析をついて言及する。特に5)については、他のプロジェクトとの比較を通じて、市民参加の在り方について考察を試みる。
 さらに、プロジェクトに参画するさまざまなセクターの支援形態を紹介しつつ、これからのメセナ(芸術支援)における企業・市民・NPOの連携のありかたについて取り上げる。

演習

文化政策の企画と実践
小林 真理 夏冬 4単位 水3
 本授業は、東京都内の自治体において、2006〜2008年度に、芸術文化振興条例、芸術文化振興計画の策定に携わったことから、策定された計画を実践していくための事業を企画し、実践をしていくことを目標としている。この取り組みを通じて、歴史、制度(条例・計画)、課題の変遷、政策形成過程、具体的な事業の展開等の視点から日本の地方自治体の文化行政を捉え返し、現実の問題に対処する能力を養う。

論文指導

論文指導 修士論文指導
各教員 夏冬 2単位 月1(隔週)
それぞれの指導教員により適宜個別的な論文指導を行う。 ※修士2年のみ
論文指導 博士論文指導
各教員 夏冬 2単位 月1(隔週)
それぞれの指導教員により適宜個別的な論文指導を行う。 ※博士課程のみ

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形態資料学コース

特殊研究

場所の記憶と芸術(2) 音楽と地域イメージ
渡辺 裕 2単位 水4
 場所や地域の表象が形作られてゆく際に、芸術の果たす役割を考える試みとして、音楽のケースを取り上げる。音楽は抽象的な芸術であり、具体的な事象と結びつきにくいと思われがちだが、写真や映画などの視覚媒体と同様、音楽もまた、人々の地域イメージを作り上げてゆく上で重要な位置を占めているばかりか、抽象的である分だけ想像力を刺激し、視覚媒体では得られない多様な広がりをもたらす。「音楽自体」だけでなく、その周辺にある様々な言説や映像などが結びつき、地域イメージは、それらの多様なメディアの協働関係の中から形作られる。この講義では、明治以後の日本で、人々の近代的な地域イメージや地域アイデンティティが形成されてくる際に、音楽がどのような形で機能してきたか、そして今現にどのように機能しているかということを、可能な限り具体的な事例を出発点に考えてゆきたい。そのことはまた人々の近代的な地域表象や国家表象がいかに生み出され、そして今、「ポストモダン」的な状況の中でどのようなあり方をしているかを問うことでもある。
場所の記憶と芸術(3) 「映像の時代」の地域イメージ
渡辺 裕 2単位 水4
 DVDの普及やインターネットでの映像配信の一般化で、われわれの身の回りに映像のあふれている時代になった。旅行が、映像ですでに知っている場所を追体験するものになった、などと言われるようになって久しいが、われわれの地域イメージも、これらのメディアと切り離しては考えられないものになってきている。本講義は、昨年度春学期に行った「ロケ地めぐり」の考察の続編ともいうべきものである。前回は、小樽という都市の事例を通して、ロケ地めぐりによって映画に登場した場所をつなぎ合わせる体験が、都市の新たな相貌を作り上げてゆく過程とメカニズムを論じたが、今回はドキュメンタリー・フィルムやテレビ番組、ネット画像などにも射程を広げながら、それらによって、周辺にある言説との絡み合いの中で多様なイメージが生み出され、それらが互いにぶつかり合ったり融合したりしながら現実の地域イメージへと融け込んでゆく状況を考えてみたい。
社会調査の方法論
佐藤 健二 2単位 金4
 「質的」といわれる観察・調査・分析の方法をとりあげて、「社会調査」という実践の諸問題を考える。20世紀における社会調査法の発達を踏まえ、これを社会学の認識論的な実践ととらえる立場から、その戦略や問題点、可能性について講義する。具体的な項目として予定しているのは、 1社会調査とは何か 2社会調査の歴史 3「統計的・数量的」と「事例的・質的」 4フィールドワークの誕生 5記録と印刷文化 6内容分析の展開 7制度としての統計 8ライフヒストリーの問題意識 9テクストとしての社会 などである。
近代日本の美術
木下 直之 2単位 集中
 近代日本美術史の枠組みを探る集中講義。今年は高村光雲と高村光太郎のふたりの彫刻家に注目し、日本人と日本社会が彫刻をどのようにとらえてきたのかを考える。現代の都市空間に配置された彫刻も視野に入るだろう。夏休みをはさんで2期に分け、7月21日、22日、9月16日、17日、18日に開講する。受講者は、高村光雲『幕末維新懐古談』(岩波文庫)および高村光太郎『緑色の太陽』(岩波文庫)を読んでおくこと。夏休みにフィールドワークを行う予定。
戦後日本映画論
長谷 正人(早稲田大学) 2単位 木2
 戦後日本映画における「男性」イメージの系譜を辿っていく。とりわけ「赤面する男性」の系譜を追う。代表的なものとして、黒澤明『姿三四郎』、稲垣浩『無法松の一生』(阪東妻三郎)、山田洋次『馬鹿』シリーズ(ハナ肇)、山田洋次『男はつらいよ』(渥美清)を取り上げる。つまり家父長制における強い父権性という男性イメージの裏側にあって、理念としての民主主義が古臭いもの(オヤジ)として抑圧されてきた土俗的な男性文化もしくは男性イメージを考え直したい。むろんやくざ映画におけるホモソーシャリティの問題(高倉健)や無責任男(植木等)や石原裕次郎など、異なったタイプの男性イメージについても考えなければならないし、映画だけでなく長谷川伸を中心にして、大衆演劇、大衆小説、テレビなどの領域について目を広げていく必要がある。そのような戦後日本大衆文化論への展開の糸口をつかむのがこの講義のひそかな野心である。
日仏建築・都市文化資源論
鳥海 基樹(首都大学東京) 2単位 金3
 日本よりもフランスの都市景観が美しいことは、おおむね賛成が得られると思う。本講では、用・強・美を兼備した空間資源を建築・都市文化資源と呼び、日本とフランスとを比較考察しながら、上記のような差が何故発生しているのかを考える。その際、制度論だけではなく、@本質的に何が問題なのか、Aそれをブレイク・スルーする方法はあるのか、Bその方法に副作用はないのかを考えてゆきたい。また、感情論を忌避するための定量分析にも挑戦したい。
近世日本の異文化交流とその資料
松井 洋子(史料編纂所) 2単位 水3
 長崎に来航するオランダ船を通した、ヨーロッパ及びアジアとの接触は、日本近世の異文化交流の主要なルートの一つである。出島のオランダ商館の文書、オランダ船によって日本から運び出された文物、異文化と出会った日本の人々が残した絵画や叙述、そして入手した文物、こうした史・資料をもとに、異文化接触の諸相を考えていきたい。

