1.専門について
古代中国語文法及び中国古文字学を研究しています。特に上古中国語といわれる秦漢以前の言語と文字に興味があり、『左伝』や『史記』など伝世文献の他に、近年あちらこちらで出てくる竹簡、帛書、青銅器銘文など、同時代の資料を使って研究を行っています。2000年以上前の資料から見えてくる中国語の姿は大変新鮮で、言語の個性と普遍性とをまざまざと認識させてくれます。中国語は歴史的資料を豊富に持つ世界でも稀な言語です。古代中国語の研究を通じて、歴史言語学に少しでも貢献しうる成果を得ることができればと思っています。
2.今はまっていること
学生時代にオーケストラで弾いていたビオラをまた始めました。幼稚園の保護者サークルでカルテットをやりたいという話が持ち上がったのですが、ビオラ奏者が見つかりません。それを知った家内があろうことか私の過去を暴露したのが発端です。20年近いブランクは如何ともしがたく、ピアノならぬビオラ殺人事件の被害者とならないためにも、練習には消音器が欠かせません。それでもたまに近所の公民館に集まって仲間と合奏するのは、ずっと忘れていた何かが思いがけず舞い戻ってきたようで、とても楽しいひと時です。
3.メッセージ
漢文(古代中国語)というのは、文脈によって如何ようにも読めるというお考えの方が多いのではないでしょうか。それが漢文は難しいとか、漢文には文法がないという見方を生み、漢文を遠ざける一つの原因になっているような気がします。私はかつて駒場の学生であった頃、漢文の授業をいくつか履修しました。その時感じた疑問は、漢文の読解が古くからの注釈や読書経験に依存しており、なぜ他の外国語のような文法規則に基づく厳密な解釈が示されないのかということでした。解釈の依拠を客観的に示すことができないことへの苛立ちと不信が私を文法研究の道へ駆り立てたと言えるでしょう。昔の人は漢文をよく読めたと言われます。それはある意味では確かなのですが、しかし漢文(古代中国語)を貫く太い規則の束は、必ずしも明確に認識されてはいなかったのです。それを解明し、読書に応用することによって、詩であれ、伝記であれ、思想的著作であれ、私たちはより高いレベルの読解を目指すことができるのです。さまざまな制約により、古代中国語の文法体系は、これまで十分には研究されてきませんでした。現代中国語文法研究の飛躍的発展と、電子テキストの充実を契機として、古代中国語文法研究は新たな局面を迎えています。これまでさんざん読まれてきた古代のテキストは、決して堆高く積まれた反故なのではなく、実は宝の山なのです。
文学部の全学向け講義『原典を読む』では、10年近く毎年司馬遷『史記』を読んできました。古代の言葉の面白さを少しでも伝えられる講義を心がけています。気軽に参加していただけると幸いです。