演習

演劇学・舞踊学への招待
古井戸 秀夫 夏冬 4単位 火4
 近現代の演劇・舞踊に関する文献を読みます。具体的なテキストは、受講生と相談して決めたいと思います。
メディアの歴史社会学
佐藤 健二 夏冬 4単位 金2
 人間の社会生活を媒介している、さまざまなメディアについて、そのテクノロジーの特質と、そこにおいて論じられたイデオロギーの様態について、歴史社会学の立場から取り上げてみたい。とりあげるメディアについては、それぞれの主題関心領域から持ち寄ってよいので、演習の開講時に相談することとしたい。最初に特定のメディアにしぼった形での、共通の文献の購読と現象の分析とを試みてみたいとも思う。社会文化研究専攻の社会学専門分野と合同で行う。
映画から都市を読む:ベルリン(2)
渡辺 裕 2単位 水2
 ベルリンを舞台とした映画を題材として、映像が都市表象を形作る過程やメカニズムを考える。昨期には、《グッバイ、レーニン》など、東西合同後の東への郷愁(オスタルギー)の動きに関わる映画を中心にみたが、今期は、戦前の《ベルリン大都市交響楽》(1929)、《ベルリン・アレクサンダー広場》(1931)や、壁崩壊直前の《ベルリン天使の詩》(1987)、さらには《ラン・ローラ・ラン》(1998)、《ベルリン・バビロン》(2001) などを幅広く取り上げ、映像に描かれているベルリンと現実の都市ベルリンのあり方を、それぞれの同時代の地図や写真なども駆使しつつ対照し、映像と現実の虚実のはざまから表象が立ち上がってくる現場をおさえてゆきたいと考えている。
音楽と観光
渡辺 裕 2単位 水2
 Chris Gibson and John Connell, Music and Tourism: On the Road Again (2005)を講読する。
 かつての芸術研究では、「観光」というテーマは、文化を本来のあり方から遠ざけたり、通俗化させたりするものとして否定的に捉えられることが多かったが、そのような見方は、最近の文化研究の展開の中で大きく変わってきた。本書は、そのような成果を音楽という領域に応用し、個別研究をこえてまとまった形で論じた最初の本と言ってもよく、狭義の観光だけでなくフェスティヴァルなども視野におさめ、幅広い議論を展開している。文化のオーセンティシティとアイデンティティに関わる章を中心に読み進めながら、音楽が多様な人々の多様な視線と関わりながら変容してゆく現場をいかにして捉えるかを考えてゆきたい。

論文指導

論文指導 修士論文指導
各教員 夏冬 2単位 月1(隔週)
それぞれの指導教員により適宜個別的な論文指導を行う。 ※修士2年のみ
論文指導 博士論文指導
各教員 夏冬 2単位 月1(隔週)
それぞれの指導教員により適宜個別的な論文指導を行う。 ※博士課程のみ

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文字資料学コース(文書学・文献学)

特殊研究

江戸を読む
長島 弘明(国文学研究室) 夏冬 4単位 木2
 文化資源学研究専攻の学生にのみ履修を認める。江戸時代の怪談小説の歴史を概観する。中世的な怪異説話から、西鶴を経て読本に至る創作的な怪談小説への展開を、具体的な作品の講読も交えつつ跡づけたい。適宜プリントを配布する。
西洋文献学史の諸問題
片山 英男 2単位 金4
 Angelo Poliziano (1454 − 1494)、 Pier Vettori (1499 - 1585)、Joseph Justus Scaliger (1540 - 1609)の生涯と業績を中心に、近代初頭の古典文献学について検討する。
〈書物〉と〈カード〉──あるいはアトラクションの〈編集〉
長谷川 一(明治学院大学) 2単位 火2
 デジタルメディア社会のなかで、書物・新聞・放送・映画・音楽CDといった伝統的なマスメディアが後退し、インターネットなど電子空間内でのコミュニケーションがより前景化しつつあるといわれている。従来特定の職業集団に占有されていた「編集」が「解放」され、これまで鑑賞するだけだった読者が「編集」に関与するようになった。のみならず、人文的な知の変容までもがここに関連づけられ、電子媒体に乗り換えることで集合知として再構築されるべきだという主張さえある。
 こうした議論はそれなりの蓄積をもつものの、総じて技術中心主義的・機能中心主義的な枠組みにとどまっており、議論の出口を見出せずにいるように思われる。
 そこで本授業では、この問題をメディア論の観点から、具体的には「隠喩」という視点から捉えなおすことで再考してみたい。大まかに前者を「書物」的なもの、後者を「カード」的なものとしてモデル化し、それぞれの系譜を検討するとともに、両者の力学について考察する。
漢籍入門
大木 康(東洋文化研究所) 2単位 集中
 中国古典籍の取り扱いに関する総合的な知識を伝える。
(1)「中国版本目録学概説」(2)「四部分類について」(3)「漢籍目録法実習(カードの取り方)」(4)「朝鮮本について」
幕末外交史料論
保谷 徹(史料編纂所) 2単位 水4/td>
 19世紀半ばに「開国」した日本は、世界資本主義市場へ強制的に編入されるとともに、近代的な外交関係の構築を迫られた。講義では、1)欧米やロシア、東アジアの史料保存機関(文書館)の仕組みや役割についてふれ、2)幕末外交の担い手や彼我の外交史料(外務省史料)のあり方について比較検討する。さらに、3)外国史料(在外日本関係史料)を実際に用い、日本と諸外国双方の視点から幕末の軍事と外交にかかわる諸事件を取り上げて分析する。今年度はとくに、幕末日本と対外戦争の危機を題材に取り上げる。
ヨーロッパ書物史研究
月村 辰雄 2単位 金5
 フランスを中心とする中世から19世紀にいたる時代から、数冊の代表的な書物を選び、その生産(なぜ、どのように作られたか)・流通(どのように流布したか)・消費(どのような影響を与えたか)の過程について調査・研究する。
日本中世古文書学
近藤 成一(史料編纂所) 夏冬 4単位 金4
 「日本古文書ユニオンカタログ」に収載されている古文書21万点を材料として、日本中世古文書総体の体系を検討する場合の諸問題を考察するとともに、個別の古文書をとりあげ、一通の古文書を徹底的に読み込むことも試みる。古文書様式の体系という場合、佐藤進一『新版古文書学入門』に示された@公式様文書、 A公家様文書、B武家様文書、C上申文書、D証文類の5類型がとりあえずの骨格になる。すべての類型の古文書をとりあげることはできないが、古文書総体の体系を意識しながら、そのなかで個別に取り上げる古文書の位置づけを考えていくこととする。

演習

明治期社会経済史史料演習
鈴木 淳(日本史学研究室) 2単位 水2
史料の読解、批判とそれに基づく実証論文執筆法を修得する。参加者の発表とそれに関する討論を基本とする。各参加者は、基本的に史料の読解、批判を中心とする発表あるいは論文作成の前提となる研究発表を1回を行う。前者では、国立公文書館所蔵の史料をとりあげる。発表を担当する参加者は、発表の一週間前までに、基本史料と発表梗概を提示する。他の参加者は、それをよく読んで演習に臨むこと。
歌舞伎を読む
古井戸 秀夫 夏冬 4単位 金4
 今年は、鶴屋南北の未翻刻の歌舞伎台本を読みます。具体的なテキストは、受講生の皆さんと相談をして決めたいと思います。
段玉裁『説文解字注』講読
大西 克也 2単位 金5
 段玉裁『説文解字注』は、全巻現存するものとしては最古の字書である後漢の許慎『説文解字』に付けられた注として、最高峰にあるという評価が定着している。緻密な思考の末に練り上げられた段玉裁の文章に立ち向かい、その思考経路を追体験し、検証することにより、清朝の文章の正確な読解力を養うことを目標とする。今学期は漢字の成立と形成の歴史を記した巻十五を冒頭から読む。
アーカイブズ学入門
木下直之・渡辺浩一(国文学研究資料館) 2単位 集中
 アーカイブズ学(archival science)とは、過去の古文書から現代の映像・電子記録まで、行政・企業・大学・個人などの記録史料(アーカイブズ資料)を文化情報資源として保存・活用するための専門科学である。本講義では、国際的な研究動向を踏まえつつ、日本のアーカイブズ(文書館・公文書館)やアーキビストのあり方について考えたい。
 本講義の履修者は、7月と9月に国文学研究資料館において実施される「アーカイブズ・カレッジ」を受講する必要がある。「アーカイブズ・カレッジ」の案内と受講申込み用紙は文化資源学研究室にあるので、履修希望者は各自で国文学研究資料館に申し込むこと。ただし申込者多数の場合は選考を行うことになっている。選考にもれた場合は自動的に本講義の履修資格を失うので、あらかじめ了承されたい。なお本講義の履修は、文化資源学研究専攻所属の学生に限ることとする。
文書とその社会的役割(1)
中村 雄祐 2単位 火4
 複雑な人工物に囲まれた現代世界、特に先進諸国において、文書はありふれた道具だが、私たちが生きていく上では欠かせない存在となっている。この授業では、文書という道具の特徴、その使われ方、個人や社会にとっての役割や問題点を、先行研究を読んだり、私たち自身の文書の使い方を批判的に見直しながら考えていく。いわば、文書を使いながら文書について考えるワークショップである。夏学期は、認知科学や歴史学の先行研究を中心に論じる予定.夏学期のみの受講も可。
文書とその社会的役割(2)
中村 雄祐 2単位 火4
 複雑な人工物に囲まれた現代世界、特に先進諸国において、文書はありふれた道具だが、私たちが生きていく上では欠かせない存在となっている。この授業では、文書という道具の特徴、その使われ方、個人や社会にとっての役割や問題点を、先行研究を読んだり、私たち自身の文書の使い方を批判的に見直しながら考えていく。いわば、文書を使いながら文書について考えるワークショップである。冬学期は,開発援助など,現代的な課題を中心に論じる予定.冬学期のみの受講も可。
近世近代史料調査法入門
吉田 伸之 2単位 集中
 現在も日本各地に厖大に残されている地方(じかた)文書の調査法(現状記録調査法)・研究法の基礎を学ぶ。2003年度以来調査に取り組んでいる長野県下伊那郡清内路(せいないじ)村において、今回は主に土佐屋(原家)文書を素材として調査を実施する。現地に宿泊し、フィールド・ワークとして行う。受講希望者は6月12日までに、日本史学研究室、文学部教務係のいずれかに申し出ること。なお7月15日(水)4限にガイダンスを行う(場所は古文書学特殊講義「近世・近代初期文書を読む」の教室を使う)。参加者は必ず出席のこと。ガイダンスやフィールド・ワーク実施要項の詳細は、5月末に古文書学特殊講義において配布する。また日本史研究室・文化資源学研究室でも配布し、同研究室掲示板と大学院掲示板に掲げる。

論文指導

論文指導 修士論文指導
各教員 夏冬 2単位 月1(隔週)
それぞれの指導教員により適宜個別的な論文指導を行う。 ※修士2年のみ
論文指導 博士論文指導
各教員 夏冬 2単位 月1(隔週)
それぞれの指導教員により適宜個別的な論文指導を行う。 ※博士課程のみ

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参考:文化資源学共通講義(学部向け)

文化資源学入門(1)文化政策概論
小林 真理 2単位 火3
 文化政策は、使われる時代によりその意図する意味合いがかなり異なる言葉です。まずはその理由や意味を十分に考えた上で、戦後日本が文化に対する施策や政策をどのように展開してきたかを知り、現在の課題を明らかにします。
文化資源学入門(2)
木下 直之 2単位 火4
 文化資源学研究室が学部向けに開設する「文化資源学入門2」で、演習形式の授業として開講する。「文化資源学入門1」(夏学期)は小林真理「文化政策概論」を参照。この演習では、文化財保護法が成立する以前に、日本国がどのような理念からどのような保護政策をとり、制度化してきたかについて理解を深める。ついで、現行の文化財保護法が何を引き継ぎ、文化財概念をどのように展開させてきたかを考えるとともに、その限界や問題点を明らかにし、これからの文化財保護と文化資源の開発について考える機会としたい。参加者は開講日までに文化財保護法を読んでおくこと。

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